撮影
安定期に入ったということで私たちはジャケット撮影のためにスタジオへと向かった。
ガチャ・・・。
堀『よぉ、来たか。』
佐村『あの女は来ていないよな・・・。』
堀『関西にいるんだから、そう頻繁には来れないだろ。』
佐村『それもそうか。』
ガチャ・・・。
私『あ、堀さん。お久しぶりです。』
堀『おっ、良い形になってきたじゃないか。何ヶ月だっけ?』
堀さんがお腹と何故か胸も見ながらニヤニヤしてる。
私『ろ、6ヶ月になります。(ねぇ・・・この前もそうだったけど堀さんって、そういう癖があるの・・・?』
佐村『(俺が知るはずないだろ。まぁ・・・我慢してくれ。)』
嫌悪されるよりはマシか。私は自分にそう言い聞かせた。
堀『じゃあ、早速撮影しようか。奥さんはそのままでいいんだけど、佐村はどうする?』
佐村『俺も私服でいいんじゃないか?』
堀『お前、服のセンスまるでないだろ。その服なら上半身裸の方がマシだ。』
私『は、ハダカ!?』
佐村『俺だけだよ。』
サムは上半身裸になった。
堀『奥さんはお腹だけ出して、自分が楽な姿勢で座って・・・そう。佐村はそのお腹に耳を当ててくれ。』
私『サム、それ膝枕じゃない。』
佐村『以外とキツい姿勢だな・・・。』
堀『男が根をあげるなよ。』
私『堀さん、私スリーショットで撮りたいんだけど。』
堀『そういえば・・・屈むような姿勢出来ます?』
私は屈んでみた・・・出来た。ちょっと苦しいけど。
佐村『・・・早く撮れよ。』
堀『わかってる。なんでいらいらしてんだよ(笑)』
私『煙草止めようと頑張ってるから。』
堀『禁煙失敗したとき、俺たちに絶対にやめないって熱弁してたのにな。』
私『熱弁!?』
佐村『いいから、早く撮れって!!』
カシャッ
堀さんは数枚の写真を撮ってくれた。
佐村『・・・もう、いいか?』
堀『オーケーだ。』
堀さんはパソコンで何かし始めた。何してるんだろ・・・さっぱり、わからない。
私『ねぇ、サム、ちょっと太ってきてない?』
佐村『そうか?』
私はサムのお腹をつまんだ。ぷにぷに。
私『絶対、太ってきてるよ。』
佐村『煙草やめたら食事量が増えるから太るんだよ。』
私『えっ・・・。』
佐村『俺が少し太るのと、お腹の中の赤ちゃんの危険、どっちが大事だ?』
私『赤ちゃん。』
佐村『即答だな、おい!!もう少し、悩んでくれるかと思ったのに。』
私『サムは出産後に私とダイエットすればいいじゃない。』
出産後にダイエットなんてしたらダメだって医者には言われたけどね。堀さんが呼んでる。
堀『どうだ?』
佐村『いいじゃないか。』
私『モノクロなんだね・・・。』
なんだか涙が出てきた・・・私、幸せなんだ・・・母親の顔になってきてる・・・。
佐村『改めて写真で見ると、お前、お袋さんに似てるんだな。』
昔はそんなこと言われたら全力で否定してたんだけど、今は否定しないよ。むしろ嬉しい。
私『・・・ありがとう。堀さんもありがとうございます。』
堀『いやいや。こっちもいい写真が撮れた。そういえば曲はどうなったんだ?』
私『ふふ、サム?』
佐村『麻里のアイデアも貰って完成させたよ。』
堀『そうか、何曲だ?』
私『一曲。』
堀『一曲!?ボツにして、ミニアルバムに入れた曲数に足りないじゃないか!?』
佐村『10分越えの大作なんだよ。麻里と色葉は正反対に見えて、実は重なる部分も多いから、2人の人生を題材に書いてみたんだ。』
堀『その2人を題材にした歌をお前が?』
私『歌うのは私と麻里で、サムはギターとコーラス。』
堀『麻里が!?佐村も奥さんも心が広いな・・・。』
佐村『心が広いのは麻里だ。』
私『うん。』
振られた彼を奪った友達の悩みも聞いてくれるなんて心が広いもんね。
堀『レコーディングは?お腹に力入れられないんじゃないか?』
佐村『それを逆手にとって、優しい歌声で歌ってもらうんだ。』
堀『そうか・・・で、いつレコーディングするんだ?』
佐村『早めがいいよな。』
私『そうだね、今調子がいいし。』
堀『麻里の都合は?』
佐村『そこなんだよな・・・本当は今日、撮影を見学する予定だったんだけど、昨日、電話で急に仕事が入ったって連絡があったんだよ。』
私『仕事が不定期だから、いつかゼロになるんじゃないかって不安そうだった・・・。』
佐村『仕事が入っていても、急にキャンセルなんてザラみたいだしな。』
堀『じゃあ、レコーディングの日にちはまた改めて検討するということで。それまでにスタジオの空気を綺麗にしておこう。元気な子供が生まれてくるといいな。男の子?女の子?』
私『男の子です。堀さんって、子供好きなんですか?』
堀『ああ。でもモテないんだよな・・・。』
私『同じくモテなくて悩んでる人、私、知ってるよ。』
堀『だれ?』
私『麻里。』
堀『麻里は、顔だけだもんな・・・。』
私『そんなことないよ。私が保証する。』
保証だって。他人ごとだから言える言葉なのかもしれない。
佐村『お互い相手の素性がわかってると、これから付き合うっていうのは難しいよな。麻里はお前が酒に呑まれることを知ってるし、お前は麻里が不器用だって知ってるもんな。』
私の励ましをぶち壊すサム。ちょっとイラっとした。
私『そろそろ帰ろうか。ショッピングもあるし。』
佐村『ショッピング!?』
私『じゃあね、堀さん。付き合ってみたら意外といいかもよ。ほら、行くよ!!』
ガチャ・・・。
堀『麻里か・・・。』
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佐村『ショッピングってどういうことだよ!?服なら買ったじゃないか!!』
私『つべこべ言わない。休暇なら休暇らしくサービス、サービス。』
佐村『なぁ・・・俺にも我慢の限界ってやつがあるんだよ・・・。』
あれ、ちょっとマズい?
佐村『!?』
私『えっ!?』
サムはいきなり私の腕を掴み通りに入った。
私『ご、ごめんってば!?妊娠中だからって調子に乗りすぎてた・・・。』
佐村『違うんだよ・・・あの女がいた。』
私『ウソ!?関西に住んでるんじゃ・・・。』
佐村『人見か・・・?』
私『人見が転がされてるってこと?もしかして、昔の私と同じような女なのかな。』
佐村『もしそうだとしたら、昼間に出歩いてるのはどういうことだ。』
私『昼間はね、明るいでしょ?だから、あまり外に出歩かないようになるの。それでも昼間に出歩かなくちゃならないときは、なるべく目的地まで最短の道を歩くんだよ。』
佐村『あの道が自宅までの最短距離だよな・・・。』
私『私たちが不在だから、帰ってるのかな・・・ははは・・・後を付けてみる?』
佐村『いや、人見に電話してみよう・・・ショッピングは、また今度な。な?』
私『しょうがないね。』
ショッピングが延期になった。




