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辺境領リネルメ興隆記  作者: 常世神命
五章 農政改革
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十六話 大凶作 

ベリアル「いつもありがとうございます・・・暑いねぇ」

セフェラ「そうだよね。気温は下がったのかも知れないけど、湿度が上がったから殆んど変わらないよ」

ベリアル「お盆で世間は帰省している人が多いよね」

セフェラ「アチキは帰省しなかったけど、奇声を上げちゃうよ?」

ベリアル「いや、そんな無駄な事しなくていいから、そして面白くない・・・で、今話は表現的に一寸・・・というのは有りますが、作者であるセフェラの描写力が壊滅的なため、オブラートに包みきれていませんので、その点ご承知おき下さい」

セフェラ「ホントすいません。それでは、十六話、大凶作をどうぞ」

アジェラルの事が一段落して、ザールラントに戻って来ると、サラが深刻そうな顔をして、あたしに相談しに来た。


「リル様。実は、お耳に入れて頂きたい事が有りまして、先ずはこちらの紙をご覧下さい」

サラはそう言うと、一枚の紙をあたしに渡す。


それは、ここ半年程の気象データだ。

それに依ると、昨年の十月頃から領内の降水量が減少して来ているのだ。


あたしの所は、気象データ自体がまだまだ少ないので、過去五年のデータの平均値を平年としているが、十月が3%、十一月が7%、十二月が11%と来て、年が明けた一月が18%平年より少ない、そして今月は、今日で丁度月の半分だが、それでも平年の半分も降っていない。


「このままでは、今月の予想降水量は平年の六割程・・・いやもっと悪くなるかもしれませんね」


「今は乾期だから大して影響は無いけど、問題はこれから雨期に入ってからよねぇ」

気象データを見てあたしは険しい顔になる。


「そうです。降雨を充てにしないラゼリアラントは兎も角、それ以外の当辺境領及び、王国内は降雨が無いと農作物に深刻な影響が出ます。その上、この現象が世界的なものなら、大飢饉が起きますわ。ですので、今から緊急の予算編成をして、事態に当たらないと、未曾有の危機に発展しますわ」

サラは、事の重大性を懇切と唱える。


「・・・これはもう待った無しな状況ね。分かったわ、メアラ達を呼んで頂戴。緊急会議を開くわよ」

遺憾ながらサラの予想は恐らく的中してしまう。

そう思い、あたしは緊急会議を召集した。





「えっ!何この数字。間違いとかじゃないの?」

ベリアルはあまりの事なので、厳しくサラを詰問する。


「間違いでは有りませんわ。この気象データは純然たる事実です」

それ対してサラは事実無根ではないと反論する。


「ベリアル。認めたく無いのは分かるけど、刻一刻と事態は深刻化しているのよ。その上、わたし達しかこの先に起こり得る事態を想定出来ていないのよ」

あたしは淡々とベリアルに話す。


「うー、分かってるけど・・・あーもう、何でリルが国王じゃないのさ」

ベリアルはいつもと違い精細を欠いている様で、少々錯乱していた。


「少し落ち着いてよベリアル」

あたしはいつものベリアルに戻って貰うべく、ベリアルに後ろから抱き締める。


「あー、うん、ゴメンねリル。こんな時だから冷静になって善後策を講じないといけないよね」

それが功を奏しベリアルはいつもの落ち着きを取り戻した。


「問題は難民よね・・・メアラ。予想ではどれくらいになりそう?」


「さぁ。この私でも皆目見当付かず、最低で十数万人規模としか言えませんねぇ」

あのメアラすら未曾有の事態に顔が暗い。


「メアラが想定している最悪の場合はどれくらい?」


「私は、世界中から凡そ数百万人の難民が押し寄せると思います」

メアラの顔は更に暗いなる。


「難民より、戦争だよ戦争。周りより豊かなこのリゼルアを目掛けて周辺国の軍隊が殺到するよ」

ベリアルが尤もな指摘をする。


「そうねぇ。ラナバルラントは真っ先に攻めて来るわね」

あたしは、天を仰ぎ見た後皆に向き直る。


「兎も角、メアラ。貴女には、宰相と改革派領主連合にこれから起こり得る事態とその説明に。ベリアルはタレザと協力して、対ラナバルラントの対策にアジェラルに向かって頂戴。サラはここに残ってわたしの代わりに陣頭指揮を。あたしは、ティアとふたりで共和国に行って来るわ」

あたしは席を立ち、皆に指示を出す。





「メアラ殿。その話しは真ですか?」

メアラの報告に宰相のロアンは驚愕する。


「遺憾ながら。私達では保守派の領主に働き掛ける事が出来ませんので、宰相殿には対策を含めその辺をお願いしたく参った次第です」

憂いを帯びた表情でメアラは告げる。


「・・・・・・承知致しました。残念な事ですが、事が起こってから対処するのではなく、今、知り得た事は正に天祐です!お任せ下さい、被害を最小限に出来る様頑張りましょう。それから、アジェラルをお願いします」

ロアンはしばらく考えた後、宰相としてこの国を支える決意を新たにし、ラナバルラントの事をリルに託す。





「番頭さんは居るかい?」

ベリアルはドンカッター商会リネルメ支店に来ている。


「おお!これはこれは、ベリアルはん。どないしたんでっか?」

奥からドルトンがいつもの調子で出てくる。


「ちょっと頼みたい事が有るんだけど、今年の領政府の税収7億ズゼ余り有るけど、その内3億ズゼを使って、出来るだけ穀物特に小麦を中心に集めて下さい」

ベリアルはアジェラルに向かう前に、難民対策のためドンカッター商会を通じ膨大な量の穀物の買い付けに来たのであった。


「えっ!?ベリアルはん。また悪い冗談を・・・」


「冗談じゃないよ。領政府の代表代理として来ているの」

ベリアルはいつにも増して真剣な顔付きになる。

ベリアルは事の次第をドルトンに話す。


「ホンマでっか?そりゃエライ事でんなぁ。承知しましたわ・・・こりゃ上にも上げないけまへんなぁ」

ドルトンはいつもと違い商人の顔になっていた。





シリアス展開ですが、アジェラルに付きましては、諸事情に因り割愛します。


「えっ!?リル様!あんまりな仕打ちにございます」

タレザはサメザメと泣く。





「何か凄い事になってるよね。アフリカとは訳が違うものね」

ティアは苦笑をする。


「そうなのよね。この世界は緩やかだけど、寒冷化が進行中で、メアラの調査に依れば、各国の食糧自給率はギリギリ自給自足が可能な程度で、輸出出来る国は片手指折りで数えられる程度しか存在しないらしいし、我が国も何とかなっている程度の生産量しか無く、今回より程度が軽くても、即飢饉という話しはセバスチャンから聞いたわ。過去何回か飢饉はあったらしいわね。今回の事を話したら「お嬢様のお陰で今回は飢える人が沢山減るでしょうな。お嬢様は天が遣わした神使いの様です」って言っていたわ」

あたしが経緯を話した時のセバスチャンは、今年は凶作になるかも知れないと薄々感じていたらしい。

そこは、亀の甲より年の劫よね。


あたし達は、リベブルクに向かっている。

・・・ティア便で。

つまりは、あたしだけが乗れる篭をティアが背負い飛んで行く、という物だ。

当然馬車などより断然速く、ザールラントからリベブルク迄は、片道最速三日行程なのだが、ティア便だと、朝三つ刻に出ると、途中休憩を挟み、午後七つ刻半には到着してしまう速さだ。


今は丁度昼食休憩をしている最中で、マチルダの作ったサンドイッチに舌鼓を打っていた。


「ティア。やっぱり故郷の事が心配?」

あたしはティアに尋ねる。


「無いって言えば嘘になるけど、もう私はリゼルアの者だし・・・けど、三つ下の末弟が心配かな?」

ティアは憂う。


「私になついていて、いつも「姉上、姉上」って身贔屓だけど可愛かったのよね・・・ちゃんとご飯食べてるかな?・・・病気してないかな?・・・電話が在ればなぁ・・・・・・ぅぅ」

ティアは話しているうちに会話のが段々下がっていき、終にはすすり泣き始めた。


「大丈夫よティア。貴女の自慢の弟なんでしょ?」

あたしは、ティアを抱き寄せ、背中をポンポンと軽く叩くと、ティアは頷く。





リベブルクに到着した翌日、ゼトルが店を開けている市場に向かった。


「おぅ、嬢ちゃん。今日は買い付けかい?」

ゼトルは気さくに話し掛けてくる。


「あら、鋭いじゃない。穀物を小麦を中心に出来るだけ集めて欲しいのよ。取り合えず予算は1億ズゼで、前金で5千万ズゼ用意したわ」

あたしは、王国金貨50枚が入った袋をカウンターに出す。


「おいおい、何か尋常じゃない量だが、どうしたんだい」

ゼトルは高々金貨一枚程度の買い付けだと思っていたのか、訝しげな様子でこちらを見る。

あたしは、ゼトルに事の次第を話す。


「そりゃあホントになるのかい?」

突拍子も無い内容なので、ゼトルは聞き返してくる。


「かなり可能性は高いわ。わたしの私見で言わせて貰えれば、間違い無くこの先大干ばつは起きるわ。これからは、貴方と取引が終わったら、外務局へ国使として警告しに行く予定よ」

そうゼトルに答える。


「そりゃ大変だなぁ。こりゃ、こっちもうかうかしてられんな・・・まぁ、そういう事だから、嬢ちゃんも頑張んな」

ゼトルはあたしにそう言った後、部下に色々指示を出し始めた。






「ホウホウ、そうですか。これは用心が必要ですなぁ。明日には早速関係各所に通達しておきます。因みに、そちらは対策はお進みですか?」

ブロリーはそう言うと、あたしに尋ねる。


あたし達は今、共和国の首都に在る、外務局のブロリーの執務室に来ている。

完全なアポ無し訪問なのだが、丁度半刻位は時間に余裕が在るという事なので、直ぐに通してくれた。


「お恥ずかしながら、王国では、わたし達改革派と保守派とで緩やかな対立が続いているので進捗は芳しくありませんわ」

あたしは困惑した表情を浮かべそう答える。


「そちらもですか?こちらも、与党の民進党と最大野党の改革連合の対立が最近顕著になって来ています。因みに、私は民進党と連合を組んでいる自由党に所属しています」

ブロリーは、やれやれといった表情でそう話す。



「今日はありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ貴重な情報が得られて助かりましたよ。起きて欲しくないですが、万が一大干ばつが起きたとしたら、何も知らない状況ですと、我が国でも未曾有の被害が出たかも知れないですなぁ。しかし、この情報を元に対策をすれば、被害や混乱は最小限に抑えられると確信しています。ほんとうにありがとうございます」

ブロリーはそう言うと、あたしと握手を交わす。





容赦無く照りつける太陽。

水が無く枯れるにまかせる作物。

溜め池の水も干上がり、各地で嘆きの声が上がる。


「おっかぁ、おなかすいたよぅ」


「ごめんねぇ。今日も豆粥で・・・」

母は子に一杯の粥を渡す。

豆の粥と言っても数粒の豆をよく挽いて、何倍もの水で煮たおもゆの様な物だ。


「ん?おっかぁは食べないの?」

子の様子を見るだけの母に、子は不思議そうにそう聞く。


「おっかぁはねぇ、今はお腹一杯なんだよ。だから遠慮せず食べなさい」

自身はお腹が空いているのに、悟らせまいとそう嘘を吐く。


この母子(ははこ)に限らず、どこもその日食べる物にも事欠き、餓死者を火葬する煙りが各地で上がる。





あたしがブロリーと会談したのは二月の末頃。

で、今は七月になったばかりなのだが・・・


「降らないわねぇ」


「ホント降らないねぇ」

あたしとベリアルはそう言い合う。

そう、あれから三月中頃に降雨が有ってから三ヶ月半全く雨が降っていないのだ。

辺境領は、自動揚水システムを拡充し、ラゼリアラント以外でも干ばつの被害を抑える事が出来、今年は例年通りの収穫高が見込まれるし、改革派領主連にも技術提供をして彼の地でも干ばつの被害を抑えるのに一役買っているが、保守派の方は宰相閣下の努力も不調に終わり、農作物の被害は甚大で、今年は不作ではなく凶作になるという話だ。

どれだけの収穫高になるか分からないが、サラの予測では通常の年と比べて、良くて(・・・)三割が精々という話しだ。


この世界は良くも悪くも、その税収の大半は農業からに依る所が殆んどで、あたしの所みたいに、工業や商業からの税収は少ない。

なので、例年通りの税収を確保するならば【増税】しかないのである。





「お嬢様!」

サラが慌ててあたしの執務室に入って来る。


「どうしたの。先ず落ち着きなさい。ほらお水」

あたしは薬缶の中の冷めた白湯を、コップに入れサラに渡す。


「プハァ・・・申し訳ありません。それより、保守派の領地で一揆が発生しま・・・あれ?お嬢様、何かしましたね?」

サラは怪訝な顔付きになり、あたし達を見る。


「まぁ、何かって程では無いけどねぇ」


「ベリアルが、少ーし保守派の領地に噂を流しただけよね」


「そうだよね。今回の事は、保守派の領主は干ばつが発生するのを知りながら、私腹を肥やすのに夢中で、中央からの指示を無視していた・・・なんて話しを流しただけだよねぇ」

あたしとベリアルは、イタズラが成功した子供の様に笑顔を浮かべる。


「噂処か、私腹を肥やすのに夢中以外事実じゃないですか!・・・ハハーン。これを期に保守派を追い落とすつもりですね?」

サラは、最初こそ憤慨していたが、感じる物があったのか、こちらはこちらで悪巧みをする時の様な感じの顔になっている。


「ところでサラ。難民の状況はどうなっているかしら?」

先月中頃から難民が流入し始めた。という報告が有ったので、サラの尋ねてみる。


「難民ですか?難民でしたら、先月に確認されてからザールラントで凡そ500人、デッセンラントで凡そ2,000人、アジェラル全域で凡そ10,000人確認されています」

サラはそう告げる。


「思っていたより深刻ねぇ。アジェラルの場合はほぼラナバルラントからよねぇ・・・アジェラルの方はラナバルラントの工作員が紛れていないか、徹底的に調べて頂戴。それと、入国審査を厳しくする事と、国境警備を密にして密入国を阻止して頂戴」

あたしはサラにそう指示を出す。


「それでよろしいので?」

サラは聞き返してくる。


「仕方ないわ。これから、国内の難民が流入して来るだろう時に、他所(よそ)の国の難民迄面倒見れる程、ウチは豊かでは無いわよ」


「確かにそうですね・・・分かりました。関係各所に至急通達しておきます」

サラはそう言うと執務室を退室する。





「パンを寄越せ!重税を止めろ!」

東の保守派のとある町で、農民や市民二千人余りが、農具等を手に持ち、領主の館に向け、抗議行動を起こしている。


「貴様ら!ここでこんな事して良いと思っているのか!直ぐに解散しろ!」

領主の私兵が民衆に向かってそう怒鳴る。


「何だと!お前ら邪魔をする気か?・・・構わねぇ、やっちまえ!」

リーダー格の男がそう煽ると、抗議行動を行っていた民衆は、私兵の部隊に襲い掛かる。

しっかりとした装備をしている私兵だが50人程しか居ないので、二千人の民衆が雪崩れ込んで来たら、いくら相手の武器が農具であってもひとたまりも無い。


暴徒化したデモ隊は、その勢いで領主の館や政庁を襲撃し、遂には領主を血祭りに上げ、蔵に有った大量の食料を強奪し、その領地を乗っ盗る事に成功するのである。

その後その集団は次第に数が増え、それから僅か一週間で一万人を超える規模の集団になった。


それから、保守派の領地では各地で一揆が勃発し、一揆勢に占領される町も少なくない。

最早、保守派の領地に限って言えば、内乱状態に有ると言っていい。

ベリアルの流言飛語は、それをいくらか早めただけで、いずれ保守派はその行為の代償を、おのが血で清算せねばならないのは確実であった。

ベリアル「ここまでありがとうございます。誤字、脱字など有りましたらよろしくお願いします。それでどうなの」

セフェラ「どうなのって?」

ベリアル「この章は、この話で終わりかまだ続くかって事」

セフェラ「ウーン。話しで保守派の領地内が内乱状態になってしまったから、この話で終いにするか、もう一話続けるか悩み中」

ベリアル「じゃあ、次話は時間掛かりそうなんだ」

セフェラ「出来るだけ早く上げたいけど、2、3日中には間違い無く上がらないねぇ。早くて一週間後か、今月中にあと二回は更新したいから遅くとも10日くらいかなぁ?」

ベリアル「先月が先月だし、もうひとつの方は、6月に二話目を更新してから音沙汰無しだから、こっちも近々更新しないとねぇ・・・いくら見る人が殆んど居ないとは言え・・・」

セフェラ「本編優先だから、どうしても後回しになっちゃうねぇ。こっちも近い内に更新したいねぇ」

ベリアル「兎に角、読者の皆様も熱中症に十分お気を付け下さい。それでは、今後とも、新米辺境領主リルーエットの、異世界奮闘記をよろしくお願いします」

セフェラ「あと、ブクマとかしてもらえると励みになります」

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