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辺境領リネルメ興隆記  作者: 常世神命
四章 領地興隆
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十一話 好景気になりました

ベリアル「いつもありがとうございます。それで、今回はまあまあ長いねぇ」

常世「色々話しを盛ったけど、好景気に沸く辺境領の感じは伝わるかな?」

ベリアル「多分十分の一も伝われば良いんじゃないの?僕から言わせて貰うと、全然、全く、少しも、微塵も、これっぽっちも、伝わらないと思うよ」

常世 orz  「いや、少し位は・・・」

ベリアル「無いね」

常世 バタリ

ベリアル「ほらほら、現実逃避してないで・・・それでは、好景気になりましたをどうぞ」

翌日、あたしはルシフェルを伴って、リネルメ土木の事務所に向かった。

今は三つ刻を少し過ぎた位だが、土木屋の朝は早い、誰かしら居るだろう。



窓から中を覗くと、事務長が机に突っ伏して寝ているのが分かる。

どうやら、遅くまで仕事をしていて、そのまま寝てしまったようだ。

あたしは中に入ると、事務長に声を掛ける。

「おはようサラさん。ちゃんと宿直室で寝ないと、体調を崩すわよ」


事務長の名は、サラ=エーデレンス。

年の頃は二十七才、ピンクの髪をツインテールにし、目はブルーで、身の丈はあたしより頭ひとつ分高い。

出身国は東隣の、エーデレンス王国・・・つまり王族なのだが、継承権争いに巻き込まれ、命からがらこの国に流れ落ちた。

当然、この国に(つて)などという物は無く、逃げて来た時に持ち出せた宝石数点をお金に変えて、何とか過ごしていた。

何故このリネルメ土木の事務長をしているかというと、このままでは、再起すら儘ならなくなるから、冒険者になって身を立てようと思い、冒険者ギルドに入った時に、偶然あたしが出していた求人広告を目にして、冒険者ギルドに偽名で登録後、面接を偽名で受けに来た所をあたしがそれを看破し、彼女がガクッと項垂れている所に、採用する旨を伝え、彼女の目を白黒させたのは記憶に新しい。





(セバスチャンに聞いた所、国内での民衆からの人気は高く、本人も常識の有る人だった為に、力を持っていた他の後継者に殺害されそうになったって言っていたわね。あたしも、掘り出し物と思ったけど、ホント事務処理能力だけ言えば、セバスチャン以上よね・・・でも、もう少し手を抜く事を覚えて貰わないと、過労死しかねないわね・・・)





あたしの声を聞いたサラは、ガバッと起き上がった。

「ハヒ。す、すいません社長。おm・・・」

サラは急に起き上がった為、机に着いた手を滑らせて、盛大に転倒する。


「大丈夫?何なら医者を呼ぶわよ。それと、頑張ってくれるのはうれしいけど、ホドホドにしないと、からだを崩すわよ」

あたしがそう言うと、サラは申し訳なさそうな顔をする。


「すいません社長。お手を煩わせてしまって。医者の方は大丈夫ですので。それと、今日はいかがなさいましたか?」

サラは気を取り直してそう言う。


「医者は呼ぶも何も、もう居るんだけどねぇ。リルと話しながらでも診れるよ」

あたしの隣に居たルシフェルがにんまりとした顔で話す。


「ん!?とすると、例の話しはある程度纏まったんですね?」

サラは、あたしがルシフェルと一緒だったのでそう言う。


「そうよ。大体はこの紙に書いて有るから、それを基準にちゃんとした設計図を書いて、建ててちょうだい。これは、領政府からの発注になるわ」

あたしがそう言うと、サラはあたしが持って来た図面を見ながら、あたしに質問する。


「これは、平屋なんですよね?」


「そうよ」


「二階建てじゃダメなんですか?」


「今後、良質な鉄が生産出来る様なったら、鉄筋コンクリート造の物に建て替えるつもりよ」


「そうですか・・・分かりました。え~、一通り見た所、総建設費は凡そ一千万から二千万ズゼの間だと思います。詳細な建設費は、こちらで話しを詰めた後、セバスチャンさん宛に送って置けばよろしいですか?」


「ええ、それで構わないわ」

あたしはそう承諾する。


「サラ嬢は至って健康体だね。但し、働き過ぎは関心しないな。適度に休憩は取りなよ。快活な心、休息、腹八分に医者要らずって言うしな」


「ありがとうございますルシフェルさん。取り合えず、これから一刻ばかし仮眠を取りますね。病院の件はしっかりやっておきます。話し変わりますけど、最近は領内に活気が有りますねぇ」

サラは、病院の話しを一旦終わりにして、近況について話し出す。





「私がご厄介になり始めたのが、街道が完成してまだ幾らも経っていない頃ですが、それに比べると街道を行き交う物や人に、町に増える商店や露店。領民の人出も多いですね」

サラは来た時を思い出しながら感慨深く話す。


「そうねぇ。そこはやっぱり税制を大きく変えたからかしら。今までは収入に関わらず、一定の人頭税だったのを、収穫に因って一定の割合を買い上げて、その一部を税として差し引き、残額を買い上げた代金として、農民に渡す。それにより、農民は多額の現金を手にするわ。実際は月で割った金額を毎月渡す方式だけど、それでも、以前に比べると、農法を変えた事に因る豊作もあって、領民の羽振りは良くなったわ。今は一日二食しっかり食べれる様になったらしいわ」

あたしがそう言うと、サラは驚きの表情になる。


「えっ!今まではそうでなかったのですか?」


「ええ。わたしは、今は一日三食なのを、以前は二食。領民は一日二食食べれるのは週に一、二回。後は朝食べたら終わりの一日一食よ」


「そんなに酷かったのですか?」


「ええ。サラは、ガレンダールという名を聞いた事有るかしら?」


「ガレンダールと言えば、救国の英雄ではないですか・・・ひょっとして社長の・・・」

サラは口元を手で押さえる。


「そう、父親よ。救国の英雄も、内政はからきしでね。この辺境領は、わたしが領主を継いだ当初、国内や近隣国でも類を見ない位の極貧領だったのよ。重税を掛ける訳にもいかないし、国に納める上納金の半分以上は、我が家からの持ち出しとするしかなかったのよね」

あたしは深い溜め息を吐く。


「今の活気からは想像出来ませんね」

サラは少し険しい顔になる。


「王都でパンの値段は幾らだったかしら?」


「確か、銅貨一枚でしたね」


「この領民の、一世帯の一年の所得の平均は大銅貨七枚よ」

あたしが以前の領民の所得額を言うと、あまりの事にサラは驚く。


「大銅貨七枚!?えっ!銅貨にすると七十枚。それでは、七十個しかパンが買えないではないですか!」


「王都だとそうなるけど、このリネルメだと話しも違ってくるわ。ここだと、パンよっつで銑貨一枚。銑貨十枚で銅貨一枚。王都よりずいぶん安いと思っただろうけど、王都のパンに比べ、とても固い上に一回り小さく、味はとても不味い。まず王都では誰も買わないわね。それどころか、これは家畜の餌か?と言われると思う位、ホントに不味い。けど、食べないとホントに飢え死にしてしまうから食べるしかない。後は豆が二、三粒入っている、ほとんどお湯のスープよ。しかも、領民にとって塩は王都以上に高価だから、鍋いっぱいのスープに、ほんのひと摘まみしか入らない。そんなんだから、味も素っ気も無いスープよ。そのスープでパンをふやかして、飢えを凌いでいたのよ」

あたしが話している最中、サラはあまりにも凄絶な事実に天を仰ぐ。


「それなのに、それなのに、この領民は、優しく、温かく、道ならぬ事は無い・・・ええ、ええ、私は貴女を支え、この領民を支える為に、神は私をこの地に遣わしたのですね」

サラは空知らぬ雨を降らせながら語る。


「ええ、確かにそうかも知れないわね。わたしは、道を以て欲を制すれば則ち楽しみて乱れぬ領民を誇りに思うわ」


それから、あたしはサラと一刻ばかし話す。


「そうそう社長。学校の見積書が出来ましたので、目を通して於いてください」

そう言うと、サラは一冊の書類をあたしに渡す。


「出来たのね。分かったわ。屋敷に戻ったら、しっかり見させて貰うわ」


「よろしくお願いします。病院の件は、早急に工事部の者と相談し、見積書の方を作成しておきます」

サラは早速、部下に指示を出していた。





とりあえず、今日の用件は終わったので、ザールラントの町をぶらつく事にした。

先ずは、ドンカッター商会をひやかしに行く。


「こんにちわ。ドルトンは居るかしら?」


「いらっしゃいませ領主様。番頭は所用で王都に居る為に不在ですが」

店員は、申し訳無い様な顔をして、あたしに話す。


「そう。それは残念ねぇ・・・あっ!いいわよ。今日はひやかしに来ただけだから」

こちらに来て、接客しようとした所を、他のお客様の方の相手をする様、丁重に断る。


「それより、最近調子はどうなの?」

棚の商品を見ながら、カウンターの店員に話し掛ける。


「街道が出来てからと言うものの、日々商いの額、量共に右肩上がりですよ。仕入れたら、仕入れた分だけ捌けるものですから、結構忙しいですよ。番頭はその件で、本店の方に行っています。早く人員を増やして欲しいものです」

店員は、疲れている様子を見せず、嬉しそうな口調で話す。

実際、以前に来た時と比べると、出入りする利用客の数は、倍どころの話しではない。


「ん~。これを貰うかしら」

棚に有るネックレスの目を止める。

値段は銀貨一枚と大銅貨五枚、一万五千ズゼ(約30万円)

農民の今年度の平均所得(街道建設の報酬は除く)は二万ズゼ位だから、その高さが分かるだろうか。


「・・・それでしたら、こちらの方が領主様にお似合いですよ」

そう言って、店員は0がひとつ多いネックレスをあたしに渡す。


(この店員、何気に商売上手ねぇ)

あたしは、内心渋い顔をする。


「ねぇふたり共、どちらが似合うかしら?」

あたしは、ルシフェルとタレザのふたりに聞いてみる。


「ん~、どうかなぁ。あたしは、最初の方がいいと思うけど、店員が勧めたのも捨てがたいねぇ」


「それでしたら、両方購入されてはいかがですか?最初の方は普段使いに、店員のお勧めの方は晩餐会の時とかという感じで、使い分けられてはどうですか?」


「それもそうねぇ・・・それでは、ふたつ共包んで貰えるかしら?」

タレザの提案に、あたしは納得し、ふたつ共購入する旨を店員に伝える。


「ありがとうございます。それでは、いつもご贔屓にして頂いている領主様の為に、当方も勉強させて頂きまして・・・これ位でどうでしょうか?」

店員は、ネックレスふたつの値段を提示してくる。


(大銀貨一枚と銀貨二枚かぁ・・・まぁ、物から言えばまあまあの値段よねぇ・・・)


「ん~。もう少し何とかならないかしら?」


「おお。領主様も商売上手・・・分かりました。もう少し勉強させて頂きましょう」

あたしがそう言うと、店員は右手を額に当て、参ったという感じになる。


大銀貨一枚と銀貨一枚になったけど、あたしは考え込んで、難色を示しているフリをする。


「おお。領主様はわたくし共に死ねとおっしゃるのですか・・・分かりました。最大限に勉強させて頂きましょう」

店員は、また同じ様なリアクションをしつ、金額を提示する。


「分かったわ。それで頂戴しましょう」

大銀貨一枚。あたしはこれ以上はかわいそうだから、その値段で購入を決める。利益はあまり無いだろう。





「それでは領主様。今後ともご贔屓によろしくお願いします。また何か有りましたらお越しください」

店員は、深く頭を下げ、あたし達は店をあとにする。





店を出たあたし達は、また市場をぶらつく。

市場にはたくさんの人出が有り、活気が有るのを感じる。


以前は市場自体無く、通りを行き交う人もまばらで、ゴーストタウンの様な感じだ。

皆、その日の食べ物も事欠いて仕舞いそうになる程貧しく、ほかの事に気を掛ける余裕は皆無だった。

父親の失策も有るだろうが、この辺境領は、年間を通じて雨が少なく、乾季にはろくに作物は育たない。

雨季には結構な量の雨が降るが、雨季は三ヶ月だけだ。

だから、小麦の単位面積当たりの収穫量は、ほかの領地の半分にも満たない。

冬には、ガガドラク山周辺に結構雪が降るのだが、雪解け水は地中に消えてしまい、辺境領には一本の川も無い。

井戸の数は限られており、手押しポンプの様な物が無い中、井戸水で作物に水をやる作業は、通称〈嫁殺し〉と言われる程過酷な作業だった。


今は、井戸の数も三倍近く在り、全ての井戸には手押しポンプが設置されていて、幾つかは風車小屋の中に設置させていて、風力に因って自動で水を汲み上げて、畑に水を行き渡らせて居るので、嫁殺しは死語になった。

それに因って、余剰労働力は、作物の世話に回り、今年の豊作を後押ししている。

少ない所でも三倍。多い所だと、以前の七倍の収穫が有り、大が付く豊作になった。

当然、それに因り、農民の懐も温かくなるので、消費が拡大して、今日(こんにち)の好景気に繋がる。





「私がこちらに来た時と違って、雰囲気が明るいですよね」

タレザは、町の様子が良い事を、我が事の様に喜ぶ。


「そうねぇ。これからもまだまだ頑張らないと」

あたしは、決意を新たにし、屋敷に帰るのであった。


ちなみに、買い食いが過ぎて、タレザが悲鳴を上げたのは、別の話し。

(ってか、幾ら何でも限度って物が有るわよ・・・限度って物が)

リル「ここまでありがとうございます。誤字、脱字など有りましたらよろしくお願いします・・・でぇ、あたしも一寸伝わって無いと思うわよ」

ベリアル「ほらぁ」

常世「ダメかぁ」

リル「そこは、要精進じゃないのかしら。しかも、前回少し病院の事を書くとは言ってたけど、少しどころか四割位ズルズルしてるジャン」

常世「ハイ、すいません。言い訳を言わせて貰うと・・・」

リル「言い訳を言って良いわけ?」

ベリアル「・・・まさかの僕も、リルが此処でそんな事を口走るとは思わなかったよ。やれやれ」

リル「しょうがないじゃない。ほら、あんたのせいで、あたし迄あんたと同類に思われるじゃないのよ」

常世「え?違うの?」

リル「違うに決まってるじゃないのよ、バカァ!」

バチン

常世「ぶったな!おやjもごもご」

ベリアル「その台詞は一寸不味いから止めようよ」

常世「一度言ってみたかった・・・そうそう、此処で重大な発表が有ります」

リル「重大な発表とか大袈裟過ぎるわよ」

常世「え?四章はこの回で終わりで、次の章は時間軸が今回から三年後。というのは、重大な発表じゃないの?」

リル「重大過ぎよ。ってか、学校の話しは何処行ったのよ」

ベリアル「確かにちゃんと有ったよ。但し、見積書という形だけどね」

リル「・・・確かに有るわね。学校の話しがこんなんで良いの?」

常世「今後、閑話的な感じで書くつもりだけど、三年すっ飛ばす方を優先しました」

ベリアル「ちなみに、次の章は何てタイトルなの?」

常世「次の章のタイトルは・・・言って良いの?」

リル「ええい!この時点で勿体振るんじゃない!今更じゃないのよ」

常世「じゃあ言うね、次の章のタイトルは、〈農政改革〉で、一話のタイトルは新しい役職に就きました。になります」

ベリアル「兎も角、出来るだけ早く上げようね」

常世「耳が痛いです」

リル「それでは、今後とも、新米領主の奮闘記をよろしくお願いします」

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