六話 鉱山の町に行きました
常世「いつもありがとうございます」
タレザ「今回は、更新に時間が掛かったのだな」
常世「うん」
タレザ「いやまぁ、何も常世を咎めているのでは無い。私とリル様の話しだから、じっくり時間を掛けて且つ濃厚な話しにして貰えれば問題無い」
常世「このリルっち好き好きの百合っ子め」(ボソッ)
タレザ「何か言ったか?」
常世「いや何も言って無いよ。それでは、六話鉱山の町に行きましたをご覧ください」
タレザ「隠し事はいかんぞ常世」
ザールラントに戻って、ターシャと別れた後、あたしはドルトンの所に向かった。
現在、ターシャ以外に鍛冶職人若しくは鉄を扱う者が居ないので、ターシャに預けた以外の延べ棒を、ドルトンに卸す為だ。
ターシャに、献上品とタレザの分のほかに、みっつの延べ棒を渡したので、延べ棒の数としては二十五本になる。
「おぉ、これはこれはリル様。ようお越し頂きました。して、本日の用向きは何でっしゃろか?」
「これを買い取って貰いたいのよ」
あたしは、鉄の延べ棒をひとつカウンターに置く。
「これは鉄でっしゃろか?」
「そうよ。触って見ても良いわよ」
あたしがそう言うと、ドルトンは延べ棒を取り上げ、様々な角度から、延べ棒を検分する。
「・・・ほぅ。これは中々の代物でんなぁ」
ドルトンは、延べ棒の出来映えに、不意に感嘆の声を漏らす。
「それで、幾らで買い取ってくれるかしら?」
「リル様が持ち込む数にも因りますけど、銀貨一枚より下ちゅう事は有りまへん」
「数は二十五よ」
「それでしたら・・・銀貨一枚と大銅貨八枚と言ったところでっしゃろか」
ドルトンは、思案しながらそう告げる。
(ひとつ18,000ズゼかぁ・・・二十五本だから・・・45万ズゼねぇ。まぁ、鉄鉱石自体の値段が中々するから、そんな物かしらねぇ)
「分かったわ。それじゃあ代金は掛けでいいかしら?」
「ほんなら、期日はいつにしまっか?」
「えーと・・・それより、次回鉄鉱石を購入する時は掛けでお願いするわ」
「承知致しました。それでやって置きますわ」
「次回以降もよろしくお願いするわね」
「ほんまでっか?これだけのええ品中々有りまへんから、こちらとしても助かりますわ。それで、これからのご予定はどないなってまっか?」
「北西部の山岳地帯に、また調査に行くので、何か有ったら、マチルダかセバスチャンに言伝てして貰えるかしら?」
「承知致しました。ほんならその辺は上手くやっときますわ」
「お願いするわね」
ドンカッター商会リネルメ支店を後にしたあたしは、屋敷に向かった。
「ただいま。今帰ったわ・・・マチルダ。わたしが留守の間、何か有ったかしら?」
「お嬢様お帰りなさいませ。特に何事も有りません。強いて言えばこちらですかね」
マチルダはそう言うと、とある一室の扉を開ける。
そうすると、部屋の隅に誰かが踞って居るのが見て取れる。
(・・・ここ、確かタレザの部屋だったわねぇ。)
あたしは、タレザの後ろからタレザに抱き付く。
「ただいまタレザ。ゴメンねぇ、置いてきぼりにしちゃって」
そう言うと、タレザは涙で濡れた顔をこちらに向ける。
「リル様ぁ。何故私を置いて行ったのですかぁ・・・」
「これからたくさん頑張って貰いたかったから、休息をして欲しかったのよ。」
そう言うと、タレザは、悲しみに暮れていた時とは一転して、満面の笑みを浮かべる。
「そうだったのですか。リル様の御念には、このタレザ感服致します。今後とも粉骨砕身頑張らせて頂きます」
「良かったわ。分かって貰えて。タレザ。明日から山岳地帯に行くから、今からで悪いけど、仕度して貰えるかしら?」
「承知致しました。早速・・・と、言いたいところですが、人数は何人になるのですか?」
「わたしと貴女だけよ」
「・・・・・・えっ?ふたりだけですか?」
「そうよ。ふたりだけよ」
あたしがそう言うと、タレザはあまりの話しだったのか、固まってしまった。
「マチルダ。一応二十日分の食糧を用意して貰えるかしら?」
「承知致しました。それでは半刻しましたら、倉庫までお越しください・・・お嬢様。それよりコレは如何なさいますか?」
マチルダは、迷惑そうな表情をして、タレザを指す。
「ん?しばらくすれば、戻って来るでしょ?」
「放置されるのですね。承知致しました。それでは後程」
マチルダは、あたし達の出立の準備の為に、その場を後にする。
半刻後、あたしは倉庫に向かった。
「お嬢様。お待ちして居りました」
マチルダの隣には、あたし達ふたり分の食糧が用意されていた。
あたしは、それをアイテムボックスに収納する。
その最中、マチルダが話し掛けて来た。
「お嬢様。作業中申し訳ありません。アレはどうなりましたか?」
「その内来るでしょ?何なら、マチルダ、貴女が連れて来るのかしら?」
「遠慮して置きます。」
「でしょ?」
「ですが、出立が送れませんか?」
「そこは問題無いわ。時間になったら、わたしがひっぱたくから」
「分かりました。それで、出立前に何か軽く召し上がりますか?」
「そうねぇ・・・あと少しで五つ刻でしょ?六つ刻まではまだあるけど、行っている内にお腹が空くでしょうから、軽く頂こうかしら?」
「承知致しました。それでは、後程玄関までお持ち致します」
「ありがとう。それじゃ頼むわね」
あたしがそう言うと、マチルダは厨房に向かった。
あたしは、未だ正気に戻らないタレザを、ひっぱたきに行った。
自室の前で固まって居るタレザを、あたしは平手打ちをした。
軽めだったのか、パチーンと少し勢いの無い音がする。
その直後、タレザは正気に戻る。
「ハッ!リル様。私はいったい・・・」
「貴女は、わたしとふたりっきりで調査に向かう事に、驚いて呆けてたのよ」
「申し訳ありません。直ちに仕度致しまします」
「四半刻の一割の時間で仕度なさい」
「リル様ぁ。いくら何でもそれは無理ですよ」
「出立の時間は五つ刻半(十一時)だから、それまでにしてちょうだい。わたしは玄関で待って居るから。早くしてよね」
「承知致しました」
タレザは、急いで仕度をすべく直ぐ様その場を離れる。
「お嬢様。お待たせ致しました」
玄関でタレザを待って居ると、マチルダが軽食を乗せたカートを押して来た。
「ありがとうマチルダ。早速頂くわ」
「どうぞ、お召し上がりください」
カートの上には、サンドイッチと飲み物として、果物のジュースが用意されていた。
(本当ならアールグレイとか欲しいけど、茶の葉自体流通しているとは言え、かなり高価なのよねぇ。何とか茶の木を入手出来ないかしらねぇ。領南部ならザールラントより温かく、お茶を栽培するには適しているのだけど・・・値が張ってもドルトンに探して貰うかなぁ・・・)
あたしがそんな事を考えていると、タレザが走って来た。
「リル様。遅参申し訳ありません」
「遅いわよタレザ。ほら、マチルダが作ったサンドイッチよ。貴女も食べなさい」
「あぁ、忝い。マチルダ殿、頂戴致します。」
「どうぞ」
タレザは、カートの上に三十程有るサンドイッチを、次々に食べていく。
ものの五分程で、サンドイッチを全てたいらげてしまった。
「ちょっとタレザ。わたしもうひとつかふたつ食べたかったのだけど」
あたしは、まだ多少食べ足りなかったので、不満の声を漏らす。
「はわっ!申し訳ありませんリル様。なにぶん腹が空いていたので・・・」
タレザは、申し訳なさそうな顔をして俯く。
「ほらタレザ!出掛けるわよ。いつまでもそんなにしてると、置いて行くわよ」
あたしは、扉を開け、外に出る。
「あっ、待ってくださいリル様」
タレザは慌てあたしに付いて来る。
山に向かう前に、ターシャの工房に寄る事にした。
「ターシャ。入るわよ」
中に入ると、ターシャは剣を鍛えてる最中であった。
「あっ!お嬢かい。ちょっと待ってな。もう少ししたら一段落するから」
「分かったわ。それなら、あちらで待たせて貰うわ」
「おう」
あたしとタレザが、居間で寛いで居ると、工房からジューと大きい音がして、それから少しすると、ターシャがこちらにやって来た。
「お嬢。待たせて悪かったなぁ」
「それはあの状況なら仕方ないわよ。それより、アレは出来ているかしら?」
「アレかい?それなら出来ているよ。ほらタレザ。お前の新しい得物だ」
ターシャは、タレザに向かって一振りの剣を投げ渡す。
「姉者。危ないから、そう言う物をホイホイ投げないでくれ」
その行為に対して、タレザは姉を諫める。
「悪い悪い。お前なら大丈夫だと、思ったんだよ」
「まったく・・・姉者は・・・」
「それより、その剣はどうだい?」
タレザは改めて渡された剣を検分する。
「・・・姉者。これは凄いなんて代物じゃないぞ。」
渡された剣は、長さ1セル程の細身の剣で。レイピアに代表される刺突剣と、ロングソードなどの中間位の太さの剣だ。
「どうだい?それは、お前の為に拵えた物だ」
「えっ?」
これだけの業物だと、最低でも金貨数枚は下らない。その様な剣なので、タレザは驚き、二の句が継げないで居ると、ターシャが話しを続ける。
「あー、材料と手間賃はお嬢から貰って居るから、金の心配はするな」
言い終わると、タレザがあたしの方を向く。
「わたしが、ターシャに頼んで誂えた物よ。それでより一層頑張って頂戴」
「・・・わ、私の為に・・・・・・謹んで拝領致しまします」
タレザは、片膝を着き、両手を恭しく掲げ、あたしから改めて剣を受け取る。その時、感激のあまりだろうか、タレザの手は若干震えていた。
「ターシャ。あとはよろしくね」
「おぅ。気を付けてな」
あたしとタレザは、ターシャの工房を後にする。
調査予定地に向かうには、先ずは炭鉱に行く必要が有る。
炭鉱へは、ザールラントから、馬車の定期便が出ているのでそれを利用する。
ちなみに、運営しているのは【リネルメ旅客】つまりあたしの会社だ。
話しは逸れるが、リネルメ旅客は、領内は元より、ザールラントと王都及びリベブルクとを又、王都からリベブルク迄の直行便も有る。
「あっ!社長。どちら迄ですか?」
あたし達は、ザールラントの定期馬車のターミナルに在る券売所に居る。
「デッセンラント迄の切符を二枚ね」
「了解です社長。次のデッセンラントの便は半刻ほど先になりますが、リベブルク迄のにしますか?それならもう少ししたら出発します」
「そうねぇ。少し急ぐから、そちらにしますわ」
「了解です。リベブルクの便は三番乗り場になります。あー後、今日の御者は新人ですので、お手柔らかにお願いします・・・はい、リベブルク迄二枚です」
「ありがとう。頑張ってね」
「はい、社長」
受付から切符を貰い、三番乗り場に向かう。
「あっ!お嬢・・・じゃなかった社長。出掛けられるッスか?」
「ええ、デッセンラント迄ね」
あたしに話し掛けて来たのは、馬車の護衛の冒険者だ。
名前はマルク。初めて会った時、お金の様な名前だなぁと、あたしは思ったが、ベリアルもそう思ったらしく、吹き出すのを我慢しているのを覚えている。
冒険者稼業は三十年のベテランで、そろそろ引退を考えている中、王都の冒険者ギルドの貼り紙を見て応募。
見た目は1セル(2メートル)はあろうかと言う長身だが、巨漢というには痩せている。
腕前は、面接の時にタレザも同席していたので、その辺はタレザに任せた。
ここで護衛の仕事をしているので、タレザ的に合格という事だ。
面接に来た冒険者全員が一応に驚いていたのは、あたしも驚いたが、マルクに聞いた所・・・
「えっ?お嬢、知らなかったんッスか?この国は元より、周辺国でも有名ですよ。去年の秋くらいから、姿を見なくなったので、死亡説がまことしやかに囁かれていましたよ。いやー、まさかお嬢の護衛をしているなんてねぇ・・・あっ!すいません社長でしたね。減給は勘弁してください」
とまぁ、この話しは、タレザ本人も知らなかったのは余談であるが・・・
「おぅ、新入り。社長がデッセンラント迄ご行幸に向かわれるから、粗相はするなよ」
「は、はい、マルクさん」
「マルク。わたしは国王でも何でも無く、ただの一領主なんだから、行幸なんて大げさよ」
「いやいや、俺達にしてみれば、社長は王様みたいな存在ですわ」
「・・・褒めたって何も出ないわよ」
マルクの言葉に、あたしは少し恥ずかしくなる。
あたし達は、ほかの乗客と共に馬車に乗り込み、馬車はザールラントを出発した。
「・・・暇ねぇ」
「社長。それは仕方ないですぜ。元々この森は多少の野生動物はいやしたが、魔物は皆無と言っていい位居ませんでしたからねぇ。ま、タレザの姐さんが居るから、居ても何も問題ありませんですがね」
「それより、この森ってなにかしら無いの?」
「この森ですかい?それなら、この森の別名が迷いの森というのは知らないッスよね?」
「知らないわね」
「この森に奥深く入ると、方向感覚を狂わされて、出れなくなってしまうんですよ・・・大した魔物も動物も居ないのにね。両手指折り数える程度ですが、脱出例は有ります。しかし、大半は帰って来る事はありません。なので迷いの森と呼ばれているのですよ」
「・・・そうなのね。まぁ、君子危うきに近寄らずが一番ね」
「名言ですね。確かにその通りです」
「尤も、わたしは観光にも力を入れたいから、近々散策の為の林道を整備する予定よ」
「へぇ。それは凄いッスねぇ。近い将来、迷いの森が王国の観光名所になる訳ですか」
「当然、この森を開発制限区域に指定して、許可無く開発はおろか立ち入りを禁止する御触れを出すつもりよ。その為も有るわね。中に入れないのでは、違反者の取り締まりが出来ないものね」
「はぁ。流石社長。俺達と見ている所が違いますねぇ・・・と、そろそろデッセンラントに到着しますね」
窓から覗くと、行く先に街並みが見えて来た。
「もうそんなに経つのねぇ・・・ありがとうマルク。素敵な時間を過ごせたわ。リベブルク迄頑張って頂戴ね」
「はい、社長」
「・・・ん・・・デッセン・・・ラントに着いたのですか?」
どうやら、タレザは今まで寝ていたらしい
デッセンラントに到着し、馬車を降り、マルク達に別れを告げた後、今日の宿を探す事にする。
現時点で、九つ刻(18時)を過ぎている為だ。
夜営するにしても、今日位はふかふかのベットで寝たいからだ。
宿は、マルクに聞いていたので、直ぐに見つかったが、整備した当初に比べると、建物の数も然る事ながら、行き交う人の数も段違いに増えている。
(リネルメ鉱業には明日顔を出してみようかしら・・・)
そんな事を考えていると、不意に声を掛けられる。
「あれ?そこに居るのは、社長じゃないですか?」
声の主は、リネルメ鉱業の従業員のカペイカだ。
背はタレザより少し高い位で、中肉中背のリネルメ鉱業のデッセンラントでの纏め役をしている。
役職を付けるとしたら、開発部長と言った所だろう。
「カペイカじゃない。今日は仕事は終わりかしら?」
「そうですよ。これから一杯引っ掛けに行く所ですよ。ところで社長はこちらへはどんなご用向きで?・・・まさか!抜き打ちの視察ですか?」
「まぁ、明日様子くらいは見に行くけど、目的は別よ。ゲランダルク山系の調査に来たのよ」
「鉄鉱石ですね?」
「そうよ。御用商人に調達をお願いしているけど量が少ないから、リネルメ製鉄は殆ど稼働していないし、リネルメ窯業で生産されるコークスも、過半数を製鉄に回すつもりだったから、売却に回す分を除きロンテに輸送出来ず、倉庫が一杯よ」
「多少は話しを聞いていましたが、意外と深刻ですね・・・そうだ!社長に具申したい事が有ります」
「・・・何かしら?」
「現状だと、鉄鉱石の鉱脈を見付けても、輸送するのに時間が掛かってしまう事でしょうか・・・」
「・・・馬車のせいかしら?・・・・・・・・・えっ!まさかそんなに交通量が増えているの?」
「そのまさかですよ。このままですと遠からずデッセンラントなどの宿場町で、相当な混雑の発生が予想されます」
「分かったわ。直ぐには無理だけど、街道の拡張計画を進めるわね」
「よろしくお願いします社長。それでは私はこれで失礼します」
「ではまた明日ね」
カペイカと別れたあたし達は、目的の宿に到着し、眠りにつくのであった。
タレザ「ここまでありがとうございます。誤字、脱字等有りましたらよろしくお願いします・・・私が思っていたより淡白だな」
常世「え?淡白って?」
タレザ「それはだな、私とリル様がな夜の宿であんな事やこんな事・・・って何を言わすか!」
常世「いや、タレザが勝手に言ったんじゃんよ。ってか、そんな内容こっちで書ける訳無いじゃんよ」
タレザ「ウム・・・遺憾ではあるが仕方ない。妥協案として、リル様とイチャイチャするシーンの追加を要望する・・・と言うかそれだけで一話分書け」
常世「無理に決まってるジャン」
タレザ「やらぬ前に無理と言ってはイカンぞ。何事もやれば出来るの気持ちでないと」
常世「いや、そもそもそんな内容書く事自体無いから・・・永遠n」
タレザ「何だと!!貴様!それでも王国軍人か!」
常世「いや、アチキ王国軍人違うし・・・リル・・・助けて」
ベリアル「それでは今後とも、新米領主の奮闘記をよろしくお願いします」
常世「ちょ、タレザ。苦しい」




