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1:1か0:2か2:0 台本●翠々構想曲 10分

作者: 七菜 かずは

■タイトル

翠々構想曲すいすいこうそうきょく

※声劇用台本






■CAST

颯姫さつき 翠々(れな)

戯曲小説家。スランプに陥って二ヶ月経つ。本名がペンネーム。いつもだるそう。

天パ。黒髪。お洒落には興味が無い。バツイチ。二十九歳。黒目。身長162センチ。


小椋おぐら 芽実メグミ

れなの担当編集さん。世話好き。れなのことは大体なんでもお見通し。話し方が少し凛としている。

黒髪。スーツ。清潔。独身。二十五歳。茶色目。身長167センチ。






■役表

れな:

小椋:






【開幕】


 真夏。

 ミンミン蝉が、五月蝿い。

 何度パソコンに向かっても。


れな「書けない……」


 原稿用紙に向かっても。 


れな「書けなぁぁぁい」


 鉛筆を放り出し。

 畳の上で、じたばた。

 扇風機の前で、ぼーっとする。


小椋「先生。せ、ん、せ、いっ?」


 いつものように。

 玄関から勝手に入ってきた編集さんが、畳の上で仰向けになったれなの上空から、ひょっと顔を覗かせる。


れな「ハッ。 (何。どうしたの?)」


小椋「もっと声張って下さい。聞こえません」


れな「今日来ても無駄でしたーっ」


小椋「まぁだ何も書けてないようですね。まったくもう。再来月号も、お休み頂くようですか?」


れな「仕方がないじゃないですか。書けないものは、書けないんですよ」


 少し、先生を睨みつけて。


小椋「先・生?」


れな「うっ」


小椋「ほら。パソコンの前に座って」

 

 だらけている先生を、無理やり起き上がらせ、正座させる。


れな「う~あ~や~だ~やめろお~」


小椋「本当に書けないんですか? 何も? なあんにも、思い浮かばないんですか?」


 小椋、いつも通り。デスクトップにある真っ白なメモ帳を開く。


れな「はい」

小椋「ほんとに?」

れな「ええ」

小椋「どう足掻いても?」

れな「まったくもう」

小椋「どうしたらいいんだか」

れな「ええぇ」


 だらけ過ぎて頭を振る。


小椋「理由はわかってるんですか?」


れな「夏だからかなあ~」


小椋「夏だからですか?」


れな「暑い。死ぬほど暑い。もう無理」


小椋「で。もう一度聞きますけど、」

れな「何も思い浮かばない訳じゃないの!」


 パソコンに頭を突っ伏す。

 ggggggggggggggggggggggggと、メモ帳に表示される。


小椋「でも完結させられない。と?」


れな「うん。そお。そお、なん、ね……」


小椋「完全に夏バテですね」


れな「アイス食べたぁい」


小椋「先程食べたんでしょ?」


れな「何故知ってるのですかっ!?」


小椋「そこに、カップアイスの残骸がありんす」


れな「ああ。捨ててぇ……」


小椋「ご自分で」


れな「あい」


小椋「っ。はぁ。先生、では、プールにでも行きますか?」


れな「焼きたくない~」


小椋「水族館とかどうですか?」


れな「誰と?」


小椋「私と」


れな「やだ」


小椋「そうですか」


れな「書けない……書けないぃぃぃぃぃぁああ書けないぃぃぃぃぃぃぃぃい」


小椋「書けないことが苦痛ですか」


れな「そりゃそうでしょ。一応これ仕事なんだから」


小椋「では、その苦痛を文にしてみては如何ですか?」


れな「んんっ?」


小椋「ストライキになった作家の物語」


れな「ストライキ?」


小椋「あっ。間違えました。え~と。すらんぷ」


れな「そんなん書いてもつまんないでしょ」


小椋「じゃあなんでしたら楽しめますか?」


れな「ロリコンの……兄、三人が……」


小椋「珍しいですね。兄弟主体モノですか」


れな「妹一人を、奪い合って、肉弾乱闘事件に……」


小椋「ありがちですねっ」


れな「そーう? じゃあだめだ」


小椋「ある程度のネタはありがちなのは仕方がないって仰ってたじゃないですか」


れな「まあそうだけどさ。でもなんつうのかな、こう、心が踊らないんだよねそう言われちゃうと」


小椋「こりゃ失敬」


れな「書けないわなあ」


小椋「では、久々に絵でも描きますか? 挿し絵を描かせて頂けないか、聞いてみましょうか? 彼方此方あちこち


れな「やだ。絵は時間かかる」


小椋「いいものは時間がかかるんですよ」


れな「わかってるよ」


小椋「ファンタジーが書きたいんですか?」


れな「あぁ……。まぁーね」


小椋「前に書きたいって言ってた、完結したやつの続編は?」


れな「ちまちま書いてる」


小椋「見せて下さい」


れな「ん、はい」


 デスクトップにある、書きかけの物語を、幾つか開いていく。


小椋「他にも書いてるものってあります?」


れな「あー。これと、これと、これと、これ……?」


小椋「なぁんだ、色々書いてるじゃないですか」


れな「完結させられなきゃ意味ない」


小椋「他人に厳しく自分に甘く! がモットーじゃなかったでしたっけ?」


れな「んんんんんー?」


小椋「では。……総評、いいですか?」


れな「もう?」


小椋「いや。この間渡されたやつの、です」


れな「ああ、あれね。あれ酷かった~」


小椋「ほんとに」


れな「迷走中っていうか思考回路暴走脱走中っていうか言い訳も滑舌も悪い」


小椋「あの頃既にスランプでした?」


れな「うんー」


小椋「今回長いですね」


れな「はぁ……だめだっ。寝る」


小椋「先生っ」


れな「やっとなんでも書くのが楽しくなってきたと思ったのに」


小椋「へぇ~」


れな「なに」


小椋「そういうお気持ちになることってあるんですね」


れな「なんだと思ってんの」


小椋「じゃあ~。ランチにでも行きますか?」


れな「奢ってくれんの!?」


小椋「あれだけ素晴らしい数々の作品を世に送り出しておいて。もしかして、今スランプなことを負い目に感じてます?」


れな「……うん」


小椋「どうしたんですか。先生らしくない」


れな「頑張れてないから」


小椋「ただ頑張るのは馬鹿のすることです」


れな「ほら、あたしってさ、資格とか持ってないし。でも、」


小椋「秘書検定、持ってませんでした?」


れな「そんななんの役にも立たない」

小椋「確かに」


れな「一生この職辞める気は無いしな~」


小椋「その志は、認めましょう」


れな「どうも」


小椋「ヨガ、まだ通ってるんですか?」


れな「やめちゃった~」


小椋「高いですもんね」


れな「自尊心が低いの」


小椋「そうですか? 低いのは忍耐力……」

れな「ねえ、どうすればいいのかな~?」


小椋「答えはご自分にしか、わかりませんよ」


れな「書きたい気持ちは凄くあるの」


小椋「ええ、そうでしょうね」


れな「ほんとだよ?」


小椋「はい」


れな「食欲にばっかり負けちゃう」


小椋「豆腐生活してるんじゃなかったでしたっけ?」


れな「あれが美味しいんだよ。ワカメ」


小椋「ワカメ?」


れな「大根おろしとか」


小椋「冷蔵庫の中、一時期ところてんばっかりで」


れな「豆腐にからしつけて食べるとさ、死ぬほどうまい」


小椋「気付いちゃいましたか」


れな「こんな意味の無い話してないで、なんかネタちょうだいよ」


小椋「う~ん」


れな「かっこいい台詞とかさ」


小椋「俺の肉を食え!!」


れな「何? 主人公は神戸牛?」


小椋「肉は食っても、俺は食うな!! ドドンッ!」


れな「肉食べたいの?」


小椋「最近暑くて素麺ばっかで」


れな「だよねえ」


小椋「真面目に考えましょう」


れな「真面目に考えたことなんかないよ」


小椋「先生。そんなことはありません」


れな「おぅぅ」


小椋「今までずっと、真面目にやってきたんじゃないですか」


れな「げぇえ」


小椋「何かそんなに不服なことが?」


れな「新しくバイト始めたんだけどさ」


小椋「えっ!? バイト!?」


れな「だってこのままじゃ食べていけないよ。何ヶ月、何年スランプになるかわっかんないもん」


小椋「現実的」


れな「お金がなきゃ、家賃も払えない」


小椋「ですよね」


れな「で。バイトの話。聞いてよ」


小椋「イヤです」


れな「えっ。なんで!」


小椋「もっと実になる話をしましょう! それか……」


れな「それか?」


小椋「寝ましょう」


れな「おい。えっえっ」


小椋「30分寝たら起こしますから。ほら」


れな「ち、ちょっと。そんな。突然寝ろって言われても、寝らんないよ!」


小椋「いや。寝られるはずですっ。いいですか、睡眠でストレスや疲労は、ある程度緩和されるんですっ」


れな「いやいやいやいやいや。絶対寝らんないって」


小椋「寝て下さいっ。ほらほら。少しのお昼寝は、脳にいいんですよ!」


れな「う~ん」


小椋「目を閉じて」


れな「ん~」


小椋「静か~に。深~く深呼吸して」


れな「う~……ん~」


小椋「遠くに綺麗な山脈が見える、風景を見つめて下さい」


れな「……ん~」


小椋「その遠ーく……。遠ーく……山脈の奥を……飛んでいくようなイメージで」


れな「スコー」


小椋「はい寝た」


れな「スコー」


小椋「おやすみなさい、先生。変な夢、見て下さいね」


れな「スコー」


小椋「さて、お茶お茶。しかし先生はほんとに良く寝るなぁ」


れな「すやすや」


小椋「あっつい」


れな「すぅすぅ」


小椋「冷房の温度、もうちょい下げちゃお」


れな「ぐぅぐぅ」


小椋「ふぁぁ……」






 30分後。


小椋「先生っ。せーんーせっ」


れな「ハッ!」


小椋「どうでした?」


れな「お母さんとディープキスする夢見た」


小椋「わお」


れな「酷い目にあった……」


小椋「ですね」


れな「ふぅぅ……」


小椋「んじゃ! それをあれにしましょう!」


れな「へ」


小椋「それを是非本にしましょう!」


れな「イヤじゃああ!!」


小椋「なんでですか!」


れな「いやっ普通に考えてほんとにいや!」


小椋「いいじゃないですか! ほら、夢占いしてあげますよ!」


れな「やめろおおおお」


小椋「逃げないでくださいよーっ」


れな「もおやだ思い出したくないーっ」


小椋「お母さんとなんでしたっけ!?」


れな「やめろお! 私はっ純粋ハートフルラブコメファンタジーが書きたいのっ!」


小椋「では次回作は、禁断の! 母と娘愛っ!」


れな「いやだあ」


小椋「逆でもいいですよっ」


れな「いやだあ! 次の話は絶対にぃ、虫眼鏡で世界征服をする、格闘少女の大冒険ラブを書くんだああああああ!」


小椋「書きたいもの鮮明に決まってんなら、はよ書けええええい!」


れな「ひゃうん!!」






END

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に一言なのですが、面白かったです。 なんかにやにやが止まりませんでした。
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