3月 (佐伯視点)
「関さん、おはようございます。開店前の忙しい時にお時間とっていただいて申し訳ありません。」
「関さん、ご無理言ってすみません。」
「蘇芳さん、頭上げて下さい。佐伯、気にするな。でも、まさかあいつが寿退社だっただなんて驚いたなぁ…。」
関さんのわざとらしい演技に、パティスリーの空気が変わる。
「夏月が涼に連れて行かれてもう3年か?本当にあいつは仕事出来たからなぁ…。連れて行かれた後はこっちがぐちゃぐちゃで大変でしたよ。仕込みも焼きも仕上げも何でも出来るし、センスも良いし、仕事遅い奴とか技術がない奴のフォローはもちろん、接客もクレーム対応まで完璧にこなしますからね。嫁としてだけじゃなくて、スタッフとしても大事にしてやって下さいよ。」
わざと仕事中のスタッフに聞こえるように声を張って話す関さん。
『寿退社』とか『嫁』という言葉に、明らかに、佐藤が動揺していた。
『仕事が遅い』とか『技術がない』という言葉に、数名が同様している。
「いやぁ、まさか夏月の婚約者が蘇芳さんだっただなんて世間は狭いですね。」
「関さんには本当にお世話になったと夏月から聞きました。直接お会いしてお話出来て嬉しいです。それに、僕自身も関さんの作るデセールは大好きでしたから。」
関さんに負けないくらい、わざとらしい英さん。いやいや、一昨日の夜普通に話してましたよね?それを白々しく、今朝やっと会えたみたいな話し方をする2人。
「そうそう、夏月が辞めた後のデセール、佐伯と俺で引き継ぐことになったんですよ。」
「へぇ…そうなんですか?僕としてはまた関さんのタルトがレストランで頂けるのは嬉しいですけれど、パティスリーのシェフは辞めてしまわれるんですか?」
「ええ。もともとレストランの方が性に合っていますし、うちには優秀?なスーシェフがいるんで。後進に道を譲るのも大事でしょう?」
佐藤の事を話す時「優秀?」と疑問系になっていたので、笑いを堪えるのに俺は必死だった。
「スーシェフは俺の同期で、確か夏月ちゃんの元上司です。そう言えば、スーシェフの佐藤も夏月ちゃんの能力を買ってたみたいですよ?自分がシェフになったら、夏月ちゃんにスーシェフしないかって誘ってたらしいですから。」
俺もわざとらしく言ってやった。
「そう言えば、涼もそんな事言っていたなぁ…。なんでも、夏月をすごく可愛がってくれたとか?そんな佐藤さんと、是非個人的にお話したいんですけど、関さん、良いですか?」
「そういったお話でしたら、ここではうるさくてなんですから、休憩室でどうぞ。ソファもありますし。佐藤の仕事の続きは俺が引き継ぐんで、ごゆっくり。佐伯、蘇芳さんをご案内してくれるか?佐藤、行ってこい。」
関さんの真っ黒い笑顔と、英さんの冷たい笑顔。凄い迫力。
「さぁ、佐藤も行こうぜ?」
俺も笑顔を作るが、目が笑っていないはず。
状況が飲み込めず、呆然とする佐藤を連れて、休憩室へと向かう。
休憩室へ行き、しばらくすると店舗のスタッフがコーヒーを3つ持ってきてくれたが、おそらく修羅場になるであろう事を察しているのだろう。コーヒーを運ぶ手が震えていたし、顔が引きつっていた。
「えっと、佐藤スーシェフ。いや、次期シェフと言うべきかな?初めまして、だよね?蘇芳 英治と申します。水縹 夏月の婚約者です。なんでも夏月が大変お世話になったそうで…。」
「佐藤、この人、ボヌールの上得意様。商談王子って言った方が分かるかもな。上得意様だけあって、関さんも羽田さんも、パトロンも顔見知り。」
俺が英さんについて補足する。
だんだん、状況を飲み込んできた様子の佐藤。顔が引きつりはじめた。
「そうそう、夏月にスーシェフになれって、大変熱心に誘ってくれたらしいね?涼の話によると、確かこの部屋で…だったかな?」
英さんの目はマジだった。冷たく鋭く、恐ろしい。
「え…あ…そんな事も…あった…っけ?」
動揺を隠せない佐藤。
「でも、あいつは涼さんの店に行くんじゃ…。」
慌てて話題を変えてごまかそうとしているらしい。
「涼は俺のパートナー。一緒に店を出すものでね?で、どんな風に僕の婚約者を誘ったのかな?」
その後の英さんの容赦のない事と言ったら、見ているだけで背筋に寒気が走るほど。
当事者の佐藤はさぞかし恐ろしかった事だろう。
英さんは取り乱す様子も、声を荒げる様子もなく、ただ、淡々と理路整然、事実や正論を静かに述べ、目で威圧していった。
しまいには、佐藤が泣いて土下座をして謝ったが、英さんが顔色ひとつ変えることはなかった。
「夏月は優しいし、あなたにされた事を僕には知られたくない様でね。本来ならば暴行未遂で警察に行ってもらうか、裁判沙汰にしたいところですが、夏月の為に敢えてそうはしません。しかし、あなたのした事は許される事ではない。それなりの責任は取るべきだと考えています。」
そう言うと、英さんは立ち上がり、部屋を出た。
そして、俺たちは関さんに深々とお辞儀をしてパティスリーを後にした。
「誠治君、僕のいない間、夏月を頼むよ。」
「英さんは余裕ですね?俺が夏月ちゃんをどうにかするんじゃないかとか思わないんですか?」
「大丈夫。君は信用出来るし…何しろ、夏月は僕に夢中だからね?君じゃとても夏月を満足させられないよ?色んな意味で…。」
先程とは違い、穏やかな笑顔の英さん。
ベットから思うように起き上がれなくしちゃう程気持ちよくさせるとか無理でしょ?…何気にそんな下世話な発言まで飛び出した。
出来ればそういうのは聞きたくない。
そんな俺の様子を見て悪戯っぽく笑って、「宜しく。」とだけあらたまって言うと、彼はパトロンへ挨拶に行った。
英さんはそのまま、夏月ちゃんに会う事なくフランスへ戻って行った。
そして、1ヶ月という時間はあっという間に過ぎ去る。
その間、なぜか毎晩僕のところへ英さんは電話をかけてきた。
『夏月、なかなか電話に出てくれなくてさ…。』
夏月ちゃんは割とスマホを気にしない。
鞄の中に入れっぱなしだったり、店のロッカーに忘れたり、電源が切れていたりするらしい。
それで、繋がらないと、今日の夏月ちゃんの様子を聞くため俺にかかってくるという次第だ。
そして後から気づいた夏月ちゃんが英さんに電話をかけた時、俺と電話中で繋がらない事も多々あったらしい。そんな時夏月ちゃんからは短いメールで一方的に済まされると英さんは嘆いていた。
俺が何度か夏月ちゃんに電話に気付くよう注意したところ、夏月ちゃんが朝起きてから電話をする形に落ち着いたらしい。
しかし少しでも早く彼女の様子を知りたい英さんは、日本時間の夜、俺にかけて来ることを辞めなかった。毎日、夏月は英さんについて何か言っていなかったか?会いたがっていなかったかと同じ事を俺に質問した。
それ程、好きでたまらないのだろう。
しかし、結構面倒臭い。
独占欲も強そうだし、夏月ちゃんは苦労しそうだ。…いや、鈍い彼女にはこの位の人じゃないとダメなのかもしれない。
そう思うと、なんだか複雑な気持ちだった。
頭では、諦めたつもり。
でも、どうにもならないものもあるわけで。
彼女に好きだと告白しなくて良かったと、心の底から思った。
今、こうして気まずい思いをする事なく、笑顔で一緒に仕事が出来るのは、俺の気持ちを彼女が知らないからであるのは間違いない。
諦めたつもりでも、やはり好きなのだろうなと思う。
好きだからこそ、諦めた。
好きだからこそ、告白しなくて良かったと思える。
彼女が英さんの婚約者になっても、彼女の笑顔をそばで見ることが出来るのは幸せだった。その笑顔の理由が、彼を思っての笑顔であってもだ。
今まで通りの関係でいられるだけで十分。
何故なら、夏月ちゃんにとって、英さん以上の人などいないのだから。
とても俺など敵わない。
外見だって、社会的地位だって、生まれだって、持っているものだって…。
いや、それ以上に彼の人間性というか、内面とか、彼女への思いだって、俺が張り合うことすらおこがましい程だ。
決して卑屈になっているわけでも、自虐的になっているわけでもない。
結局、俺も英さんが好きなのだろうな。
決して変な意味じゃなくて、憧れとか、尊敬とか、そんな意味も含めた上で、彼が好きなのだ。
「今度の休み?家に行って良いの?」
「うん、篠山さんも宇部ちゃんも、山田くんも、北上くんも来るの。ものすごく狭いけど…実際、見てもらって相談してもらった方が良いかなと思って。結構希望被ってるし。」
「そうだよね…俺だけじゃないよね…。」
3月最後の休日の午後、俺…達は、夏月ちゃんの一人暮らしのマンションを訪れた。
「夏月さん高そうなとこ住んでるんですね〜!家賃幾らっすか?」
夏月ちゃんに会って開口一番、北上が質問する。すかさず篠山さんに怒られる北上。
「2階だからそこまでじゃないよ。びっくりするくらい狭いし。でもやっぱり、安全第一だから…ここ女性専用なの。来客も普段は男の人はダメなんだけどね、今日は管理人さんに事情を話して許可もらってるから大丈夫だよ。」
家賃は、俺が今住んでいるところとほぼ一緒だった。部屋の広さは俺の方が遥かに広い。
夏月ちゃんの部屋はほぼ片付けられ、片隅にはダンボールが積まれていた。
「でも本当にもらっちゃって良いんですか?まだ新品に近いじゃないですか?」
宇部ちゃんがそう言う様に、家具も電化製品もまだ新しそうだった。
俺たちは、引っ越す夏月ちゃんの不用品でいるものがあればもらって欲しいと言われ、物色しにきたのだ。
「確かに電化製品はまだ買って1年経ってないやつもあるけど、家具はそんなに新しくないから。ほら、電化製品て壊れる時は一気に壊れるって言うでしょ?それがここ2年で集中してて…。まさかこんなに早く結婚するなんて思わなかったから、ちょっといいやつ買っちゃったんだけど…一人暮らしとは使うもの違うじゃない?しかも、英治さん結構こだわるタイプだし…。うっかりしてたら引越し業者予約出来なくて…できたのが単身パックだから家具も家電もほぼ無理なんだよね。荷物は極力減らさなくちゃだから助かるの。捨てるのにもお金かかるし、買い取ってもらうのも面倒だし…。」
そう夏月ちゃんが言う通り、ベッド、ローテーブル、チェスト、テレビ、テレビ台、オーブンレンジ、炊飯器、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、コーヒーメーカーが不要でもらって欲しいそうだ。
新しいのもあるが、丁寧に使っていたのだろう。どれも本当に綺麗だった。
「俺、ベッドとオーブンレンジ欲しい。」
「えぇぇぇぇぇ?それ本気ですか?私も狙ってたんですけど?」
「夏月ちゃんのベッド欲しいとか変態やで?ここは私にベッド譲るべきやで?」
俺が希望を言った途端、宇部ちゃんと篠山さんから起こったブーイング。変態はないだろう変態は。
「俺、テレビとテレビ台欲しいっす。」
「山田、俺もそれ狙ってるんだけど…ジャンケンだ!」
皆の希望は本当に被っていた。いや、実際のものを見て、これなら欲しいと希望が増えてしまったのもあるだろう。
結構、篠山さんが炊飯器と冷蔵庫、宇部ちゃんがローテーブルとチェストとコーヒーメーカー、山田がテレビとテレビ台、北上が掃除機と洗濯機を貰うことが決まった。
もちろん、俺は希望通り、ベッドとオーブンレンジをGet!
「ベッドもらってくれるなら布団も一緒にもらってもらえたら嬉しいんだけど、流石に迷惑だよね?」
「夏月ちゃん、是非下さい。ベッドも布団も寝心地悪くなってきたから、買い替えを検討してたとこ。だからすげぇ助かる。」
しかも布団までもらえる事になった。夏月ちゃんが使った布団で寝れるとか幸せ過ぎる。
夏月ちゃんの匂いに包まれて寝るとか…想像しただけで…。
「佐伯っち、間違いなく変な事考えてるで?」
「流石に今の顔は無しですね。」
「佐伯さん、気持ちは良く分かりますけど、それじゃあ変態は否定できません。」
「そりゃ仕方ないですよねー?だって佐伯さん、夏月さ…。」
俺は慌てて北上の口をふさぐ。それにしても酷い言われようだ。確かに口元は緩んでたかもしれないが…。
慌てて顔を引き締める。
どうやら、夏月ちゃんにはさっきの話も聞かれておらず、俺の顔も見られていない様だ。
話もまとまったところで、皆んなで飲みに行こうという事になり、5人で近くの中華料理屋へ行った。
家具や電化製品は、翌週、レンタカーを借りて同じメンバーでそれぞれの家へ運ぶ事になった。夏月ちゃんの引越しも同じ日だ。
早めに片付けて、既に現地で涼さんが進めている涼さんの店の準備の手伝いをなるべく早くしたいのだそうだ。
「夏月ちゃん、旦那様と住むとこは決まったん?」
「結局、英治さんが1人で住む予定だったところに私も一緒に住むことにしました。近くに賃貸がある訳じゃないですし、流石に建てる訳にもいかないので…。」
英さんなら、建てよう!とか言い出しそうなものだが、流石に店の準備が忙しいのだろう。
「でも、英さんが1人で暮らすつもりだったところなら狭いんじゃないの?」
「それが、広かったの。店舗の3階に住居スペース作ってたらしくって。本人も存在を忘れてたみたいなんだけど…3LDKで。そこに1人で暮らすつもりって…確かに昔も1人で広い部屋に住んでたけど…。」
「やっぱお坊ちゃんは違いますね…。」
その新居も、まだ出来上がっていないので、とりあえずは彼女の祖母のところに間借りするそうだ。
皆でワイワイ食べて飲んで話した。
話題はもっぱら夏月ちゃんの結婚とか新居とか、引越しの話だった。
「でも本当に急やったよなぁ…。私もそうならへんかなぁ?」
「篠山さんも結婚願望あるんですか!?」
「それ、めっちゃ失礼やで?北上ぃ!」
北上は今日はいつもに増して口が軽い。篠山さんの目が怖い。
「自分でもびっくりですもん。結婚なんて諦めてましたし。っていうか、ドレスの試着してそれで満足しちゃったって言うか…。」
「あぁ、それうちの姉も言ってました。私、3姉妹の1番下なんですけど、2番目の姉が結婚する時、1番上の姉が試着して同じ事言ってました。私は逆に試着して、結婚願望が膨らみましたけど…。でもドレスの試着なんていつしたんですか?」
宇部ちゃんが春巻きを齧りながら話す。夏月ちゃんも宇部ちゃんのようなタイプなら俺も望みはあったのだろうか?
いや、かえって拗れただけだろう。それに、夏月ちゃんの結婚願望が膨らんだところで、その相手が俺であるとは限らないのだから。
「それってやっぱり、佐伯さんと式場の見学に行った時っすか?」
考え事をしていたせいで、北上の発言を聞き流してしまった。
夏月ちゃんがしまった…といった顔でこちらを見る。
「は?どういうことやねん!?佐伯っち?聞いてないでぇ?」
「ハルさんに頼まれて、丁度1ヶ月前に佐伯さんと一緒に行ったんですよ。式場の見学というか試食会に。料理とか、ケーキとか、引き菓子の写真撮って、話を聞いて…。新しい店の参考にするそうです。」
篠山さんに夏月ちゃんが説明したが、篠山さんはなんだか腑に落ちないといった表情を浮かべる。
「試着どうでした?楽しいですよね?私もまた着たいなぁ…。その時の写真無いんですか?」
宇部ちゃんがうっとりした表情で宙を見ながら尋ねた。
「消してもらったから無いよ。」
「消して『もらった』から?」
夏月ちゃんのなにげない一言に、篠山さんはつっかかる。
「あ、うん。写真は佐伯さんに撮ってもらったんです…。」
「佐伯っち、夏月ちゃんの試着どうやったー?さぞかし綺麗やったんやろうなぁ?」
篠山さんに絡まれる俺に、申し訳なさそうな視線を向ける夏月ちゃん。
「確かに、試着した写真は消しましたよ…。」
英さんが。
まだ残ってることは残ってるんですが…。
そう続けて言いたかったが、英さんに見られるのを嫌がっていたので、それを言っては可哀想だ。残っていることも内緒。
「ホンマかいな?本当は消去してないんやろ?あるなら見せてやぁ?」
「本当に消しましたって。でも、そんなに夏月ちゃんのドレス姿見たいなら見ますか?」
あまりに篠山さんがしつこいので、俺はスマホを操作する。
「あるんやないかーい?消してないって事やろ?さっさと認めぇ?」
「これ、俺が撮ったやつじゃないですから。」
俺は、SNSのアプリを立ち上げ、英さんのページを開き、写真をタッチしてスマホを篠山さんに渡す。
「もうこんなんも撮ったん?」
「夏月さん…めっちゃ綺麗…蘇芳様も男前。」
「2人ともモデルみたいっすね!」
「2人とも元が良いですもんね…それにしても、蘇芳様、夏月さんにべた惚れですね。」
あっという間に皆の手に渡り、夏月ちゃんも手に取った。
「何これ…あ、鞠子…結構皆繋がってるんだ…それで皆メールくれたんだ…。佐伯さんと英治さん、SNSで繋がってたんだね。」
「夏月ちゃんしないの?」
「誘われたけど、面倒だから断ったの。なんか最近、高校時代の友人からやたらおめでとうってメールもらうと思ったら、情報源はここだったんだね。それにしても何これ…恥ずかし過ぎる…。」
夏月ちゃんが恥ずかしいと言ったのは、おそらく写真とともにアップされたコメントだろう。
「佐伯っち、私もドレス着たい!今度、一緒に行くで?」
篠山さんだった。
「いや…何で俺っすか?彼氏…じゃなくて、例のご友人と行ったらいいじゃないですか?」
「もうおらんもん。って言うか、夏月ちゃんと行って色々知ってるからいいやん?それともなんや?夏月ちゃんとは行けるけど、私とは行けないって言うん?」
この人完全に酔っ払ってる。酔っ払った篠山さんはなかなか厄介だ。
「いや…そういうわけじゃないですが…でもそう頻繁に行くところでは無いと思うんですが…。」
「いやや、ドレス着たいー。」
「篠山さん、結婚の予定がないのにウェディングドレス着ると婚期が遅れるって話、ご存知無いんですか?」
宇部ちゃん、ナイスフォロー!
「それはもっといややぁー!!」
「じゃあ、諦めて下さい。」
「でも着たいんや!!夏月ちゃんはすぐ結婚したやないか!?」
「夏月さんの場合は、その時点で蘇芳様が既にプロポーズするって決めてたんです。篠山さんにはそんな人いないでしょう?」
「おるかもしれないやん?」
「ハイハイ。ソウデスネ…。」
篠山さんは完全に酔っ払いだった。
ここまで酔うのは珍しい。
なんとか皆で篠山さんを宥めて、この日はお開きになった。