宿の老婆
食料と水が尽きた1日後に、規模は大きくないとはいえ、生きた町を見つけることができたのは、これ以上ないくらい幸運だった。あとは、住人が排他的でなければいいのだが。
そう思いながら、ヴィレッジは町を目指した。
どうやら、杞憂だったようだ。
みために反して、商業が盛んなようで、生活必需品はもちろん、宿泊施設や、アームズパンツァーの整備屋まである。ひとまず、食料と水を鉄鉱石と交換したヴィレッジは、宿へとバイクを走らせた。
「あら、若い旅人さんねぇ」
白髪混じりの老婆は、そう言って微笑んだ。
「えぇ、まぁ。一晩お願いします」
500ml程の水を取りだし、渡そうとするヴィレッジだったが、突き返されてしまう。
あまりに予想外だった為、ヴィレッジは一瞬言葉につまってしまった。
「え、いや、あの…」
「貴方、まだ14、5歳でしょう? そんな子に集る程、困ってないわよ」
ヴィレッジは、この老婆を、甘い人だと思うと同時に、もうひとつ感じたものがあったが、それを文字にする事は、今のヴィレッジには難しいことだった。
「あの、お名前は?」
「シェニア・アンジェリカよ。 貴方のお名前は?」
「ヴィレッジ。 ヴィレッジ・アリウスです」
「ヴィレッジ? …そう、良い名前ねぇ…」
シェニアが一瞬、思いを馳せるような目をしたのは何故か。 ヴィレッジには分からなかった。
その後、いくらかの押し問答の末、結局ヴィレッジが無料で宿を使わせて貰うことになった。