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近接戦闘

 ――部屋に飛び込んで来た白衣の侵入者に狼男は威嚇の遠吠えを上げる。



 ウイングの着地場所は窓の傍にあった木製のテーブル。着地と同時にテーブルに置かれていた調度品が踏み倒され、周囲に激しく錯乱する。



 ガラスや陶器が割れる破砕音が部屋に響く。



 真冬の外気より冷たい視線で部屋にいた人物を見下ろす白き騎士の右手には、銀製の長剣が握り締められていた。



 鏡の様に磨き込まれた刀身が映し出すのは狂気に満ちた狼男の横顔。



「ラピスの名の下に、貴様を滅する!」



 ウイングは剣の切っ先を狼男に向けて言い放つ。



 狼男は舌舐めずりをしながらウイングを赤い眼に捉える。



 余裕綽綽の挑発。



 刹那、ウイングの姿が一瞬にしてテーブルから消失する。



 狼男は赤き双眸を一回り大きくさせ、周囲に視界を泳がす。



  SURPRISE ATTACK!


 

 剣の切っ先が狼男の股間から頭上までを一気に切り上げて行く。  



 絶叫、苦悶、憤怒。



 瞬時にしてテーブルから狼男の足下まで移動し、身体の中線目掛けて切り上げるウイング。



 対魔式剣術【幻影一刀流】の皆伝であるツバサの得意技、【影渡り】による奇襲である。



 戦士の持つ肉体エナジーである『闘気』と、ラピスリア教徒が持つ信仰心から生み出される精神エナジー『カルマニクス』を、カルマの器内部で融合させる事で生まれる力『業気』。


 ウイングはその業気を媒体として影を操作、自身の影と対象者の影を繋ぎ、影から影へと瞬時に移動するという神業的な術で先程の不意打ちを決めたのだった。



 身体の中心から黒い鮮血が勢い良く噴出し、絶叫をあげ続ける狼男。



「まだ浅い、か?」



 ウイングは切り上げた銀製の剣を正眼に構え直し、後方に飛び跳ね距離を置く。



 予測通り、後方に跳んだコンマ数秒後、狼男の鋭い爪がウイングのいた空間に襲い掛かる。



「……なるほど、セシリアの言った通り、他とは比較にならない再生能力だ」



 後方に跳んだ為、壁際すれすれまで追い込まれたウイングはそれを気にも留めず、冷静に敵の分析を進める。



「さて、次の一手はどう攻めようか?」



 不敵な笑みを浮かべるウイングだったが、瞳は全く笑っていない。寧ろ先程よりも鋭い物へと変わっていた。



 先程の影渡りは二度は使えない。一度繋いだ影同士は原則一度渡ってしまうと二度と渡れないのである。



 また、生物以外の影も渡れないので、先程の様な奇襲も不可能であった。



「正面から行くか?」



 力強い右足の踏み込みから繰り出される、渾身の袈裟切りが狼男を強襲する。



 押し殺した様な狼男の鳴き声が狭い部屋に響き渡る。



 全身の筋肉を膨張させ、左右の爪を眉間の前で交差させた狼男は、ウイングの一撃を瞬時に、そして的確に受け止める。



 剣と爪がぶつかり合う甲高い金属音が響き合う。



「ちっ!」



 軽く舌打ちをするとすかさず左足で狼男の右脇腹を蹴り飛ばすウイング。


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