潜入
――ダノンオーラ第三総合病院。
金髪のロングヘアーにエメラルドグリーンの瞳を持つ無機質な美女セシリアは、ヒドゥンの犠牲となった男性の最後を見届けると病院を跡にした。
セシリアの風貌は黒い軍用ブーツに上下の迷彩服、頭には赤いカチューシャ型インカムを付け、肩にはライフルをストラップで吊るし、腰には二丁のサブマシンガンを差しており、まるで軍隊の様だ。
病院から飛び出し、雪で舗装されたダノンオーラの大通りを疾走する彼女の足裁きは、雪道など物ともしない。
無機質な彼女の表情からは呼吸をする度白い息が漏れる。
セシリアの足を妨げる者は誰もいなかった。ダノンオーラは一時間前から厳戒態勢を敷いており、街にはウイングとセシリア、そして僅かに点在する警察関係者以外は皆、ヒドゥンの恐怖に怯えながら室内で息を殺していた。
今回のヒドゥンは神出鬼没らしい。街中の至る所に現れ、暴れては黒い霧に紛れて消える。
まさに、HIT AND AWAY!
セシリアは肩に掛けていたライフルを構えると、ダノンオーラの中心、時計台を目指して駆ける。
気配、察知!
時計台に至る道の途中に並ぶ住宅地から悲鳴、否、断末魔の叫びが響き渡る。
セシリアは数ある家屋の中からドス黒い殺気を放つ一軒の二階建ての前で足を止めると、躊躇なく玄関を蹴り破りその中へと突入する。
ライフルに取り付けられたスコープ越しに家の中を確認するセシリア。
玄関からは二階への階段が正面に確認でき、その階段の横には扉の無いリビングらしき部屋が見える。
一階からは特に人やヒドゥンの気配は感じられなかったが、二階からは禍々しい邪気が満ち溢れているのを感じたセシリア、彼女はライフルを構えつつ階段を一気に駆け上がった。
階段を昇り切ったセシリアの視界には血塗れになって倒れている、『人間であった物』が転がっていた。
数は二つ、両方とも至る所が喰い千切られていたり、もがれていたりしており、顔も鋭利な爪の様な物で無数に切り刻まれている。
顔の面が確認出来ない有様だった。
一つは成人女性と思われる遺体、もう一つは大きさからして子供、三歳から五歳頃の幼児らしき遺体。
服装から男の子だと推測出来た。




