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激突! 奥義VS奥義



 無意識の内にヘレーネからの転送に承諾していたウイングは、カヤードがセシリアに白龍を放った瞬間に居合わせていたのだった。



 【四柱奥義・蒼餓狼ソウガロウ



 セシリアとカヤードを挟む形で転送されたウイングは、覚醒させたサンダルフォンから反射的に雷で出来た狼を下段の構えから解き放つ!



「ツバサ!?」



 ウイングから放たれた蒼餓狼とカヤードから繰り出された白龍が真っ正面からぶつかり合う!



 ヴェルフェルムによる修行によって、ウイングは念願だった一刀流の神髄を手にしていた。



 僅か数日の間で神気や四柱奥義を習得出来たのはヴェルフェルムの指導力と、一度体を貸した事によって覚えた感覚が活きたのだろう。



「カヤード!!」



 ウイングの繰り出した蒼餓狼は、赤虎や白龍と同じく神氣によって幻影に属性を付与させる大技である。



 五年という月日を経て、再び同じ場所で互いの技をぶつけ合うウイングとカヤード。二人の一刀流後継者が今ここにあいまみえる!



 白龍の首に喰らい付く蒼餓狼と、その蒼餓狼の脇腹を尖った頭部で貫く白龍!

互いに急所を捉えたのか、攻撃と同時に消滅する二匹の幻影。



「ようやく、ようやく会えたね、カヤード……」



 ウイングは消失した幻影の先に現れたカヤードの姿を目の当たりにすると、神氣で紅に変わった双眸から思わず涙を流してしまう。



 五年の間探し求めた家族同然の兄弟子を、ようやく出会えた安堵から来る涙。その涙に合わせて、ウイングはサンダルフォンの構えを解いてしまう。



「マスター、彼は敵です!構えて下さい!」



 普段、殆ど見られないセシリアの大声が本部周辺に響き渡る。



「ツバサ……そこをどけ。なるべくなら、お前まで斬りたくはない」



 カヤードは上段に構え直すと、神氣の波動をウイングにぶつけ合る。



「くっ!」



 強烈な波動に思わず後方に吹き飛ばされそうになるウイングとセシリア。



「カヤード! 話を……ちゃんと話をしてくれ! 五年前、何故突然、養父さんを斬って、ルゥを連れ去って行ったんだよ!?」



 ウイングは自身の神氣で波動を相殺させると、凄い剣幕でカヤードに詰め寄る。



「……お前は知らない方がいい……邪魔をするな、次は斬るぞ……」



 カヤードは双眸を閉じ、一瞬間を置いてから意を決したように、炎揺らぐメタトロンの切っ先をウイングへと向ける。



「いつまでも子供扱いするなよ! 『家族』じゃないかよ!? アヤメ義姉さんがどれだけ心配していたか知らないのか!?」



 ウイングはメタトロンの切っ先を素手で強引に掴むと、怒りを露わにもう一度カヤードへと詰め寄る。



「……もう『あの頃の俺』はいない……お前の知ってるカヤードは死んだのだっ!!」



 ウイングの口からかつての恋人であったアヤメの名が出ると、一瞬表情を暗く落とすカヤード。だがそれもほんの僅かな時間で、再び冷徹な顔へと戻ったカヤードは長い足でウイングの鳩尾を思いっ切り蹴り飛ばす!



「!?」



「これ以上話す気は無い! 警告はしたからな!!」



 カヤードは全身に神氣を漲らせるとハインリヒ戦で見せた『死神』を発生させる。



(あれは……!?)



 ウイングの『中』にいたヴェルフェルムがすぐさま反応を見せる。



 ハインリヒ戦時には黒かった死神だったが、ウイングの前に立ちはだかったのは金色の死神。マントを纏った人型の幻影に長い鎌を握った姿はそのままだ。



「カヤード!!」



(待つのだ! ウイング!)



 それでもカヤードに近付こうとしたウイングにヴェルフェルムが大声で制止する。



(あの幻影は恐らく実体化した幻影を上回る力を持っている……独自に開発したようだが……一旦距離を置くのだ!)



 実体化した幻影が、幻影剣の最終的な到達点であると一刀流ではされていた。ただ動きをトレースするだけの幻影剣を実体化させ、その幻影に使い手の『意思』を与える。この技が生み出された事によって数多くのヒドゥンが滅せられて来たのは言うまでもない。



 だが、『実体化』したと言っても使い手と同等の力を有するとは言い難かった。あくまで使い手の擬似体であり、本体よりも数段弱いのだ。



(……その実体化した幻影をも上回る可能性を感じずにはいられない)



 ヴェルフェルムは死神の幻影の動きに注意しながら、ウイングを後方へと誘導する。



「……あの幻影は一体何なんだ、ヴェルフェルム?」



 カヤードと対峙した事で感情的になっていたウイングだったが、ヴェルフェルムの言葉と目前の怪しい幻影の出現によって、やや冷静さを取り戻す。



(神氣を用いる事によって、実体化した幻影を超える幻影を生み出す技術は、四柱奥義によって既に実現していた……だが、あの死神……四柱奥義をも超える膨大な神氣を信じられん程圧縮している……全ての四柱を同時に生み出すのと同等な量を……)



「全ての四柱と同等の神氣…………そんな量の神氣をコントロールするなんて、可能なのか?」



(あの嵯峨でも不可能だった事だ。カヤードとか言う男、カルマニクスの量、神氣をコントロールする技量、技の発想、高い身体能力、全てにおいて嵯峨を上回っている……)



「マスター!危険っス!」



 ウイングがヴェルフェルムと会話をしている最中、今度はウイングと一緒に転送されて来た雛菊が叫ぶ!



 死神の幻影が超スピードでウイングに迫っていたのだ!



「早いっ!」



 ほんの一瞬でウイングの目前まで移動した死神は、ハインリヒ同様敵であるウイングの『体内』に入り込む!



「!?」



 その行為にウイング、セシリア、雛菊の三名が驚き、思わず絶句してしまう。



「ツバサ、お前は死んでもヒドゥンにさせん……安心して逝くがいい」



 死神がウイングの体内に入ったのを確認するとカヤードは上空から急降下し、再び教皇の間へと向かう。



(……悪いがこの体には『先客』がいてな……主の入り込む隙間などない!)



 ウイングの体内に侵入した死神であったが、既にウイングの心の中に棲む黒衣の剣士、ヴェルフェルムの金色の波動によって、強制的に体外に放出されてしまう。

(ウイング、相手は四柱を超える存在だ。……奴を滅するには……自ずと分かるな?)



 ヴェルフェルムの問いにウイングは力強く頷く!



『究極奥義』



 四柱奥義を上回る幻影一刀流最強の技。



 技の原理は修行の際にヴェルフェルムから聞いていたが、ウイングはまだ一度も成功させてはいなかった。それは技に取り掛かる寸前にヘレーネに召喚されたからだ。



 つまり未知の領域なのである。



(先にも言ったが、この技は四柱全てを完全に操る技量と、莫大な神氣を必要とする。主の技量に関しては問題無いが、カルマニクスの絶対量の少ない主の神氣では、精々1日に1発が限界であろう)



「1日に1発か……」



 ウイングはカヤードと死神の姿を見比べると、ため息混じりにそう呟いた。



(そして、何よりも一刀流の心髄……それ無くしてこの技は完成しない!)



「心髄…………」



 ウイングは双眸を閉じ、己の心に問い掛けた。



「フフフフッ♪ 真打ち登場とはまさしくこの時!! カヤードはワタシたちに任せなサイ!!」



 一瞬躊躇していたウイングに向かって、教会の庭園からハタバキで急浮上する無数の影。先頭を行くのは怪僧ラスプーチン。



「み、みんな!」



 ウイングの視線の先には世界各地から召集された王守十剣の姿が、夕焼けを背に映し出される。



「十剣総登場か………だがカールもヴィヴァルディもいないお前ら『二軍』が群れた所で『本気の俺』には勝てんぞ!!」



 カヤードはウイングやセシリアと戦った時とは比較にならない殺気を放つ!



「二軍だと!? ふざけるな背信者が!!」



「我等の真の実力を知らん分際で!」



 十剣たちはカヤードの台詞に憤慨すると、各々封印を解いていたサウザント・ワンを構え、一斉に突撃して来る!



【幻影微塵酷死霊】

【幻影身刃克士霊】



 カヤードとウイングが同時に『最終奥義』を繰り出す。



 ウイングが死神に繰り出した幻影身刃克士霊は今までの克士霊とは違う。



 実体化した四人との幻影各々に『四柱奥義』を同時に放たせる、という超高難度な克士霊だった。



「魔を払い平穏をもたらす強く清き剣……これが、真の克士霊だっ!!」



 ヴェルフェルムに吹き飛ばされていた死神を囲むように展開する幻影は、同時に赤虎、白龍、蒼餓狼、黒獅子を四方から放つ!



(見事だ!)



 ヴェルフェルムの声と共に死神は断末魔の叫びをあげ、消滅した。



 一方、カヤードの幻影微塵酷死霊は、ウイングの放った克士霊とも違っていた。

カヤードはウイングに消された死神を四体発生させると、五人の十剣を囲み込ませる。



「何だこの幻影は?」



「構わん! カヤードの首さえ取れば問題ない!」



 十剣たちは死神たちを無視し、ハタバキでカヤードに向かって行く。



「ダメっス! 皆さん!!」



 雛菊は帯から発生させたビーム状の翼で十剣たちを止めようと滑空した。



「遅い、さらばだ!」



 死神たちはウイングの克士霊と同じように、各々が四柱を十剣に向かって繰り出す。



 ウイングの繰り出した幻影の放った物の三倍はある巨大な四柱が、怒号を放ちながら強襲した。



「なっ!?」



「なんだこれは!?」



 五人の内、先陣を切っていたラスプーチン以外の四人が四柱の餌食となる。



 肉片一つ残さず貪られた四人の十剣……。



「ば、馬鹿ナ!? 一瞬で四人の十剣を……」



 思わず振り向いていたラスプーチンがその凄惨な光景を見て、その場で固まってしまう。



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