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サガのフロンティア


「神綱………我ながらこんな危険な技を生み出した己を、酷く呪いたくなる…………」


 黒髪のウイングは寂し気にサガの神綱を眺めつつ、自嘲気味にそう呟いた。

サガの神綱によって神殿はほぼ、その形を失い、無数の死体も上空に投げ出され竜巻の中に巻き込まれて行く。


「くっ! なんつー技なんスか!」


 雛菊も神綱に巻き込まれそうになるが、切れたヨーヨーのワイヤーを神殿の残骸に巻き付けなんとか踏ん張って見せる。


「幻影一刀流、四柱奥義が一つ……」


 黒髪ウイングは黒い闘依によって神綱の猛攻を全て無効化し、両手で握っていた長剣を上段の構えへと静かに移行させる。




赤虎セッコ!!」




 上段の構えから振り下ろされた長剣は瞬く間に炎の刀身に形を変える。その炎の剣は振り下ろされたと同時に『炎の虎』へ更に姿を変貌させると、長剣から爆炎を巻き上げながら解き放たれた。


 全身を炎で燃やした黒い縦縞模様の虎は、自身の瞳をも炎々と燃やしながら高速でサガへと突進して行く。


 巨大な火の猛虎は鋭い爪でサガの分厚い胸板をズタズタに切り裂く!

あまりの痛みから、奇声をあげながらサガは後ろに仰け反る。


 赤虎の爪は炎の爪。


 爪は相手を切り裂き、その爪に纏わり付いた炎は傷口から体内へと入り込み、内側から全身を焼き尽くす。


 そしてその炎は技を放った使い手が技を解除するか、技を受けた対象者が死なない限り、決して消える事のない地獄の業火なのだ。


 四柱奥義とは本来は強力且つ凶悪な神化ヒドゥンにのみ使う事を許された技であるが、技の非情さに関しても前述した裏伝の比では無い。


「人間に対して使ったのは初めてだが、長く苦しませるつもりはない……」


 黒髪ウイングの鋭い眼光に反応し、赤虎は咆哮をあげながら爪よりも鋭い牙をサガの首もとに深く突き刺した。


(これが一刀流の神髄と心髄……)


 魂と化したウイングは、自らの体から発せられた神気と四柱奥義に驚嘆の溜め息を漏らす。


 炎の牙により体内の血液は沸騰し、サガの全身は炎に包まれる。


 何故、黒髪ウイングはこの様な残酷な技を曲がりなりにも人間であるサガに使用したのか?


「……後生だか、主の肉体は骨も含めて一片たりとも残す訳にはいかぬ……主の亡骸から第二、第三の『サガ』が生まれる可能性は捨て切れんからな。嵯峨の技と肉体は危険過ぎるのだ! 一歩間違えれば主のような破壊神が生まれ、世界を破滅へと導く……名も無き戦士よ! 先に地獄で待っておれっ!!」


 サガへの最後の言葉を紡いだ黒髪ウイングはゆっくり後ろに振り替えると、長剣を鞘へと納め、小さな十字を胸に刻んだ。






 その数秒後にサガの断末魔がシン王国中に響き渡った……。


「……ウイング殿、雛菊殿、本当にありがとうごさいました」


 長い茶髪を後ろで束ね、豪奢な金の刺繍が施された青色の織物を纏った少年が、深々とウイングたちに頭を下げる。



 サガとの死闘から数日後……壊滅しかけた神都に、長く幽閉生活を送っていたシン王室唯一の生き残り、フギ・シンが帰還した。フギは先代のシン王の実子でありながら義理の母であるジョカに廃され僻地に幽閉されていたのだ。


 ジョカの度重なる人体実験による財政の悪化や、政治の無策を忠告した事に腹を立てたジョカが処刑ありきで幽閉したのだが、国民からの信頼も厚く、王室の復興の旗手として神都に帰還したのだった。


「頭をおあげ下さい、陛下。私たちは……やれる事をやっただけです」


 銀髪、鳶色に戻ったウイングは若干恐縮しながらフギに答える。確かにやるべき事はやったが、実際サガを倒したのはウイングではなく『黒髪のウイング』である。改めて思い返すと、何か『ズル』をしているようで、どうにももどかしい。


 そしてそれ以上に、目の前にいながら神殿にいた多くの参拝者を誰一人救えなかった己の不甲斐なさ……その事実が一度は般若戦で取り戻した自信を、再び大きく揺らがせていたのだった……。


 まだ石の残骸が残る王宮の庭園にはフギを中心に、生き残ったシンの民衆たちが歓喜の声をあげながら集まっていた。


「しかし、まさか義母の人体実験がそこまで進んでいたとは……実験施設は既にサガによって壊滅されていましたが、もう二度とシンはこのような実験をする事はありません!今後は教会とも協力し、シンだけでは無く世界平和の為尽力する所存です」


 フギの純粋かつ力強い眼差しが、ウイングや雛菊、周りの民衆たちに降り注ぐ。

まだ十代前半の若き王ではあるが、誰もがフギに対し強い尊敬の念を抱くのだった。


「フギ様ばんざーい!」


「シン王国ばんざーい!!」


 民衆の歓声はその日1日止む事はなかった……。


(ウイングよ……そろそろ『修行』に入ろうか)


 ウイングの心に再び黒衣の剣士の声が響く。


 サガとの死闘の後、ウイングに肉体を返した黒衣の剣士は、一刀流の神髄と心髄を教える約束をした後、暫く姿を見せなかった。


 フギたちと別れ、神都の汽車ターミナルへ向かっていたウイングに数日ぶりのアクセス。


 遂に一刀流の全てを学ぶ時が来たのだ。


「あぁ、だがその前に貴方の名を教えてくれないか。なんと呼べばいい?」


 ターミナルへ向かう足を止め、独り言の様に呟くウイング。


(うむ、そうか。まだ名を名乗っていなかったな……我が名はヴェルフェルム。『嵯峨をよく知る者』だ)


「ヴェルフェルム?……嵯峨をよく知る者? てっきり俺は貴方が嵯峨本人なのかと思っていたが……」


 意外な回答にやや肩透かしを喰らったウイングは「まぁ関係ないか」と一言呟くと自身の胸に手を当てる。


「ところで、ヴェルフェルムの声は俺以外の人間には聞こえないのか?」


(うむ、本来はそうだが、任意で他の者と話す事も可能だが? どうかしたのか?)


「いくら説明しても雛菊がまーったく信用してないんだ……もはや変人扱いだ……だから雛菊にも掻い摘んで事情を説明して欲しいんだが……頼めるか?」


ウイングは背後で疑いしきった冷たい視線を送って来る雛菊に、「勘弁してくれ」と辟易した表情を浮かべた。


(……良かろう。いつの時代も女に振り回されるのが男のさがなのだからな……)


 達観したかのようなヴェルフェルムの声がウイングの胸に響き渡った……。



 ―――これよりウイングは雛菊、ヴェルフェルムと共にシン近郊にある『剣の山』へと向かい、一刀流の神髄を手にすべく、厳しい修行にその身を費やすのだった……。


(……しかしあの娘、機械人形のようだが、どことなく我が妹に似ている……不思議な物だな……)


 雛菊の仕草を注視していたヴェルフェルムはウイングに聞こえない程小さな声でそう呟いた……。


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