ゴルゴダの娘
黒髪はそれに対しても無言で何の反応も示さなかった。
「我らが仇敵、ラピスリア教会! この『ゴルゴダの娘』が真なる審判を! 偽善の悪女・ラピス共々地獄の業火で焼き払って差し上げますわ!」
ゴスロリ少女は濁り一つ無い白目の部分を瞬時に充血させると、狂気混じりの叫び声を上げた。
黒髪は、「やれやれ」と悪態混じりにそう呟くと、岩から立ち上がり、少女の横まで徐に歩み寄る。
「ダノンオーラはクルセイダーの支部があるハミルトの近く、暫くすれば『奴ら』も現れるだろう」
「クルセイダーが現れる前に貴方にはそのハミルトを落として貰いましょう。ハミルトは数多のクルセイダーが巣くう西ヨーロッパ最大の拠点、手駒は好きなだけお貸ししますわ。三日で陥落できまして?」
ゴスロリ少女は腕組みをしたまま、品定めするかの様な口調で振り向きもせず黒髪に指示を出す。
「フッ、俺を誰だと思っている? ヒドゥンはいらん、俺一人で十分だ。半日もあれば血塗れのハミルトが拝めるだろう。それより、ダノンオーラは狼一匹に任せる気か?」
「流石は『天魔のカヤード』、自尊心も実力に劣らず凄まじいですわね。……ええ、アレは素質がありそうですから。上手く行けば神化するかもしれませんし、暫くは様子見ですわ」
黒髪はゴスロリ少女の話を聞き終える前に、自身の持つ剣を振りかざしたかと思うと、瞬時に黒い霧と共に姿を消してしまった。
「あらあら、やる気満々ですわね。ふふふ、実に楽しみ! 実に愉快ですわ! 私の悲願が成就される反撃の狼煙、今ここに打ち上げて差し上げましてよ? ラピスリア教皇!」
ゴスロリ少女は瞳を充血させたまま狂気の笑みを浮かべつつ、雪の舞い落ちる灰色の空を見上げた。




