奥の手
「カ、カヤード!?」
思わず叫び声を挙げるネオ。
ネオの視界は、黒い煙りから徐々に姿を表したカヤードの姿を捉えていた。
身に纏っていた白いナイトコートは見るも無残に吹き飛び、黒い煤や鮮血にまみれた上半身が露になっている。
神氣で荷電粒子を包み込み、相殺させたカヤード。
黒獅子の鬣は右半分を削り取られていたが…………彼は無事生還していた。
「バ、馬鹿な!?」
自身の眼下に浮かぶ黒衣のカヤードを見た龍は驚愕する。
先程までの縦揺れは治まり、冷たい風が龍の背後にある唯一の『入り口』から吹き荒ぶ。
黒獅子のマントが風に揺れ、カヤードの『紅き』双眸が露になる。
【黒獅無双】
カヤードは再び地面を蹴り上げ、龍の下顎まで跳ね上がる!
「!?」
超高速の黒獅子が次々と容赦無く龍の顎を『殴り』続け、『蹴り』続け、
『粉砕』して行く!!
あれほどまで堅固だった龍鱗が、角砂糖の様に粉々になって行く。
龍は見るも無惨に身体中を削り取られ、風穴だらけの姿に豹変していた。
「ウォオオオオーッ!!」
龍の絶叫が祠に響き渡り、岩の壁と天井を衝撃波で激しく揺らす。
「ネオ! 今だっ!」
カヤードの怒号にも似た叫びが、イージスを解除したばかりのネオに向けられた。
「聖母よ、汝の清き子宮にて、邪なる愚者を悠久なる眠りへ導け!!」
それを聞くまでも無く、ネオは印を結び、蓬術を唱え始める。
ネオの指先から放たれた白き光は、龍の真下に魔方陣を形成して行く。
「母なる忠神・ガイア!!」
ネオの叫びに呼応し、魔方陣は龍を包み込む様に、柔らかい光を放つ。
「馬鹿メ、コノ程度ノ蓬術デ我ヲ封ジレルト思ッタカ!?」
呻き声にも似た龍の声がネオの耳に向けられる。
「思ってませんよ……だから!!」
ネオはそう答えると、首にかけていたネックレスを引きちぎり、龍の頭上目掛けて投げ付けた!
投げ付けられたネックレスは剣のヘッドを付けた『封魔導具』の一つ。
封魔導具とは技術開発庁が開発した対ヒドゥン用兵器の総称で、様々な効果をもたらし、クルセイダーのサポートを行う。
ちなみにホムンクルスも封魔導具の一種である。
「+(プラス)!! 封剣!!」
ネオは両掌を合わせ、投げ付けたネックレスに直接、体内のカルマニクスを注ぎ込む。
「錬業術!! エクスカリバー!!」
封魔導具と蓬術を融合させ、蓬術の効果を何倍にも向上させる超高等複合術、【錬業術】。
ネオの様に優れた蓬術と、導具の特性を熟知した知識、そして生まれながら高いセンスを持つ者のみが使える高難度の術だ。
ネオの放った錬業術により、封剣のヘッドが龍と同等の大きさまで巨大化し、容赦無く龍の頭上に突き刺さる!
「ウゴォオオオーッ!」
断末魔の叫びを挙げる龍を、地面から放たれていたガイアの光が完全に覆いつくした。
「エクスカリバーなら百年とまでは言いませんが、『数年間』はアーク・オブ・ノアに匹敵する強力な封印が施せるんですよ!」
ネオは右手の人差し指を立てると、自信に満ちた笑みを浮かべた。




