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龍型ヒドゥン

 ―カヤードとネオは、ヒドゥンの防衛網を掻い潜り、ようやく祠の目前まで到達していた。



 祠は直径五メートル以上の巨大な岩石を無数に積み上げた物で、その無数の岩石は白く太い紐が張り巡らせ、祠全体に強力な結界が施されていた。

そう、ついさっきまでは……。



 カヤード達が到着すると同時に、祠は禍々しい妖気に覆われ、結界は完全に破壊されてしまった。



 祠内の封印が解放されてしまった故の事だろう。



 カヤードとネオは一目散で退却しようと試みたが、気が付くと祠内へと『強制転移』させられ、百年以上も前に封じられたくだんのヒドゥンと顔を付き合わせる状況へと陥っていたのだった……。



「強制転移か……」



 カヤードは銀の刀を抜き放つと、剣呑な表情を浮かべる。



 祠の内部は直径百メートル以上はある広い空間が広がり、中央には巨大な『女神像』が鎮座していた。



 周囲には何枚もの、無数の札が貼り廻らされており、室内の至る所には『訪問のランタン』と呼ばれる、人の気配を察知すると自動で点灯する灯りが設置されていた。



「こ、これは!?」



 ネオは膝が笑っていた。



 堪えきれない恐怖によって。



 カヤードとネオの視線は女神像の上で固定されていた。



 女神像の上に浮遊する一匹の龍。



 瞳を真っ赤に燃やした龍は五メートルほどの長い体をくねらせながらカヤードたちに睨みを効かす。



「あ、あれが封印されたヒドゥン!?」



「……の、ようだな」



 ネオの興奮とは対照的に、淡々とした様子のカヤード。



「……貴様等……ラピスの狗か?」



 突如、聞こえて来た龍の声。



 とても低く、人の発する声域では無い。



 よく見ると、くすんだ黒い鱗や、長くしなった鬚が怒髪天の如く、全て逆立っていた。



「女神ラピスの名を汚す下衆が……何故、教皇の封印が解けたのかは謎だが、俺の手で引導を渡してやる」



 カヤードには目の前のヒドゥンに対する恐怖心など、微塵も感じられなかった。



 余裕と判断していいのか些か疑問だが、カヤードの瞳には迷いも恐れも油断も無い。



「カ、カヤード! ほ、正気ですか!? 当時の十剣が束になっても敵わなかった化け物ですよ!?」



 まだ膝が笑って、その場から動けないでいるネオは、興奮の余り声が裏返っていた。



 ちなみに顔も引き吊っている。



「少しは落ち着け、ネオ。焦った所で墓穴を掘るだけだぞ。不測の事態が起きた場合でも対処できると踏んで、教会は俺たちをここに寄こしたんだ。まず冷静になれ、そんなんじゃ折角の『天才的な頭脳』が発揮できないだろう?」



 落ち着き払ったカヤードの言葉が、錯乱状態のネオを沈静化させる。



「……すまないカヤード。僕とした事が……生まれて始めて神化ヒドゥンを見て錯乱してしまっていたようだ……」



「いや、ネオ、君が落ち着きを取り戻せば、『こんな雑魚』簡単に倒せるさ、自信を持て」



 カヤードは明らかに挑発していた。



 目前のヒドゥンに対して。



「貴様……今、何をほざいた?脆弱な人間の分際で!!」



 龍型ヒドゥンは赤い瞳をギラギラと煌めかせ、黒い眉間に皺を寄せる。



「その『脆弱な人間様』にボコられて百年以上封印された間抜けは、何処のどいつだ?」



 カヤードの挑発が続く。



「神化ヒドゥンは人型しかいないと思ってたが、お前みたいな『なりそこない』じゃ、瞬殺だな!」



 さすがに今の一言でヒドゥンの怒りも絶頂に達したようだ。



「実力も測れぬ愚か者めが!!その減らず口、二度ときけなくしてくれるわ!!」



 人語を操り、他のヒドゥンとは比較にならない実力を持つ神化ヒドゥン。

だが、高い知能を持った故に、人語が理解出来る故に、『言葉の挑発』に乗りやすい。



 特にこの龍型ヒドゥンは短絡的な性格で、カヤードの思惑通り、冷静さを見失っていた。


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