幻影身刃克士霊
幻影一刀流・奥義『幻影身刃克士霊』(ゲンエイミジンコクシレイ)。
極限まで高められた業気によって生み出される『完全実体化された幻影』。
本体のトレースしか出来ない幻影剣とは違い、本体と共有化された思考を有する為、複雑な指示命令を行える『超強力な幻影剣』である。
しかもそれが四体。
正に幻影一刀流の完成形である。
「まぁ、『完全版』じゃないけどな。コレでも十分!!」
本体であるカヤードはそう言うと、影たちに遅れてミノタウロスの群れに飛び込んで行った。
次々と繰り出される『カヤードたち』の連舞!!
一人は袈裟斬りで一刀両断、、一人は刺突で一つ目を貫く。
ものの数秒で車懸は崩壊し、地面には牛人の屍が次々と山積みになっていった……。
「ラストォ!!」
カヤード本体が上段から振りかざした幹竹割りにより、最後の一体も真っ二つに切り裂かれ絶命した。
――僅か十秒足らずで敵を全滅させたカヤードは幻影を解き、再び一人に戻っていた。
多少は疲労を感じているようだが、まだまだ肩慣らし程度にしか思っていないようだった。
ミノタウロスの群れを撃退したカヤードたちは、休憩も入れずそのまま祠へ向かう。
多少なりともヒドゥンの妖気を察知出来る者ならば、この森が非常に危険であると感じるだろう。
先程のミノタウロスが現れて以降、数多のヒドゥンの気配を至る所から感じる上、森の奥深くからはそれらとは比較にならない強大な妖気が澱んでいたからだ。
「……こいつはマズイな……」
カヤードは迫り来るヒドゥン達を撃退しつつ呟く。
「うわっ!……カヤード、どう言う事ですか?さっきから間髪入れずヒドゥンが襲って来てますけど!?それに、この先から感じる巨大な妖気は!?」
ネオはカヤードの背中に隠れながら狼狽している。
「……どうやら封印が解け始めているようだな……ネオ、これは急がないと取り返しのつかない状況に陥るぞ」
カヤードの斬撃が大木の木々から襲って来た無数の蝙蝠型ヒドゥンを粉微塵に粉砕する。
「飛翔の忠神、ハタバキよ!我に飛翔の翼を!!」
一瞬治まった襲撃の合間に、高速で印を結び始めるカヤード。
瞬時に光の翼がカヤードの背に生え揃う。
カヤードはネオの手を握ると、一気に上空へと飛び上がった。
「うわっ!!カヤード、ちょ、ちょっと何でいきなり飛ぶんだい!?」
右手だけで繋がったカヤードに、宙吊り状態のネオが興奮気味に問いかける。
「しっかり掴まってろ!」
何の説明も無く、空のダイブを強要されたネオを全く気にも留めず、カヤードは上空からカムイクックの祠へと滑空して行った。
「いやーーーっ!!!!」
ネオの絶叫が森の中でこだまして行く……。




