ミノタウロスと五人のカヤード
影から変貌した八体は皆、顔は一つ目の水牛、体は異常に発達した筋肉を纏った人間の姿、手には黒い手袋越しに長い槍を持ち、足にはブーツ、腰には革の腰巻きを巻いていた。
ヒドゥンの中でも上位に位置する実力を持つ『ミノタウロス』。
一体相手に四、五人のクルセイダーが小隊を組んで、ようやく倒せる強者だ。
「少し数が多いな……」
カヤードは腰を落とし、闘気とカルマニクスを瞬時に練り上げる。
それと同時に八体のミノタウロスは槍の先をカヤードに向けながら、縦一列になって一斉に突進して来た。
『車懸』と呼ばれる戦法で、次々と敵が襲い掛かかり、相手を休ませない古典的な戦法であるが、ヒドゥンが繰り出すのは非常に稀である。
「車懸……知能の低いヒドゥンが統制の必要な戦法を使うとは!!」
ネオはカヤードの後ろから興味深そうにミノタウロス達を凝視している。
「騒ぎ過ぎだ。ヒドゥンの中でも集団戦術に長けた連中はいる……しかし、ネオ、君を守りながら戦うには少々無理があるな……」
カヤードは若干顔を曇らせ、ネオにそうに言い放った。
「いや、頼みまよカヤード! 貴方以外、連中に勝てる者はここに居ないんですから!」
冷や汗混じりに狼狽するネオ。さすがの天才も、この危機的状況には冷静さを保て無い様子だ。
「仕方ない、じゃあ『近寄る』前に一掃するまでだ!」
カヤードは一瞬、双眸を閉ざし、思案に耽る。
(白鳳破は祠ごと森を破壊しかね無い……ならば……アレか!)
刮目したカヤードの眉間が煌めく!
それと同時にカルマニクスがカルマの器内で爆発する!!
「幻影一刀流・奥義!!」
カヤードの発した声に呼応し、カヤードの影が一瞬で四つに分裂する。
その間もミノタウロス達は強烈な勢いでこちらに向かって来る!
距離にして十メートル。
カヤードの影たちは、物の二、三秒で実体化すると、カヤードそっくりの容姿に変貌していた。
「えっ!? カヤードが五人!?」
それを凝視していたネオは思わず驚愕の表情を浮かべる。
それはそうだろう、ネオの視界には五人のカヤードが映っているのだ。
錯覚かと我が目を疑った。
しかし、錯覚ではなかった。
「よし、一人当たり二体弱だ!余裕だな!!」
カヤードの一人がそう言い放つと、残りのカヤードたちは黙って頷き、瞬時にミノタウロスの群れに突進して行った。




