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二人の天才

「ハハハッ、さすがはミッターマイヤー卿!カヤード、一本取られたな!」



「……確かに仰る通りですね。しかし、カムイクックですか?」



 カムイクックはメゾサンクチュアリ領内にある祠の名で、百年以上前に非道の限りを尽くした、ある凶悪なヒドゥンを封印した場所と言われている。



「あぁ、カムイクックだ。何でも最近、あの辺りでヒドゥン共が異常発生してるようでな……何度かクルセイダーを送り込んで鎮圧しているんだが、暫くするとまたヒドゥンが現れる……まるで『鼬ごっこ』でな、祠自体の調査も兼ねて技術開発庁の人間と共に討伐に向かって欲しい」



 サンジェルマンはそう告げると、一枚の辞令をカヤードに手渡した。



「……了解しました。不肖カヤード・ワインズマン、慎んでお請け致します」



 カヤードは辞令に一通り目を通すと、サンジェルマンに向き直り、正座のまま深く頭を下げる。



「百年前の封印か……開祖様の時代のヒドゥンということだな。……カヤード、お前なら問題は無いと思うが、くれぐれも油断するなよ?ヒドゥンは今も昔も狡猾でズル賢い連中ばかりだからな!」



 クロノスは鋭い眼光でカヤードを射抜く。



「ええ、重々承知しています。全力で討ち滅ぼして見せますよ……それより館長、明日の稽古は館長にお任せ致しますが宜しいですか?」



 クロノスの鋭い眼光を意志の強さが滲み出たカヤードの瞳が真っ正面に受け止めた。



「ハッハッハ!!任せろ、お前が居なくても弟子たちの稽古は儂一人で十分。最近は体の調子も良いからな!心配無用だ!」



 自信満々に答えるクロノス。酒が入っているせいか、先程よりも声量が増している。



 それを眺めるカヤードとサンジェルマン、互いに苦笑いを浮かべつつ、食卓に並べられた料理を次々と口に運んでいった……。



 ――森、そう、ここは紅葉間近の壮大な森。



 樹齢数百年を超える太い幹が至る所に生え、野鳥の鳴き声が何処からともなく聞こえて来る。



 天気は快晴、時刻は正午を少し回った頃、二人の男が森を闊歩して行く。



「こんなに良い天気だと、まるでピクニック気分だな」



 一人は、黒髪、黒瞳、白いナイトコートに身を包んだカヤード。



 クルセイダーの正装を纏ったカヤードは、木々の隙間から見える青い空を眺めると、そう呟いた。



「……これからヒドゥン討伐に行くと言うのに、『マスター・ワインズマン』は以外にお気楽なんですね……」



 二人目、橙色の七・三分け、赤い瞳に眼鏡を掛けた真面目そうな『秀才くん』。やや大きめな白衣の下にはカーキ色のチノパンと、黒いスニーカー。



 彼の名はネオ・カルバイヤー。技術開発庁から派遣された研究員である。



 ネオはカヤードと同い年の十九歳。


 十三歳の若さで、教会が運営する世界最大の教育機関『ルドルフ・サンジェルマン神学府』を卒業した『天才』である。



「別にお気楽でもないさ……それより『マスター』は無いだろ?俺は十剣じゃないんだぞ」



 空を仰ぎながら歩いていたカヤード、ネオの発言によって視線を地上に戻す。



 教会信者の多くは十剣に対し、敬意の意を込めて『マスター』と呼ぶのだが、カヤードは十剣で無いにも関わらず、信者の多くは彼をマスターと呼ぶ。



 理由は至極簡単で、



「『実力も人柄も十剣以上』の貴方は、マスターと呼ばれるに相応しいクルセイダーですよ」



 と、言う事らしい。



 ネオは『何を今更?』と、怪訝な表情を浮かべていたカヤードに向かっ

て、そう言葉を投げた。


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