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眠れぬ夜に振るう剣

「カヤード!? アイツを探せと? 五年前に『大罪』を犯し、失踪したアイツを!?」



 驚愕の表情のサンジェルマン。思わずソファーから立ち上がる。



「うむ、今更と思うかもしれんが……五年前に失踪し、行方不明となった『あのカヤード』が、昨今頻発しているヒドゥン発生事件に関与しているようなのだ」



 ラルフは調査報告書の束をサンジェルマンに見せて言う。



「五年前、俺達十剣や諜報部が世界中、隈無く探して見付けられなかった、あのカヤードが……」



 サンジェルマン表情は驚きから怒りのへと次第に変わって行く。



「今回の報告を受けて真偽を確かめる必要有り、と封魔庁は判断した。既に各地に諜報部の人間を放っているが、サンジェルマン卿にもその探索の任を受けて頂きたい。科学者としての頭脳と元十剣の実力を併せ持つ卿以外、奴を捜し出し引導を渡してやれる者はいない、どうか協力してくれないだろうか?」



 ラルフは帽子を取ると深々とサンジェルマンに最敬礼。



 御辞儀の中にも言い表せ無い威厳を感じさせる。



「私からもお願い致します! 本来ならば十剣筆頭である私が向かわねば成らないのですが……」



 今度はサンジェルマンの横に座っていたカールがソファーから立つと、そう言葉を濁し、深く頭を下げる。



「……気にするなカール! お前の『体』に無理はさせられないからな! ええ、ミッターマイヤー卿、この任務、慎んでお受け致します! クロノスの旦那の仇、この手で今度こそ晴らさせて頂きますよ!!」



 怒りの表情から、喜びの表情へと変わるサンジェルマン。



「アイツは、ある意味ヒドゥン以上の宿敵ですから! 必ず見つけ出して旦那の墓前に奴の首を捧げて見せますよ!」



 狂喜染みたサンジェルマンの叫びが教会本部に木霊して行った……。



 ――星空、瞬く流れ星。



 静かな森林。



 聞こえて来るのは木菟の鳴き声と草木が風によって擦れる音。



 ここは教会本部の一角にある小さな森。



 そんな森に一人の男が現れた。



 星空が浮かび上がらせる男の顔は、ウイング・クーロン。



 昼間同様、藍色の胴着姿で右手には覚醒させたサンダルフォンが握られていた。



 明日、遠く離れたハミルト方面に旅立つウイングだったが、どうも今夜は寝付けずにいた。



「眠れない夜は剣を振れ」



 同門で兄弟の様に接していた兄弟子の言葉だった。



 たまに眠れない夜があると、ウイングは無意識の内に胴着に着替え、剣を振っていた。



 今夜もそんな『たまに』寝付けない夜だった。



「はぁ!!」



 気合いの声と共に、ウイングは両足を開き、腰を落とす。



 足元には強烈な震動が走り、地面を揺らした。



 続けて全身に闘争本能の源、『闘気』を漂わせる。



 白い炎の様な気体が『うっすら』と全身から見え始める。



 闘気を帯びたウイングは、サンダルフォンを握ったまま、上段の構えと移る。



 今度は胸の奥底に眠るカルマの器を起動させる。



 ウイングの高まる闘争本能に呼応し、精神エネルギーの源であるカルマニクスがカルマの器内で激しく燃え始める。



「幻影一刀流・秘技!!」



 ウイングの声に呼応し、サンダルフォンの刀身に、燃えたぎる紅いカルマニクスと白い闘気が、互いを侵食するかの様に激しく混ざり合う。



 その混ざり合うエネルギー体、業気が次第に『鳳』を形成し始める。


「白鳳破!!」



 星空に向かって放たれた『鳳』は淡い桜色の羽根を羽ばたかせ、空一面を覆い尽くす。



 強烈な風圧が森の木々を揺らし、一瞬、空が暗転する。




 ――数秒後、ウイングは全力で放った『白鳳破』の疲労に耐えかね、地面に仰向けに倒れ込む。



 ウイングの双眸に映るのは『あの日』と同じ星空だった。



「……カヤード……今どこにいるんだい?……」



 とても寂しく、甘えた印象の呟きが夜空に聞こえて来た……。



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