怪僧ラスプーチン
――教会本部、第四修練所。
広い空間内にクルセイダー達の気合いのこもった声が響き渡る。
その一角で、修練用の木刀を持った数名のクルセイダー達が、一人の男に向かって一斉に襲い掛かっていた!
どれも素早い打ち込み!
しかし、全ての攻撃は空を斬っていた。
標的にされていた男は、神の如き速さで集団の背後に回り込み、一人一人の急所を的確に木刀で打ち込んで行く。
圧倒的な実力。
藍色の胴着姿のウイング・クーロンは手にしていた木刀を握り返し、背後に向き直る。
そこには先程とは別の集団が木刀を構え、ウイングに襲い架かって来る。
「「「幻影剣!」」」」
三人の胴着姿のクルセイダー達がほぼ同じタイミングで叫び声を上げる!
その叫びに呼応して、三人の影が板張りの床から唐突に浮かび上がって来る。
【幻影剣】――自らの影を具現化し、本体の動きを『トレース』させる幻影一刀流の基本技の一つ。
三人の影たちは本体と同じく、木刀の影を握り締め一斉にウイングに突撃して行く。
本体、幻影、計六人の猛攻を真正面に向かえ打つウイング。
ウイングは木刀を腰の左に差し、居合いの構えに入る。
「攻撃が直線的過ぎる」
刹那、右足の強烈な踏み込みから超高速の抜き打ちが放たれる。
【幻影剣・鎌鼬】――抜き打ちと共に実寸の三倍はある『刀身の影のみ』を具現化して直線上の敵に放つ、幻影剣の高等派生技。
大人五、六人を優に切り裂く程の巨大な刃が、突進して来たクルセイダーとその幻影を一網打尽にする。
ただ単に影を具現化するだけの幻影剣とは違い、幻影を圧縮、高密化した事により格段に威力とスピードがプラスされている。
一撃で修練室の壁まで吹き飛ばされるクルセダーと幻影たち。皆、苦悶の表情と呻き声を上げている。
「影の圧縮率を落としたから、立てない事は無い筈だぞ」
本来の幻影剣・鎌鼬は触れた者を切り裂く殺傷能力の高い技。先程ウイングが放った鎌鼬は加減された一撃で、一般のクルセイダーならば致命傷には至らない。
「おやおや、最近のクル『サ』イダーは随分弱っちくなってしまいましたネ~」
「?」
不意に後ろから聞こえて来る流暢な男の声。
振り返ったウイングの視界に青白い顔をした辮髪の神父が現れる。
「ラスプーチンさん……」
痩せこけた頬、目の下のくま、骨と皮だけの細い身体にフィットした、くすんだ黒い詰襟。
彼の名はオズマ・ラスプーチン。ウイングと同じ皇守十剣の一人で、教会の神父も務めている聖職者だ。




