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槍の洗礼

 ――静寂な白い空間。



 高い天井には煌びやかな女神と天使が見下ろしているステンドグラスが一面に張り巡らされ、そのステンドグラスからは外の日差しを小さくも暖かい光に変えて室内に注いでいる。



 そしてその光が最も照らされている場所には、優しく包み込む様な微笑みで両手を広げている見上げる程大きくも美しい女神像が鎮座していた。



 その神々しい光を放つ女神像を支える大理石の台座の前に、神妙な顔つきをした二人の人間の姿があった。



 一人は老練で威厳漂う聖職者。剃り上げられた頭、灰色の瞳、細身ながらも長身だ。そして右手には自身よりも長い大振りの儀礼用の槍を握り締めている。



「……汝、女神ラピスの名の下に槍の洗礼を受け入れ、カルマを留める魂の器を飼う覚悟はあるか?」



 両目を閉じた老練なる聖職者は静かに、そして厳かにもう一人の人物に語りかけた。



「……ございます。我、ウイング・クーロン、慈悲深き女神ラピスの名の下に、『槍の洗礼』を受け入れ、カルマの器を飼いならし、退魔の剣となる事を此処に誓います……」



 老練なる聖職者の前に跪き、白いローブを纏った銀髪の少年が一言、一言に重みを乗せて誓いの言葉を立てる。



 少年はまだ幼く小柄で、クリッとした鳶色の瞳が実年齢以上に彼を幼く見せていた。


 

 聖職者は槍を高く掲げると左手で様々なルーン文字を象った『印』を結び始める。



「あい分かった、それではこれより女神ラピスの名の下に汝、ウイング・クーロンに槍の洗礼を施す……」



 印によって槍は激しい光を放ち、神々しい白い光は二人のいる空間を覆い尽くす程に広がって行く。



 少年は大きく頷くと意を決した様に立ち上がり、そっと瞳を閉じる。



「汝に祝福を!」



 聖職者の槍は立ち上がった少年の胸に勢い良く突き刺さる!



 突き刺さった胸から大量の鮮血が見る見る内に少年のローブを紅く染めて行く。



 食い縛る少年の口は激痛に堪えようと、きつく一文字に結ばれているが、唇の端からは一筋の血潮が顎を伝い、床へと垂れていた。



「うっ……おぉおぉおおおぅーーーーーーっ!」



 少年の叫び声が空間に木霊する。



 少年の胸を貫いた槍はそれに呼応してか、より一層の白い輝きを放つと凄まじい勢いで周囲に飛び散って行った。



「ウイングよ! 負けるでないぞ!」



 聖職者は額に大粒の汗を垂らしながら、少年に檄を飛ばす。


 

 ――五分程経っただろうか、白い輝きは次第に拡散から集束へと形を転換させると、周囲に飛び散っていた少年の鮮血を全て吸い上げ、光共々彼の体内へと吸収されて行った。



 それと同時に胸の奥に大きな器が形成されるイメージが、少年の脳裏に浮かび上がって行く。



 少年の脳裏、いや、心に映し出された器。



 それは槍により貫かれた体と心に宿る聖杯。



 魔を払う絶対的な力を宿す器。



 槍の名はロンギヌス、持たされた器はカルマの器。



 世界最大の宗教組織、ラピスリア教が生み出した、対『ヒドゥン』用戦闘集団クルセイダーを生み出す唯一無二の儀式である。



 ――通称、槍の洗礼。



 欲望、嫉妬、憎悪、人の生み出す暗黒面。



 そこに芽生える魔の息吹き。



 それらは更に人の闇を飲み込み続け、人々を襲い始める。



 いつの間にかヒドゥンと呼ばれた彼等は、人類の大敵として世界各地に発生し、私欲の限りを尽くす。



 混沌、破壊、崩壊への序曲は既に世界全土に奏でられ始めていた……。



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