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フィスタニア・サンジェルマン

「ハミルトに行けばホムンクルス技師がいるから大丈夫だと思うけど、途中何があるか分からないからね、くれぐれも気をつけて」



 レイチェルの優しい気遣いに頷き返すセシリア。



「……よし、サンダルフォンもメンテナンス終わったぜ! ほれ、ウイングに渡しといてくれ」



 今度は奥でサンダルフォンの調整をしていたフィスタニア・サンジェルマンが現れ、ロザリオの姿のサンダルフォンをセシリアに手渡した。



「ありがとうございます、確かにお預かりしました」



 サンジェルマンにも頭を下げるセシリアは渡されたロザリオを大事そうに胸元にしまう。



「そう言えばウイングはどうした? 一緒じゃないのか?」



 今更ながらウイングがこの場に居ない事を認識するサンジェルマン。



 フィスタニア・サンジェルマンは某国の伯爵家出身で、教会内では技術開発庁の最高責任者を務める枢機卿である。高貴な血筋や役職の割りに非常に庶民的且つ、気さくな人柄で科学者としての実績も教会内で群を抜いていた。



「マスターは修練所にいらっしゃいます。クルセイダーの方々に稽古を頼まれたようで……」



 淡々と鉄面皮の顔でサンジェルマンに語るセシリア。



「なるほど、流石は現役の十剣、引く手数多だな」



 サンジェルマンは白衣のポケットから煙草を取り出し、徐に口に咥えると、そのまま手近にあったアルコールランプに顔を近づけ、煙草の先に火を灯す。



「サンジェルマン卿もかつて十剣だったと伺っていますが?」



「あ、私も聞いた事あります。どんな感じだったんですか?」



 その見馴れた仕草を長めていたセシリアとレイチェルが、興味深そうにサンジェルマンに問い掛ける。



 レイチェルに至っては身を乗り出す始末だ。



「ああ、十年位前までは現役だった。……あの頃も今程じゃないが、ヒドゥンが活性化しててな。毎日の様にクルセイダー達を引き連れて暴れていたなぁ……」



 三十代後半のサンジェルマンは若かりし頃の自分の姿を思い出しつつ、天井の通気口に吸い込まれて行く煙草の煙りを眺めていた。



「まぁ、昔話はまた今度な、俺も色々忙しくて、この後ミッターマイヤー卿に呼び出し喰らってんだよ」



 生まれ持っての白眉を『八の字』にし、あから様に怪訝な表情を浮かべるサンジェルマン。



「えーっ、もっと詳しく聞かせて下さいよ!」



 不満を漏らすレイチェルがサンジェルマンの白衣の袖を強く引っ張る。



「やめろー、俺だって行きたかぁねーんだよ。ミッターマイヤー卿、今じゃ『シブめの優しいじぇんとるまん』だけどな、俺が現役だった頃は『閃光の死神』って呼ばれる程、怖いお人だったんだよ……俺らの世代はそん時の印象が強すぎて、未だに呼び出しなんかされるとビビっちまうんだよなー」



 サンジェルマンはレイチェルのか細い腕を振り払うと、靴の底で煙草を揉み消し、白衣をやや投げやり気味に脱ぎ捨てると、それをレイチェルの胸元に向かって軽く投げつける。



「まぁ、行かない訳にはいかんしな……そういう事だからレイチェル、後は頼むぞー」



 そう言って渋い顔を浮かべたサンジェルマンは重い足取りで研究室を後にした。


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