聖都
「ええ、至極良好です。ミッターマイヤー卿もお元気そうで何よりです」
180センチメートルの長身に、白いナイトコートと黒いラインが裾に入った同色のパンツを身に纏う。
女性かと見間違える程、秀麗なる金髪碧眼。カール・アインハルトは名門アインハルト家の若き当主で、教会内ではクルセイダー達の実質的リーダーである皇守十剣の筆頭を務める。
皇守十剣とは教皇の身辺警護と封魔庁からの特命を主任務とする十名からなる凄腕のクルセイダー集団の事である。
筆頭はその中でも最強の実力を誇り、教会内では枢機卿に準ずる権限と発言力を持つクルセイダーの花形である。
「うむ、『こやつ』に大分悩まされているがな……」
ラルフは机に置かれた先程の紙の束を指差し、眉間に皺を寄せて苦笑する。
「昨今のヒドゥン発生件数は前例の無い異常な物。先日のイスタンブールに限らず世界各地でヒドゥン達が活性化しています」
沈痛な面持ちでラルフに語るカール。
世界各地に点在するクルセイダーの支部。その支部から送られて来る大量の報告書。
並のヒドゥンだけではなく、神化ヒドゥンの発生も僅かながら増えている。その為、カールを始めとする十剣達も教会本部を離れ世界各地へヒドゥン討伐に向かっていた。
「先程もバルザックを中東へ派遣したばかりだ。あの近辺も最近ヒドゥンの発生が頻発していてな……今では十剣の半分以上が聖都を離れてしまったよ」
ラルフは自嘲気味な笑みを浮かべ、机の上の報告書を右手の人差し指で強く叩きつける。
聖都はラピスリア教会の総本山で、ギリシアのパルテノン神殿跡地に世界崩壊後に建設された世界最大の都市である。
聖都内では教皇と八人の枢機卿が街を統治し、世界中のヒドゥンを滅する為、千人以上のクルセイダーと蓬術の扱いに長けた蓬術士たちが日夜、鍛錬に勤しんでいた。
「ここ数ヶ月でかなりの数の同胞が殉教してしまいました……十剣の筆頭として、己の不甲斐無さを痛感しております」
カールは両目を閉じ、沈痛な表情を浮かべ、深々とラルフに一礼する。
「カール、君は良くやっているよ。……実は、この報告書の中に気になる点があってな、君の意見を聞きたくて今日は呼んだのだよ」
「気になる点、ですか?」
カールは訝し気にラルフの顔を覗く。
「うむ、ヒドゥンが発生した各地で『共通の人物』を目撃した、と言う報告があってな」
ラルフはゆっくりと報告書の束を捲り始めた。
「共通の人物?」
「……『カヤード・ワインズマン』。奴の姿をヒドゥンと共に見た、と言う報告が何件も上がって来ている」
ラルフは不意に止めた報告書の一頁に書かれた名前を指さすと、それをカールに見せ付ける。
「なんと!」
驚愕の顔を浮かべるカール。




