銀狼
やや長めの艶やかな明るい銀髪、クリッとした潤んだ青い瞳に意志の強そうな白眉、透き通る様な白い肌、背丈は百五十センチメートル程で、ローブを纏っていても随分と華奢な印象を受ける。
自身に向けられた少年の言葉対し、怒りの表情を見せるウイング。
「くっ!?」
しかし、直ぐにサンダルフォンごとウイングは民家の外へと投げ飛ばされてしまう。
指先だけで民家の分厚い煉瓦の壁をウイングを軽々と投げ飛ばしてブチ抜く少年。
顔には怒りも蔑みの色も無く、ただただ無表情なままだ。
「マスター!」
その光景に思わず絶叫し駆け寄るセシリア。
「なかなかの腕前。頼もしい限りです」
ニコニコと笑う修羅は少年の背後に回り、風穴の開いた天井へと彼を促す。
「オレの名は、銀狼だ。今回だけは見逃してやる。貴様、名を聞かせろ」
修羅には全く気にも留めず、少年はガレキに埋もれたウイングに向かってそう問い掛ける。
「…………くっ、ウイング、ウイング・クーロンだっ! 見逃すだと? 舐めるなぁ!」
ガレキを押しのけ、充血した双眸で銀狼と名乗った少年を見返すウイング。全身血塗れで額からも血が流れている満身創痍の状態だが唯一、瞳の強さだけは全く衰えていない。
「ウイングか……次はその少ないカルマニクスを少しでも増やしてから掛かって来い。折角の『一刀流』もその状態じゃまるで意味が無い……」
銀狼はそう最後に言葉を残すと修羅と共に天井に空いた穴へと消えて行った。
(神化した狼男があそこまでパワーアップしてしまうとは)
銀狼が消えて行くの確認したウイングは緊張が解けたのか、再び背中から倒れ込んでしまっていた。全身を冷たい雪の歩道に叩き着けられたウイングは、痛みと悔しさに耐えつつ冷静に先程の戦いを分析していた。
確かに体力は消耗し、カルマニクスは完全に燃え尽きていた。しかし、ベストの状態で戦ったとしても自分が勝てる自信は全く無い。
今まで相手をしていた神化ヒドゥンとはあきらかに一線を置く実力の持ち主。何故か一刀流の事もカルマニクスの事も熟知していた……。
更にクリミナル・ダイブを破った修羅と言う謎のヒドゥン。
(強く、強くならなくては!)
完全なる敗北を喫したウイングは消えて行く意識の中でそう強く誓うのであった……『ある男の後ろ姿』を思い浮かべながら……




