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 巨大な月が闇夜を照らす。

 


 時刻は深夜、多くの人間が深い眠りに落ちていた。


 

 北欧の小さな農村に不気味な影が一つ。


 

 影は何処からとも無く現れると、煉瓦造りの民家の屋根へとその身を下ろした。


 

 瞬く間に屋根から二階の一室に繋がる出窓を蹴り破り、影は屋内への侵入を果たす。


 

 月明かりが照らし出した室内には、壁に掛けられた明日の朝着られるであろう、フリルの付いた幼児用のワンピースや、子供用の机の上に鎮座して影の方を見つめている熊のぬいぐるみが確認出来た。


 

 子供部屋。

 


 直ぐに影もこの部屋が幼い子供の物だと気が付く。


 

 耳を澄ませる影の鼓膜を幼女の寝息が刺激する。


 

 影は激しく興奮すると全身を大きく震わせ、ベッドの上で眠っていた少女に飛び掛かって行った……。


 

 少女は夢の中で短い生涯を終えた。


 

 影によって喰い千切られた少女の四肢は、ピクピクと痙攣しながら生暖かい血を吸い込んだシーツの上に散乱している。



 己の欲求を爆発させた影は狂気地味た叫び声を放ち、窓の外へと飛び出していた。


 

 その狂気の姿を月明かりがゆっくりと照らし出す。


 

 影の正体、それは狼男。


 

 ピンと立った耳、逆立つ体毛、狼その物の顔。血塗れの口は大きく裂け、鋭い牙が飛び出し、双眸は不気味な程に赤く輝く。



 首から腰、毛など無く、屈強な成人男性その物。そこだけ見ると人間にしか見えない。



 腰から下、再び狼を思わせる毛並みと長い尻尾。足の形は人間の脹脛や太腿に近い、肉厚で強靭な足腰を印象付ける。



 両手、鋭い爪、人間の様な器用さとは無縁。勿論、こちらも血塗れ。よく見ると人や家畜の毛と肉片が爪にこびり付いていた。


 

 狼男は農村に響き渡る程の大きな遠吠えを放つと、つり上がった朱色の双眸により一層の赤を深める。


 

 次の瞬間、尖った口の奥からゆっくりと青い輝きを発生させると、大きく顎を開き、喉元から勢い良く眩い閃光を周囲に向かって放った。


 

 少女のいた民家だけで無く、周囲の家屋を次々と炎の渦へと導く青い閃光。


 

 ――たった一晩で村は壊滅。



 狼男は炎に染まった農村を眺めつつ、赤子のまだ柔らかい血の滴る足を【しゃぶり】ながら光悦の笑みを浮かべていた。


 おもむろに狼男は左手を振りかざすと、振りかざされた空間から黒い霧を出現させ、それに溶け込む様にゆっくりと姿を消した……。




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