私とアイツ
私は、保科梨華。地元の公立高校に通う17歳。飛び抜けて綺麗なわけでもないけど、不細工というわけではない、と思う。多分。身長も一般的。体重はまあ…ねえ。太ってはいないと思うんだけど。友達にこの間足綺麗だねって褒めてもらえてちょっと嬉しかったくらいかな。
唯一自慢できるのが背中に流したまっすぐな髪。色素が薄くて、茶色がかっている。昔はそんなに手入れしたりはしてなかったんだけど、中学の時アイツに梨華の髪好きだって言われてからはちょっと気をつけるようにしている。
アイツというのは、隣の家に住む幼馴染の西郷維月の事。切れ長の瞳に、通った鼻筋、薄い唇。無造作に整えられた黒髪。バランスよく引き締まった身体に、180以上ある背丈。…要するに、容姿端麗なのだ。運動神経も良いし、成績もそこそこ良い。考査では大概学年10位以内をキープしていたはず。
…とくれば、当然モテるわけで。彼のファンだという子も多い。告白されたらしいという話もよく聞く。それに応えたという話は一度も聞いた事ないけれど。
そして、それにほっとしている私。そう、お察しの通り、私も維月を好きな女の子の内のひとりだ。
自分の気持ちに気づいたのはほんの1年前であって、さほど片想い歴が長いという訳じゃない。
…が、よちよち歩きの頃からずっと一緒にいた相手に言い出せるはずもなくて。とりあえず平穏な日々を送っているのでした。
「…梨華」
「……へ?なに?」
「なにじゃない。帰るぞ」
「え、あぁ、うん」
しまった、ぼうっとしてた。とっくにHRは終わっていたみたいなのに、全然気づかなかった。教室には、もうほとんど人が残ってない。
見渡してたら、維月がスタスタ進んでしまっていた。慌てて追いかける。
「ちょっと、維月待ってよ!」
「お前が遅いのが悪い」
とか言いつつちゃんと待ってくれるあたり、維月だなあと思う。ぶっきらぼうで、優しい。
私が維月に追い付くと、私達はいつもどおり並んで歩きだした。