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『花の魔法使いエリア 〜咲き誇る心のままに〜  作者: 浅井 裕


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2/17

小さな約束(前編)

村のはずれ、霧の朝。

エリアは小さな花籠を抱えて、母の畑へ向かっていた。

霧の向こうで、母の歌声が聞こえる。

やわらかく、少し切ない旋律。


♪咲きなさい 風の子 陽の子

 世界はあなたを待っている♪


母──リサは、村で一番の花魔法使いだった。

花を咲かせるだけでなく、その香りで人の心を癒す力を持っていた。

村の誰もが彼女を慕い、彼女の作る花束はいつも笑顔を運んだ。


「おはよう、エリア」

振り返った母の笑顔は、朝の光よりも優しかった。

「今日も手伝ってくれるの?」


「うん!今日は白い花をいっぱい咲かせたいの!」

エリアは花籠を置いて、小さな手を広げる。

「……フローラ、咲いて!」


ふわり。

風が揺れて、地面の蕾が一斉に開いた。

白い花弁が光を受けてきらめく。


「まぁ……見事ね」

母は微笑みながらエリアを抱きしめた。

「本当にあなた、花と心が通じ合ってるのね」


そのとき。

遠くで、雷鳴が轟いた。

空が急に曇り、冷たい風が吹き抜ける。


母の表情が一瞬だけ曇った。

「エリア、家に戻りましょう。今日は嵐になるわ」


「え?でも──」


言葉を言い終える前に、地面が光った。

魔力のうねり。

花畑の中央が、不自然に枯れ始めていた。


「なに、これ……」

エリアは花に手を伸ばす。

枯れた花が悲しげに揺れる。

その瞬間、彼女の魔力が暴発した。


風が渦を巻き、花びらが嵐のように舞い上がる。

「エリア!離れて!」

母の声が聞こえた。

だが、光の中で、エリアは何も見えなかった。


──そして、静寂。


気がつくと、母の腕の中にいた。

周囲は灰色の花びらで覆われ、畑は跡形もなく消えていた。


「……お母さん、わたし……」

「大丈夫よ」

母は震える声で娘を抱きしめた。

「あなたの力は、きっと誰かを救う力になるわ。

 だから──」


彼女はエリアの胸に手を当てた。

「怖がらないで。花は、心のままに咲くのだから」


その言葉が、エリアの胸に深く刻まれた。

それが、**“小さな約束”**のはじまりだった。

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