咲き誇る心のままに(後編)
――花の国の再生――
光が戻ってから、どれほどの時が経ったのだろう。
かつて黒根に覆われた大地は、今は一面の花畑に変わっていた。
白、桃、青、金。風に揺れる花々が、まるで世界中の“命”を謳うように咲いている。
エリアは丘の上に立ち、風を受けて微笑んだ。
髪には小さな白い花が編み込まれている。
その花は、あの日――母から受け継いだものだった。
「ねぇ、レオン。見て。あの辺、また新しい芽が出てる」
「ほんとだ……花って、強いんだな。あんなに荒れた土地だったのに」
レオンは火の魔法で焦げついた土を見つめ、苦笑する。
「俺もさ、少しは“焦らず待つ”ってこと、覚えたかも」
エリアは笑った。
「焦らず、か。……それも、花が教えてくれたのかもね」
⸻
一方、少し離れた場所では、リュシアンがひとりで立っていた。
黒の外套を脱ぎ、手には小さな花の種を持っている。
「お前が言ってた“枯れても咲く”ってやつ、
……こういう意味だったのかもしれないな」
彼はその種を地に埋め、そっと魔力を込めた。
黒い土の中から、小さな白花が芽吹く。
「……これでいい。
俺も、ようやく“闇”の外に立てた気がする」
エリアが後ろから静かに近づいた。
「リュシアン、それ……あなたの花?」
「……ああ。闇の中でも、咲ける花だ」
エリアは微笑んだ。
「きっと、きれいに咲くよ」
⸻
その夜。
星々が空いっぱいに咲くように瞬いていた。
焚き火の炎のそばで、三人は静かに座っていた。
「これから、どうする?」とレオンが言う。
「俺はもう少し、各地の復興を手伝うつもりだ。
火の魔法なら、氷も溶かせるしな」
「私は、“花の国”を作りたい」
エリアの声は穏やかだった。
「世界中の人が、花を見て笑える場所を。
お母さんの残した想いを、ちゃんと形にしたいの」
リュシアンが小さく頷いた。
「……なら、俺はその国の影となろう。
花が枯れぬように、闇を制す“守人”として」
レオンが笑う。
「結局、みんな一緒か!」
エリアも笑い、焚き火の火がぱちりと弾けた。
⸻
夜が明ける頃、花びらのような雪が空から舞い降りた。
風は柔らかく、世界は静かに息づいている。
エリアは丘の上に立ち、胸のブローチを見つめた。
光が差し込み、ブローチの中に小さな花が咲く。
「お母さん。
この世界、ちゃんと咲かせたよ。
あなたが愛した花たち、
今もここで、生きてる」
風が彼女の髪を撫で、どこか遠くから声がした。
『――咲き誇りなさい、エリア。
心のままに。
あなたが咲かせた花は、永遠に人の心に残るから――』
エリアは目を閉じ、微笑んだ。
太陽が昇り、世界が金色に染まる。
花々が一斉に咲き誇り、風に乗って舞い上がった。
その光景は、まるで“新しい春”の幕開けのようだった。




