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『花の魔法使いエリア 〜咲き誇る心のままに〜  作者: 浅井 裕


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16/17

咲き誇る心のままに(前編)

――花と闇の境界にて――


 風が泣いていた。

 黒根が地を覆い、世界がゆっくりと色を失っていく。


 空は灰色に染まり、花の香りは風にかき消される。

 各地で魔法が狂い、人々は次々と逃げ惑っていた。


「黒根の再侵蝕が……こんな速度で……!」

 レオンの額には汗が滲んでいた。

「もう王都にも迫ってる。防衛線がもたない!」


 リュシアンが低く呟く。

「……“花の封印”が完全に解かれたんだ。

 黒根は、花魔法の光を追う。

 つまり――エリア、お前だ」


 エリアは静かに頷いた。

「うん。最初から、わかってた。

 この力を咲かせた瞬間から、世界が動き始めたんだって」


 彼女の手の中には、一輪の花があった。

 白く、儚く、けれど確かな命の光を放っている。


 その花こそが、“生命の根源”――フロラリアの心臓。

 母リサが命と引き換えに託した、最後の希望。


「……お母さんの力が、まだここにある」

 エリアの瞳に決意が宿る。

「この花を、世界の“中心”に返す。それが最後の封印になる」


「でも、それって……!」

 レオンの声が震える。

「お前の命が――」


 エリアは微笑んだ。

「大丈夫。花は枯れても、次の季節にまた咲くから」



 黒い空の下、三人は世界の中心――“大地の心臓”へ向かっていた。

 その途中、かつて旅した村や街が、すべて黒根に呑まれていく。


 人々は祈り、花の名を叫んだ。

 その声が、風となってエリアに届く。


“花の子よ――”

“光を――”

“あなたの花を、もう一度咲かせて――”


 エリアは足を止め、空を見上げた。

 遠く、雪の都フェンリルの方角に、白い花弁が一つ舞う。


(みんな……ありがとう)



 旅の終着点、“大地の心臓”。

 そこは巨大な花の根が絡み合う異空間だった。

 地面も空も存在しない。光も、風も。


 ただ、無数の根が世界を縛るように蠢いている。


 その中央に立つ黒い影。

 エリアが息を呑む。


「……お母さん?」


 闇の中から現れたその姿は、リサだった。

 けれど、瞳は黒く濁り、花弁のような痕が頬に刻まれている。


『エリア……戻ってきたのね』


「お母さん! やっと会えた……!」


『来てはいけなかった。花の封印は……お前の命で保たれていたのに』


「違う! 私、あなたを助けに――!」


『助ける……? エリア。

私はもう“黒根”の一部なのよ。

世界を癒すはずの花は、あの夜に枯れてしまったの』


「そんなの、嘘だ!」

 涙が頬を伝う。

 その瞬間、リサの体から闇が溢れ出した。

 花弁の形をした黒い光が、嵐のように周囲を包む。


「……来るぞ!」

 リュシアンが杖を構える。

 レオンが炎を纏い、エリアの前に立つ。


「俺たちが、お前の“花”を守る!」



 激しい戦いが始まった。

 闇の花弁が飛び交い、炎と闇と光が交錯する。

 塔のような根が崩れ、世界の奥から低い咆哮が響く。


 リュシアンが魔法陣を展開し、レオンが叫ぶ。

「今だ、エリア!」


 エリアは目を閉じ、胸の花を掲げた。


「――咲け、《万花の誓い(フロリア・エテルナ)》!」


 白い光が爆発した。

 世界が、一瞬で花で満たされる。


 無数の花弁が闇を飲み込み、黒根が悲鳴を上げて消えていく。

 光の中で、リサの姿が微笑んだ。


『……よく、咲かせたわね。エリア』

「お母さん……!」

『もう、怖くないでしょう?

枯れることも、咲くことも。どちらも命なの』


 リサの体が光となって溶けていく。

 その光が、エリアの胸の中へと吸い込まれた。


『――咲き誇りなさい。心のままに』



 光が消えたあと、世界は静かだった。

 空には花弁のような雲が漂い、風が優しく吹いていた。


 レオンが地に座り込み、息を吐く。

「終わった……のか?」


 リュシアンは無言で空を見上げた。

 そこに咲く白い花を見て、小さく微笑む。


「終わりじゃないさ。これが、“始まり”だ」


 エリアは空を見上げ、両手を広げた。

 光の粒が舞い、花の香りが世界を包む。


「――お母さん。

 あなたの花は、ちゃんと咲いたよ」


 風が彼女の髪を揺らし、白いブローチが淡く輝いた。

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