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Sweet&Bitter  作者: シャム
1/5

sleeping angel

久しぶりの投稿です。

今現在も忙しさに波があるため、不定期更新としていますが、読んでいただけると幸いです。


※一部編集しました※

「おい、そろそろ起きろって!」


「う〜ん、もうちょっと……」


 ムニャムニャと返事をした後、またすぐに眠りについた永見穗乃花(なかみほのか)に、世良和彦(せらかずひこ)はため息をもらした。


――ったく、一度寝たらなかなか起きねぇんだから。だいたい、そのベッドは俺のだぞ。何でアポなしで勝手に来た客人に貸さなきゃならねぇんだよ!


「……彼女でもねぇくせに」


 ボソッと出た呟き。和彦は朝食の準備をしていた手を休めて、そっと穗乃花のほうを窺った。スヤスヤと寝息をたてて眠っている。どうやら、さっきの呟きは聞かれずに済んだらしい。ホッと安堵のため息をつき、コンロの火を止める。フライパンの二枚のフレンチトーストから、甘い香りが部屋中に満たされた。



 * * *



「ねぇ、世良くん……だよね?」


 ファミレスのテーブルに着き、参考書とノートを開いて、一心不乱に勉強していた和彦は、その声がした方に目を向けた。


「あれ、永見さん? どしたの、こんなとこで」


「気分転換にここで勉強しようかと思って。うちの高校ここのすぐ近くだし」


 そう言って穗乃花はにっこりと笑った。和彦と穗乃花は高校は違うところに通っていたが、塾が同じでクラスも同じだった。少人数クラス制の塾であったためか、二人は授業前に世間話を交わす程度の仲ではあったが、これまで私生活でばったり出くわすということは一度もなかった。


「そういや、白百合女学院だったっけ。実は俺の家もこの近所なんだ」


 白百合女学院は、カトリック系の女学校で、世間ではお嬢様学校などと言われているが、実際通っている生徒の中で、良家の令嬢は一割にも満たないという。

 穂乃花の家も、御屋敷と呼ばれるような広いものでもなく、父親は外資系大企業に勤めてはいるが、穂乃花いわく、『フツーの優しいパパ』らしい。

 ちなみに、白百合女学院はこのファミレスの近所にあり、穂乃花は学院の敷地内にある寮で生活している。


「そうだったの!? 初耳だよ。あ、ここ座ってもいい?」


「いいよ。ごめん、散らかってて」


 和彦は周りに散乱した参考書を片付け、どうぞと向かいの席に座るように、手のひらを向ける。


――それにしても……。


 和彦はチラリと穗乃花の方を窺った。いつもはワンピースの制服姿であるが、今は夏休み期間ということもあってか、Tシャツにデニムというラフな服装。


「そういう格好もするんだな?」


 和彦の問いに、穗乃花は一瞬怪訝そうな表情をしたが、すぐに思い当たったらしく、笑顔を見せた。


「だって、堅苦しいでしょ、あの制服。あたしってお淑やかってキャラじゃないし、こういう服のほうが楽なんだよね」


 あははと声をあげて笑う。塾で制服姿のときは口に手を当てて、お上品な笑い方をしているのにと和彦は苦笑した。


――こんな姿を見たら、同じクラスのファンが泣くだろうな。


 そう思いながらも、本来の穂乃花という自分だけしか知らない事実に、和彦は想いで胸が満たされる気持ちでいっぱいだった。



* * *



 出来上がった朝食を皿に盛り付け、和彦はそっと穂乃花のほうを窺う。食べ物の匂いにつられて目が覚めるとは思わないが、まだスヤスヤ眠っている。丸まった体。小さな寝息。天使のようにかわいらしい寝顔。


――早く起きろっての。


 音をたてないように、ベットに近づく。見下ろした先にある穂乃花の顔は、幸せそうだ。二人の距離は一メートル。


――起きねぇと……。


 しゃがみこんだ和彦と穂乃花の距離がぐっと近づく。あと五十センチ。

 早鐘のような胸の鼓動。少しは落ち着くかもしれないと、瞳を閉じる。そして、


「誰が、んなことするかよ、バーカ……」


 瞼を開き、和彦は穂乃花のおでこにそっと指をもっていく。

 コンッという音がして、驚いたように穂乃花が目を見開いた。和彦がデコピンを仕掛けたのだ。


「いったぁーい! ちょっと何するのよ!」


 顔を真っ赤にして必死の抗議をする穂乃花。やや感情的になっている彼女に比べて、和彦はいたって冷静である。


「しょうがないだろ。お前がなかなか起きなかったんだから。俺まで今日の講義に遅刻させるつもりか」


「それでも、『女の子』を起こすときの最低限のマナーってものがあるでしょうが!」


――彼氏でもない男の部屋に勝手に上がり込む奴がよく言うよ。


 もちろん言葉にはしなかったのだが、このような思いが頭をよぎった瞬間、胸がチクリと痛んだ。この原因は和彦自身がよく分かっている。十分すぎるほどに。


「はいはい。俺が悪かったよ。じゃあ、さっさと飯でも食って、機嫌を直してくれ」


 気持ちが悟られることのないよう、つっけんどんな口調で言葉を返す。


「あたし別にお腹が減ってるわけじゃないんだけど……」


 そう言いながらも、穂乃花はベッドからモゾモゾっと出てきて、朝食を食べ始めた。不機嫌そうな表情をくずさないが、どうやら全部食べるつもりらしい。

 和彦は心の中でほっとため息をつく。一ヶ月に二、三度の非日常的な朝。このときばかりは、時間が経つのが驚くほど早く感じる。


 高校時代に抱いた淡い恋心は、いつか情熱的に燃え盛るのであろうか。今は誰にも分からない。

こんな感じで進めていこうと思います。


次は穂乃花の視点の話を考えています。


それでは。

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