2話① 梅雨は恵の季節です
「――――物理的に距離が縮まる。小さな傘による擬似的な閉鎖空間。それにより近づく心の距離! まさに恵みの雨! 梅雨は恵みの季節!」
「確かに相合傘は鉄板よね。ドラマとかでもよく出てくるし」
雨が七汰と灯里の二人きりの部室の窓に弾ける。例年同時期と比べても今年は相当降水量が多いらしく、古い部活棟では雨漏りする部屋も出ていた。
灯里の想いを聞いた日以来、灯里と七汰はこうして何度か作戦会議を開いていた。が、今日まで具体的な策を生み出せずにいた。
「ちょうど明日は午後から雨だ。相合傘作戦を仕掛けよう」
「私が傘をワザと忘れて、晴の傘に入れてもらうのよね。でも、ちょっとベタすぎない? 実際にやってる人っているのかしら……」
「大丈夫。俺もやったことないけど、創作では良くあるイベントだし、俺と同じオタクである晴も、そんなに違和感を持ってないはず」
晴が同類であることに対する信頼は厚かった。
「あと、本当にこれで晴に好き……距離を詰めることができるのかしら」
「前も言ったように。まず形はどうあれ、イベントを仕込んで二人の共通の時間を増やすのが大事なんだ。今回だけで何か変わるってわけでもないだろうけど、積み重ねていけば、晴の心はきっと動く」
経験豊富風な七汰。実際、ゲームの中であれば豊富なのだ。
「小道と京はどうするの? 二人の前で相合傘っていうのもちょっとなんて言うか。恥ずかしい、かも」
本番を想像したのか、灯里の顔が赤くなる。普段はつんけんとした振る舞いを見せている分、青春全開のイベントを友人に見られるのはやはり抵抗があるようだ。
「その点は俺に任せろ。適当に理由を作ってどこかに連れてくよ」
「そう……。結構頼りにしてるんだからね。頼りになる協力者さん」
そう口にした灯里のいたずらっぽく、そして可憐に笑う姿に、七汰はドキリとさせられた。そのことを悟られないよう軽口を叩く。
「細かいとこは俺に任せて、帰り道で晴と話す内容でも考えておくがいい。可愛いヒロインさん」
揶揄うようなその言葉に、灯里は七汰の足を踏むことで返事をした。