春休みの到来
小学校を卒業し中学校に入学するまでの休み期間。
俺が住んでる家の隣のアパートに、引越し用のトラックが止まっていた。
「そういえば去年あそこの人一人引っ越して空きが一つ空いたんだっけな。」
割と駅も近く値段も安く間取りもいいこの物件は結構人気が高くいつも満室と大家さんから聞いていた。 だが去年一人就職のため引っ越したと聞いていたからそこなんだろうなと理解した。
特にすることもないので、ゲームをしていた。
まだ小さい妹は、俺の事を好いており背中でゴロゴロしながらゲームを見ていた。
ちなみに両親共に共働きのため今は家に二人だ。
そう言った休みを謳歌していると、ピンポーンとインターホンが鳴った音がした。インターホン越しのカメラの映像を見ると見覚えのある女の子が立っていた。
「あ、あのお久しぶりです。木嶋承子です。隣のアパートに引っ越したのでご挨拶に来ました。」
そう告げたのは、あの謎の礼をした女の子。従兄弟のしょうこちゃんだった。
「久しぶりだね。今開けるからまってて」
そう告げ下におり玄関を開けると、少し以前より大人びているが、覇気のない感じの女の子が、白い紙袋を持って立っていた。
「こ、これもしよかったら。」
とその紙袋を渡された俺は、受け取り礼を言った。
「わざわざありがとね。しっかり母さん達に渡しとくよ。」
「いえいえせっかく隣に引っ越してきたんですからこれぐらいは当然です。」
「でもなんだって急に隣に?6年生なら卒業してないでしょ?」
小学校卒業してから引っ越すなら理解できるが、卒業間近で引っ越しってのが少し疑問だった。
「まぁ色々ありまして……再来週からお兄さんと同じ小学校通うんですよ。」
と彼女は少し笑っていってきた。
何か事情はありそうだが、あんな事があった家庭だ。何が起きてもおかしくない。
そう思った俺は何も聞かないでおいた。
「そっかぁあの小学校か…まぁ承子ちゃんなら楽しめるんじゃないかな。頑張りなね」
「なんか含みのある言い方だけど頑張ります。」
そう会話をしていると
遊びつかれていた妹をおぶりながら対応していたため外の風などで目を覚ましてしまった。
「おにぃちゃん。この人だーれ?」
そう呟いた妹に
「従姉妹のしょーこちゃんだよー」
「しょうこです。こんにちわー」
そう二人で挨拶をしたら妹は
「こ、こんにちは…」
ぎこちない挨拶をした。そのあと小声で
「こ、怖いよ」
そう呟いた。どうやら怖かったらしい。
妹は姉と俺の親との接し方を見て人を観察し、怒られないような行動する事をするようになっていた。
故に同い年の子達より少し人間観察能力が優れていた。
その妹から見るに、この少し影のある彼女は恐怖の対象として映ったようだ。
「あ、あの私何かしましたか?」
そう不安そうに聞いてくる彼女に俺は
「いやまぁちょっと色々あってね他人が怖いみたいなんだ。」
そう大雑把に説明した。
その説明を受けた彼女は
「そ、そうでしたか。怖がらせてごめんね?」
と優しい声で妹に話しかけた。
「う、うん…」
そう答えると妹は俺の後ろにすっと隠れ、視線を隠した。
「ははは…ごめんね。」
「いえ、怖いものはしょうがないですよ。」
そういい彼女は納得した。いい子だな。
ずっと玄関に立たせるのもなんだと思い
「お茶菓子も頂いたしせっかくだから上がっていく?お茶いいのあるんだ。」
不思議と彼女からは嫌なものを感じなかった俺は、珍しく人を自分の家へ招くよう声をかけた。
彼女を家へ招待して、軽く小話をしていた。
妹も彼女に慣れてきたようで、俺の膝の上でお菓子を餌付けされていた。
そんな姿が面白いのか、話そっちのけで餌付けしだしたので少し止めに入った。
「んんっ そろそろやめといてもらえるか?妹が太ってしまう。」
「はっ!すみません。ついつい…やはり下の子は可愛いですね。」
そう彼女はにこりと笑いながら妹の頭を撫でた。妹の方は、そんな事を気にせず夢中にお菓子を食べていた。そして一言。
「お兄ちゃん!この人いい人!」
(これ誘拐されないかな)
(このままお菓子で誘拐しちゃおうかな)
さっきの警戒心は何処へと思うものであった。
そんなこんなで、なんとか妹を太らせる行為を止めて話を始めると、学校の話になった。
「小学校が俺と一緒ってことはもしかして中学校も?」
「はいそうです。つまり後輩になるってことですね。あ、そうそう中学校に上がったら色々教えてくださいね。先輩笑」
そう冗談混じり言われた
「ははは。申し訳ないけどそれはできなそうだね。」
「?どうしてですか?」
「まぁ俺学校であまりよく思われてないからね」
「いじめですか…」
彼女はどうやら察しがいいみたいだ。
「気づくのが早いね笑」
少し乾いた笑いをしながら俺は答えた
すると彼女は
「でも、そんなの関係ないですよ!私、気にしないので!」
勢いよく前にでて彼女は俺にそう伝えた。
いい子なのかもしれない。
だがそんな言葉すら信用するほど俺の心は出来上がってなかった
「絶対にだめだよ。そんな気にしないで終わるような話じゃないんだ。」
強く俺は言った。第一そこまでして俺と関わろうとする意図がよくわからなかった。
「……はい。」
なぜか不服そうに彼女は頷いた。
気づけば、時計の短針が18時を指しており日も落ちていた。少し不穏な空気にもなっていたので、お開きにすることにした。
「あれもうこんな時間だ。もう暗いから解散にしようか。」
「そ、そうですね!」
彼女もこんな雰囲気が、まずいと思ったのか焦ったように準備した。
荷物をまとめ終え、隣のアパートの階段まで送っていった。
「隣なのにわざわざありがとうございます。」
「気にしなくていいよ。姉に教わってることだから。」
「しっかりしてますもんね、おねぇちゃんも」
「そそ。だから気にしなくていーよ」
そんな会話をして帰ろうとするとふと目の前に女性が立ち塞がった。
前に比べると濃い化粧をしており、香水なのか匂いもきつい女性。愛子さんだ。
「あなた…」
「じゃあ俺は…」
「ちょっと」
あー捕まってしまった
「今回仕方なく隣に引っ越したけどあなたみたいのが、うちの娘に近づかないでよね!」
「お、お母さん!」
「なによ?文句あるの」
「あ、いや…」
彼女は、下を向いて黙ってしまった。
なるほど前にも思ったがどうやらとてつもなくヤバい人のようだ。
そう思った俺はこれ以上神経を逆撫でしないように
「わかりました。近づきません。」
「妙に物分かりがいいわね…いいわ早く消えて。」
全く相当嫌われたもんだ。まぁ仕方ないか。
「あなたもアレはこの子にじゃなく起子に渡してきてと言ったのよ。」
「ちゃんと渡したよ。きこおばちゃんがいなかったから兄さんに渡しただけで…」
「…あっそ。ならわかった?もうあっちゃダメよ。あの子はおかしいんだから。」
ギロッとこちらを睨んだどうやらものすごく敵意があるらしい。
「…………はい。」
彼女は少し間をあけて頷いた。
その顔は、葬式の時と同じ顔だった。
俺には、どうにもできない。
この時、自分の無力さを少し恨んだ。
これ以上いると事態が悪化しそうなので、俺はゆっくり足自宅へ向けた。
その時の彼女の目はどこか儚げだった。