小学校の災難2
喪服を着て葬式に俺は出た。
お経とともに葬式が始まった時俺は周りを見ていた。
泣いてる人や、目を伏せてる人などがいた。
だが一人だけよくわからない子がいた。
肩ぐらいの髪の長さで目の下のほくろが特徴的な子の従姉妹で、一歳年下の木嶋承子だ。
あの子の眼は知っている。全てが暗く見えてどうでもよくなる。
そんな時にする諦めた人の眼だ。
そんな眼で彼女は自分の母親、愛子さんを見つめていた。
(よくわからないな)
そう純粋に思った。その時大きな声が前方で鳴り響いた。
愛子さんは、泣き崩れて叫んでいた。
「どうして私を置いていったの!あなたと一生を終えたかったのに!」
そんなことをずっと言いながら椅子に頭を垂れて泣いていた。そこで俺聞いてしまった。
今思えば馬鹿だった思う。ついてはいけないところをついてしまった。
「愛子おばさん。」
「…なによ」
「なんで悲しくもないのに泣いているの?」
「人の死を嘘で泣いちゃいけないと思うんだけど。」
「「!?」」
葬式の会場がざわついた
「な、何言ってるのよ!私はあの人を失ったのよ!悲しくないわけないじゃない!」
「でも…」
「でもじゃないわ!それにその眼!なんて眼でうちの旦那を見てるのよ!」
そう言って愛子おばさんは、俺の頬を叩いた。
すかさず親が来て
「何言ってるの!謝りなさい!」
「そうだ今のは叩かれても仕方ないぞ!バカが!」
そう親に言われた。
説明しようにもする暇もなく親戚の方々に批判された。挙句の果てには、急にそんなこと言う子は気持ち悪いなんてことも言われた。仕方ない。今回もこれは俺が悪い。そこで終わってしまおう。
そう思った俺は。
「急にこんなこと言ってしまいごめんなさい。」
謝った。
きっと自分が悪いんだろう。事実は時には曲げなきゃいけない。そう理解した。いや理解させられたのだろう。
その時彼女、承子ちゃんは、驚いた顔をした後に少し笑って見せ、お礼と言わんばかりのお辞儀をした。
(さっきから意味がわからないな。あの子なんなんだ。)
そのあとは、親に怒られながら帰った。
「全くお前はいつも」「恥晒しだわ」なんてことを言われながら謝りつつ流していた。
葬式を終えて帰る去り際に承子ちゃんは、ぼそっと俺につぶやいた。
「助かりました。この恩はいつか返します。」
そう5歳の弟を抱きながら俺に言った。
助けたつもりはないのに何言ってんだ。
そこから俺の家族中は最悪に近い形に進行していった。
家に帰ると母親の説教が始まった。
「なぜあんなこと急に言ったの!」
「それは……」
(言うべきなのか?いったところでなんになるんだろう。信じるのか?)
子供ながらそう疑問に思い、言い淀んでいると
「なんで何も言わないの!口があるならはっきり言いなさい!」
「ごめんなさい。」
「全く理由も話さないんなんて…私たちがどれだけ恥をかいたと思ってるの!」
どうやら人に迷惑をかけたと言うことより自分達が恥をかいたと言うことの方が重大なようだ。
どこまでも終わっている親だな。
そう思っていると、母親がさらに怒鳴った。
「人が叱ってる時になんなのその目は!」
パチンと頬叩く音がした。
(この姉妹は人を叩く癖でもあるのか…)
その怒鳴り声が不快に思ったのか、父親が母親にキレた。
「うるせぇな!テレビの音が聞こえねぇんだよ!」
「なによ!今私はこの子を叱ってるの!それぐらい我慢しなさいよ!」
「んなくそガキに何言ってもわかんねぇだろうが!第一そんなふうに育てたのはお前だろ!」
「私のせいだっていうの!?」
始まった。
恒例行事の如くの夫婦喧嘩だ。
俺はまだ3歳の妹を連れて二階へ上がった。
一年前までは、姉が、こういったことをしていたが、高校を終えて姉は海外へ留学してしまった。その時に頼まれたのだ。
「私海外へ行っちゃうけど自分と希は大事にするのよ。」
そう言った姉は、どこか心配そうにこちらを見ながら海外へ行った。
今まで守ってくれた分はきちんと守らなければ。
自分もってところは約束を守ることはできないが、せめて妹ぐらいは俺みたくはならないようにしよう。
そう心の中で誓ったのだ。
妹を自室へ連れて行き頭を撫でながら寝かせたのち俺もそっと眠りに落ちた。
次の日いつも通り起きて、準備をし学校に行くと、3人の生徒が俺が通っている通学路に塞ぐように立っていた。
「おい!お前日戸塚さんとつきあってるらしいな!」
何言ってんだこいつ。
急に呼び止められよくわからないことを言われ困惑してる俺は取り敢えず名前を聞くことにした。
「えーと誰ですか?」
「チッ新村大地だ。それでどうなんだよ」
取り敢えずなんかめんどくさそうと思った俺は面倒ごとにはならぬよう言葉を発した。
「そのつきあってるってのもよくわからないけどその日戸塚さん?って誰?」
「しらねぇわけねぇだろ!何人か見てんだよお前と日戸塚さんが喋ってるところよ!」
嘘とバレた。見られていたらしい。わりと人少ないと思ってたんだけどなぁ
「すんません。嘘です。あーでも付き合ってないですよ。」
「そんなことは知ってるんだよ!」
なんで聞いたんだ。
「お前どろぼーのくせに日戸塚さんと喋ってんじゃねぇよ!」
よく知らない人にもその噂は広がってるのか。
「そんなこと言われてもなぁ…俺が喋りかけてるわけじゃないし」
「でも言ってたよ最近喋ってる男の子がめんどくさいって」
「嫌われてるのに話すとか気持ち悪」
と後ろにいた女子ABが言った。
名前覚えられないからもういいやこいつらはAとBで。
問題は日戸塚さんにそろそろ迷惑かけそうなところだ。この話が本当か嘘かなんでどうでもいい。
こんなめんどくさいことになるんであれば日戸塚さんと離れるべきだ。俺があの人の不利益な人間になりたくはないしな
「それは確かに」
「だろ?だからもう近づくなよ気持ち悪いから」
「わかりました。」
「な、なんだよやけに物分かりがいいじゃねぇか」
そっちがいったんだろうが。
そう思ったが、言わないでおいた。悪化するだけだし。だが、自分が思ってるより彼女との会話は割と楽しい方ではあったが、うん『仕方ない』な。そう無理やり納得させた。
少し心が痛かった。でもこの時の俺にはそれが理解できなかった。
「でも近づいてほしくないなら本人が言ってくれればいいのに来ないんだね。」
口走ったと言ってから気づいた。
「お前とはもう会いたくないってさ。お疲れ様」
と彼は嘲笑した
少しショックかな。
朝からこんなこと言われ少しイラついていた俺は
「話はそれだけでいいですか?」
「つくづくムカつく野郎だなっっ」
ドンッ
と肩を強く押された。まさか行動にまで出ると思わなかったのでそのまま倒れた。たまたまあった石が手に刺さり血がでてきた。
「いってて……」
「あ…お、俺はそこまで強く押してねぇぞ!お前が悪いんだからな!」
(こっちは今痛いんだよ。うるさいなぁ)
そう思ってスッと立ち上がると新村さん達が後ずさった。
「な、なんだよ!」
「いや手当てをしたいんだ。もう話もわかったし今のことも先生にいわない。だからどいてくれない?」
「なんだお前痛がりも、なきもしないほんと気持ち悪い!か、帰ろうぜ!」
「ほんと気持ちわるい…」
「だから嫌われるんだよ!」
そう言い残し彼らは帰っていった。いきなりよくわからないことを言われ、暴言を吐き、倒され怪我負わせたうえに逃げるって…いやなやつだな新村って奴は
「なんでこんな目に毎度会わなきゃ行けないんだ…」
そう呟き深いため息をついた後に
「さて、明日からどうしようかな…」
と上を見上げた。その時の空は酷く曇りがかって今にも雨が降りそうだった。