閑話─???……改め神々3
「…………終わった……のか?」
「あ、ああ……我らは勝利した……のだよな?」
「……な、何とも意外な幕切れというか…………あれほど苦労苦戦した相手が……」
「我らがどれだけ必死になっても倒せなかった【獣王】が…………まさか一刀両断で倒されるとは……」
「……我ら全員が全力全開で与えた加護の力もあるだろうが……あの戦士の実力がそれだけ凄まじかったということなのだろう」
「そこは我が様々な条件付けをして召喚したからな。当然と言えば当然だ」
「また【魔王】は……すぐにそうやって増長しおる」
「そう言うでないわ、【言王】よ。貴公が素早く指示を与えたからこそ、あの黄金の鎧を纏った戦士もそれに従って動けたのであろうからな」
「ふ、さすがは【陽王】よ。よく見ておるわ」
「……【陽王】のやつ、【言王】の扱いが相変わらず上手い。そうは思わぬか、【流王】よ?」
「【豊王】、奇遇よな。我もそう思っておったところよ」
「おい、そこ! 何を二柱でこそこそ話しておる?」
「何でもないぞ、【言王】よ。それよりも、倒した【獣王】をどうするか考えようではないか」
「【豊王】の言う通りよな。このまま【獣王】の骸を放っておくわけにもいくまい」
「【獣王】の体は召喚した黄金の戦士によって真っ二つになっているが、こやつのことだ、放っておくと復活しかねぬぞ?」
「それに関しては、我に提案がある」
「ほう? どのような案なのだ、【魔王】よ?」
「【獣王】の魂を細かく砕き、それを輪廻の輪へと流し込むのだ」
「なるほど。長い歳月をかけて何度も輪廻を繰り返すことで、【獣王】の力を徐々に薄めようというわけか。ふむ、悪くはない手段だと我は思うぞ」
「魂を細かく砕くだけでも、【獣王】の力は分割されるわけだしな」
「魂を砕いておけば、【獣王】としての意識が戻ることもまずあるまい。確かに悪くはないな」
「それに、現状【獣王】は生命活動を停止しておる。今ならば肉体から魂を抜き出すのも難しくはない」
「魂に関しては【豊王】の領分。任せたぞ?」
「心得た」
「では、【獣王】の処置はそれでいいとして、だ」
「ああ、奴の武具──『ヴァルヴァスの五黒牙』はどうすべきか?」
「【獣王】の武具はそれだけでも高い再生能力を有しておる。今は【魔王】が召喚した黄金の戦士の攻撃を受けたことで破損しておるが、すぐに修復が始まるぞ?」
「それに関しては我が配下に任せようと思うのだが、どうだ?」
「【豊王】の配下というと……もしや、あの妖精族か?」
「そうだ。奴と奴の血族に管理と研究を任せてみようと思うのだが」
「あの妙に変なことにのめり込む妖精族の変わり者か……大丈夫か?」
「我は大丈夫だと考える。あの者は興味を抱いた研究には、ひたすら没頭する性質だからな」
「なるほど。研究という名の管理を任せるには丁度よい人材というわけだな」
「悪くない案だと思う」
「『ヴァルヴァスの五黒牙』は、邪神の王たる【獣王】が持つに相応しい能力を秘めている。この武具を全て揃え、第二の【獣王】が現れる可能性をなくすためにも、寿命の長い種族に管理させるのはいい案だな」
「ならば、ヒト種である妖精族よりも、我らが眷属の下級神にでも任せた方が良くはないか?」
「【流王】よ、さきほどの【魔王】の言葉を思い出せ。『第二の【獣王】が現れる可能性』……下級とはいえ神の一柱が『ヴァルヴァスの五黒牙』の力を得れば…………」
「た、確かに。その者が第二の【獣王】となりかねぬ」
「『ヴァルヴァスの五黒牙』を手にしたとしても、【獣王】と同じ野心を抱くとは限らぬ。だが、その可能性を限りなく小さくしておく必要はあるだろう」
「【魔王】の言う通りか。問題は『ヴァルヴァスの五黒牙』に洗脳系の能力があるかもしれぬことだが……」
「【陽王】の心配はもっともだ。だからこそ、我が配下の妖精族には精神抵抗力を増す加護を与えておく必要があるだろう」
「良かろう。『ヴァルヴァスの五黒牙』の管理は【豊王】配下の妖精族に任せる。そして研究の結果、判明したことがあれば即座に我ら五柱で情報を共有する。それでいいな?」
「異議なし」
「異議なし」
「異議なし」
「異議なし」
「…………とんでもないことになったな……」
「ああ…………まさか、『ヴァルヴァスの五黒牙』の主体である黒魔鎧が行方不明になるとは…………」
「【獣王】を倒してから、ヒトたちの間では既に300年ほどが経過しておる」
「その300年で、『ヴァルヴァスの五黒牙』について分かったことは数あれど……まさか、本体たる黒魔鎧ウィンダムが単体で逃げ出すとは……」
「黒魔鎧の行方は追えぬのか、【豊王】?」
「配下の妖精族の報告によれば、無理のようだ。どうも、どこかの異空間にでも逃げ込んだらしく、どのような探知の術や神器にも引っかからぬとのことだ」
「厄介な……」
「だが、妖精族の研究によれば、『ヴァルヴァスの五黒牙』は五つ揃って初めて真価を発揮するらしい」
「つまり、他の四つを封印なりすれば、五黒牙が全て揃うことは防げるわけか」
「【陽王】の言う通りだ」
「ならば、早速残る四つの武具を封印するとしよう。ところで、誰が封印を担当する?」
「え? 我、今、とっても忙しいのだが……」
「我とて同じだ」
「我はただ単に、めんどくさいのは嫌だなー」
「ああ、もういい。封印もあの妖精族に任せれば良かろう」
「それはいいが……あやつのことだから、もう少し五黒牙を研究させろとか言い出しそうよな……」
「では、好きなだけ研究し尽くしてから封印させる。それならば、例の妖精族も文句は言うまい」
「承知した。【魔王】の言ったようにあやつには伝えておく」
「ところで……こちらの報告書にあることは真実か、【豊王】?」
「報告書……? ああ、件の妖精族の『五黒牙研究レポート』か。おそらく、その通りだろう。もっとも、本体である黒魔鎧が行方不明になった以上、今は確かめる術はないがな」
「──『ヴァルヴァスの五黒牙』、その本体たる黒魔鎧にだけは意思のようなモノが見受けられ、その意思が認めた者しか着用できない……か」
「まあ、武具に意思が宿る、という話は珍しくはない。それで、黒魔鎧が認めるための条件は分かっているのか?」
「それがな、【魔王】……どうも着用の条件が『自分よりも強い者』らしい」
「…………は?」
「おい、【豊王】? ふざけている場合ではないぞ?」
「我はふざけてなどいないぞ、【流王】。配下の妖精族から、そのような報告を受けておるし、この報告書にもその旨記されておる」
「あ、ホントだ。一番最後に書いてある」
「しかし、鎧より強いってどういうことだ? より頑丈ってことか? それとも、より防御力が高いってことか?」
「そこまでは……更に詳しいことが分かる前に、黒魔鎧が行方不明になったゆえな……」
「…………」
「どうした、【陽王】。眉間にめっちゃ皺寄ってるぞ?」
「いや、『黒魔鎧より強い者』というのがちと気になってな……」
「ん? どう気になっておるのだ?」
「もしも言葉通りだったとしたら……黒魔鎧は、あの黄金の戦士の所に行ったのではないか、と思うてな」
「【獣王】を倒した黄金の戦士か? 確かに、あの戦士は黒魔鎧を纏った【獣王】を真っ向から一刀両断にしたからな。『黒魔鎧より強い者』という条件に当てはまると言えるが……」
「だが、あの黄金の戦士は【魔王】によって召喚され、【獣王】を倒すと同時に消えてしまったぞ?」
「『あらゆる時空、あらゆる事象から、【獣王】を倒せるだけの力を持った者』が召喚の根本的な条件だったからな。いまだにあの黄金の戦士がどこの誰で、どのような立場の者だったのかさえ知れぬままだ。それどころか、名前さえ分からぬ」
「そうなのだ。だから、黒魔鎧があの戦士の所に行ったとは考えにくい。考えにくいが……」
「可能性としてありうる、といったところか」
「ああ。我も【魔王】の言う通りだと思うのだ」
「【魔王】も【陽王】も考えすぎではないか? 今はまず、手元に残った4つの武具を封印する方が先であろう」
「我も【流王】の意見に賛成だ。【豊王】、貴公はどうだ?」
「我も【流王】、【言王】の両名に賛同する」
「……あい分かった。今は残る4つの処置を優先させよう」
「異議なし」
「異議なし」
「異議なし」
「異議なし」
これにて第6章は終了。次の第7章こそ最終章になるはず(笑)。
いつものように少し間を置いて、次回は7月15日(月)に投稿します。
引き続き、お付き合いいただけると幸いです。次こそ最後まで駆け抜ける所存なり。