(1)謎の生物に襲われた
季節は冬、寒い夜道を歩き、白い溜息をつきながら松崎美緒は死にたいと思った。
私の人生は殆ど高校時代で終わっている。父親が若い頃に蒸発したが、母親と娘で仲良く当時は暮らしていた。
「あの頃は楽しかったな………………」
母親譲りの、鼻が少し高く丸顔で西洋風の顔に日本人を足したような、美貌をもった私は貧乏ながらも学校では良い意味で目立っていた。友達もたくさんいた。お世辞にも体型は良くなく彼氏とかはできなかったが男友達も多かった。
頭もよく、高校はレベルの低い偏差値60程度の学校だったが、主席で入学さえした。
大学は最初は地方国公立の大学に行こうとしてたけど落ちて、結局就職することになった。
_____ここまではまだ良かった。ここから私はどんどん孤独になっていった。
就職祝に可愛い化粧品を母親から貰い、高校時代の友達と楽しく同級会をし、就職してから2年ほどは楽しい毎日を送った。
私が不幸になったのは6年前の丁度この季節。
貧相だったけれど、私の性格と顔のおかげか当時人生初の彼氏ができて嬉しかったころ、急に母親が癌で倒れた。私の心の支えだった母親が…………。
母親は死に、親戚もゼロ、少ない収入で毎日を暮らす日々。
母親が天国へ旅立ってから少し、彼氏との関係が発展し、同棲を始めた。
だが、彼氏の性格は、優しさは急変した。
遊園地にいったり、ちょっと高いお店でご飯を食べたり、そういう日常は続かなかった。
最初は優しかった体の付き合いも、徐々に乱暴になり私に暴力をふるってくることも増えてきた。
………………要は私なんか所詮顔だけだったというわけだ。
彼氏と別れてそれ以来男の人を見るだけで震えが止まらなくなり、精神不安から職場をやめて生活保護を取るようになった。高校時代の付き合いもやはり上辺でしかなかったのか、連絡も何も来なくなった。
生まれたときから私は孤独だった。可愛い顔で周りからはもてはやされていたがそれも所詮上辺だったんだなと今になって気付いた。
腕には横にのびる複数の傷跡がある。自傷癖。メンヘラと呼ばれても否定できない。
「………………怖い……………………死にたい……………………」
家にさえ帰る気持ちもなくなり、満月が照らす無人の公園のベンチにひとり座る。自然と涙が出てきた。どうせならこのまま凍え死んだっていい。
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「ッ…………………た、助けてーーーーー!」
私の意識が朦朧とし始めたとき遠くからそんな叫び声が聞こえた。
なんだろうと思い、重い腰を動かす。手は凍えて真っ赤になっていた。
声の方へ行くと、複数のいかにもヤンキーのような男が何かから逃げていた。
首には黒いタトゥーがほられている。背中には龍がほられてそうな男たち。
私は恐怖で動けなくなった。
「おっ、ちょーどいいな、お前、そこの女、ちょっとわりいな」
私はその中のひとりに腰と肩を掴まれ、男たちが走っていた方向に投げられた。道路に投げつけられ、足の皮が擦り向けた痛みが走った。
抵抗する気力なんかなかった。殴られたり犯されたりするのは慣れていた。マグロ以下だろう。
投げられたところには大きな謎の生物がいた。暗くてよくみえないが、豚のような顔をしている。こんな生物日本にいたかな?動物園から脱走したのかもしれない。
さらに二足歩行の豚の右手には棍棒のようなものが握られていた。
「ちょっと……………誰か………………助けてよ……………」
抵抗の声はどうにかでたが、無人の路地裏、ヤンキーたちはとうに姿がなかった。
グチャッ
気付くと、二足歩行の豚が握る棍棒は私のお腹のあたりに振り下ろされていた。
血が見える、内臓が見える。もう終わりなんだ……………。
犯されなかっただけマシかななどとメンヘラらしいことを考えながら私の意識は完全に消失した。