1 静止軌道・・・シロル
川を遡った先にある滝。その奥には小さな村があった。孤児ばかりが住むと言うその村の長は村人は50そこそこしか生きられず、長は200を超えていると言う。しかもそこには超常の能力があった。
登場人物
アリス 主人公 17歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長158セロの女の子。
マノさん ナノマシンコントロールユニット3型
ミット 16歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長168セロの女の子。
ガルツ 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長185セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。ガルツ商会の会頭
シロル アリスの従僕 白猫ベースのネコミミメイド ロボト
クロミケ アリスの従僕 クロとミケの2体 身長3メルのネコ耳ヤロー ロボト
サントス ハイエデンの金物屋の店主。商取引の仲介役。
フラクタル パルザノンのホンソワール男爵家当主
ジョセフィーヌ パルザノンのホンソワール男爵家内義
テレクソン パルザノンのホンソワール男爵家長男
シャルロット パルザノンのホンソワール男爵家長女
セバーク パルザノンのホンソワール男爵家執事
ヤクトール パルザノンのホンソワール男爵家兵長
ジーナ サントス村の長 胡散臭い婆さん
カンツ サントス村村民
ネギラ サントス村村民
ズーニス トカタ村の村長
グロース ズーニスの母親
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第11章 サイナス
1 静止軌道・・・シロル
ミットさまが川を遡り村を見つけたと言うので、今日は皆で訪問することになりました。
大型のボート2台にお肉、魚介を積んでみんなでお出かけです。50人程の村と聞いていますので食材の在庫があまり捌けないのが残念です。
両岸の森を見ながら遡る川は広くゆったりと流れていて、いくらも行かない場所に滝があるなんて信じられないくらいです。
見えて来ました。黒い箱型の岩壁の正面が滝、左手に船着場。自然を模していますが、これはどう見ても人工物です。
2台のボートはロープで舫い、クロミケが荷を下ろし、30キル程ですから階段も軽々と運んでくれます。
岩壁を登ると上流側は山に挟まれた谷といった様相です。
「なんかねー、マノさんが結構ヤバそうなとこだって騒いでるよ」
「はい、アリスさま、この辺りは放射線量が高いようです。左の山に草木が見えないのはそのせいでしょうか」
「ヤバいってどんくらいー?病気になったりするー?」
「ミットさま、何年も住み続けると良くないですね。ここに村があると言うことは、何か対策があるのでしょう」
ミットさまが先導して獣道のような薮の隙間を進んで行きます。曲がりくねった道が薮を抜け、突然前が開けました。30軒程の家が立ち並ぶ集落がそこにはありました。
村の中は放射線量が若干下がっています。どう言うカラクリでしょうか。
長のジーナ様が出迎えてくれました。
「約束通りみんなで来たよー。食材を持って来たから涼しいとこってあるかなー?お肉と魚ー」
「ああ、カンツ、岩屋に案内してやっとくれ。
よう来なさった。わしがこの村の長をしているジーナじゃ」
「アリスです」「シロルです。こっちはクロ。ミケと一緒で喋れません」「あたいはミットだよー」
クロミケはカンツさまに付いて食材を置きに行き、あたくしたちは長の家に案内されました。
部屋の壁には見慣れない道具がいくつもかけてあり、特にミットさまが興味津津のご様子です。
「まずこの村について説明しようかの。今おるのは全部で48人。うち子供が18人じゃ」
「子供が多い……」
「そうじゃ。この村は子供が多い。それはわしがあちこちから孤児を集めて来るからじゃが、大人が少ないせいでもある。わし以外の者は生きて50半ば、早ければ40代で死んで行く」
「そこの山のせいかなー?なんでここに住んでるのー?」
「ふふ。その山がそこにあるからじゃ。わしはここでなければただの人よ。
ここの者は皆孤児じゃ。孤児の間に生まれる子は殆どが死産、生きておっても奇形となりそれほどは生きられぬ」
「だからー。その山から離れて住んじゃダメなのー?」
「わしはダメなんじゃ。ここを離れ2日もすると力が抜けて動けなくなる。皆もそれを望まぬでな。わしを母親のように慕っておるのじゃ」
「河口に住んで毎日ここまで通って来るのはー?」
「さっき2日と言ったがの、ここにずっと住んでおってたまの2日じゃでな。通いでは1日持たぬ」
「そうですね。ここまでの線量分布を見ると川の水に幾らか含まれ、滝の手前で結構強くなり滝の下で一旦低くなります。薮の道が一番高くてあの場所で1週間も過ごせば健康に影響が出るでしょう。この村の中へ入った途端かなり低くなりますが、それでも継続して浴びると40年ほどで致死量に達する線量ですね」
「センリョウとやらが何か知らぬが、今致死量と言ったか?」
「あの山から出ているのはジーナさんには力だけど、他の人には毒らしいよ」
「むう。そうかもしれんの。ここの者だけが長く生きられぬのはわかっておったが」
「でー?ただの人じゃないってー?」
「ふふ、それを話すには条件があっての。
ミットさん、あんたここに住まんかの?あんたにはわしの持つ力を継いで行くことができるのじゃ」
「あたいはここには住めないよー。広く世界を見るんだー。アリスと一緒にねー」
「広くか。2本の足で見られる世界など知れている。この世界が丸いのは知っておるかえ?」
「あー、聞いたねー。見たことはないよー」
「わしはこの目で何度も見たよ。そこの海が豆粒よりも小さくなり、手が届きそうな近さ、3メルくらいかの、80セロほどの丸い世界が闇の中で浮いているさまをな」
「それだと静止軌道くらいでしょうか?どうやってそこまで行ったのですか?」
「セイシキドウ?ずっと上じゃがの」
「そうです。3万6千ケラル。遥か上空で空気もありません。放射線は大丈夫だったのですか?」
「ホウシャセン?あそこは気持ちの良い場所じゃぞ?確かに空気はないが力に満ちておる。各地を飛び回っての、力が足りなくなると上へ行くのじゃ。ものの30メニで元通りじゃからの」
「ジーナさん、そこへは物を持って行けるの?」
「さてどうじゃろ?やって見たことはないかの、着ているもの、持っていた物はそのままじゃったと思うがの。
おっと、話しすぎたぞえ」
この方は自分が何を言っているのか分かっておいでなのでしょうか?静止軌道の真空中で強い恒星からの宇宙線を浴びながら30メニ過ごす。そこまで生身で往復できると言っているのですよ?話しすぎた?
「毎日その高さまで飛んじゃえば、ここに住む必要ってないんじゃないかな?」
「何?毎日じゃと?そんなに行っても良いのかの?」
「いいのかって言われると……なんかまずいことでもあるの?」
「いや。だがあそこは気持ち良過ぎての。行ったきりになりそうなのが怖いのじゃ」
「お部屋を運んで、中でくつろいじゃうってのはどうだろーねー?」
「あー。アルミーの合金がいいかな。飛ぶ時はどのくらいの物を運べるか調べないとね」
「な、な。何を言っておるのじゃ?なぜそんなあっさりと話が進む?誰もが信じなかった上に気狂い扱いじゃぞ?ここの者とて口には出さぬがわしの法螺じゃと思うておるのに」
「えーっ?そうなのー?まー、いーじゃない。
ねー、ジーナー。人も運べるんでしょー?ハイエデンに行ってアルミー持ってこよーよ」
「ハイエデン?アルミー?」
あたくしはハイエデンの観光用フォトを3枚出し、ジーナさまに渡します。
「こちらがハイエデンの街並みです。見たことはありませんか?ここからですと直線距離で1200ケラル程、方角は東南東。この方向になりますが」
「なにを……おお、この入江の白い像は見たことがあるの。はて、これはなんじゃ?」
「あー。可愛いでしょー?アリスが作った温泉場だよー」
「作った……この娘がか?」
大きく頷くミットさまに、何かを諦めたご様子のジーナさま。
「どれ。この街は10年ぶりかの。ちょっと行って来るとしようかの」
「皆さまにお食事を出そうかと用意して参りました。お出かけ前に台所などご案内いただけますか?」
「ああ、そう言えばずいぶんな大荷物じゃったの。ちょっと待っとくれ。
カンツ!ネギラ!」
「はい、おばばさま」「長、何事でございましょう?」
「シロルさんが食事を振る舞ってくれるそうじゃ。準備を手伝うように。わしはミットさんと他出して来る」
「は、いってらっしゃいませ」
「シロルさん?こちらでございます」
「むう。あたしはどうしよう」
「ジーナー、アリスも行けるー?あたいは一緒がいーなー」
「構わんが?」
「「わーい!」」
お二人が楽しそうで何よりでございます。これは一層腕を振るわなければいけませんね。




