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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第10章 西の内海‬
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9 キラキラトカゲ・・・ミット

 これまで:ついに西の内海に到達したアリスとミットは、道を作りながら左回り内海沿岸を探検して行った。砂浜を満喫するアリスとミットの姿がそこにはあった。

 あたいは森の地形を見ようと、小動物を追い散らして偵察してたんだ。そこで酷く剣呑な気配を感じたあたいは、身体を低くして剣を抜き静かに暗い森へ分け入った。

 何か黒い大きなものが動いている。そこへ差した(わず)かな木漏れ日に黄色や赤の光が踊って見える。あれは反射か?

 見えたわけでもないのに、脳裏にチロつく赤い舌。だがヘビではない。なんだ?

 息を殺して正体を探る。見えないものを見ようと目を凝らしたその時、ギラリと強い視線があたいを襲った。


 勘づかれた?


 大きな気配は左へ回り近づいて来る。咄嗟(とっさ)にあたいは後ろへ飛んだ。さらにもう一歩退がり森の暗がりから飛び出した。大きな気配は陽の光を浴びギラリと輝いた。


 手足の短い尖った頭、長い胴に長い尻尾。輪郭は大きなトカゲと言ったところか。ただ全身が光って見える。その上色が特定できない。気の狂ったような光の乱舞がトカゲの形で迫って来る。いや、目だけは光の中に穴が空いたように真っ黒だ。


 あたいはその目に2連続の突きを放った。

 キイィンと甲高い音が辺りに響く。

 やはりトカゲ同様半透明の(まぶた)が別にあるのだ。しかも突きを弾くほど硬いなんて。


 目の前で真っ赤な口が大きく開いた。喉の奥が妙に明るい。右の頬を内側から斬るつもりで口に剣を振込こんだ。

 ガキン。


 僅かに頬に切り傷を入れたが次の瞬間、喉の奥から何かが飛び出して来た。ジュッと走る黄色い泡の帯を体を(ねじ)って辛くも(かわ)し、倒れ込むように一回転、距離を取る。何かねっとりしたものが右後ろの灌木(かんぼく)を伝い降りる気配がある。


 あんなもの浴びたくないぞ。皮も固い。あたいとミケだけでは太刀打ちできないよ。

 幸いミケは少し離れている。ここは逃げるかとチラと後ろを見た目の前にキラキラ光る帯が飛び込んで来た。首を()らしのけぞるあたいの鼻先を(かす)めて細長い尻尾が風音と共に通り過ぎて行く。あの一瞬で尻尾だって?いよいよヤバイね。


 あたいは黒い目を見ないようにしてジリジリと退がる。逃げると追われるし、視線を合わせるのは戦っていることになるって話を誰かに聞いた。ミケに手で退がる合図をして顔を背けず退がって行く。ミケもあたいの様子には気付いているのだろう。同じように後ろ向きで退がって行く。


 相手は動かず10メル離れたところで背を向け森へ戻って行った。キラキラの残像があたいの瞳に焼きついていた。

 力の抜けたあたいをミケがトラクまで肩に乗せて運ぶ間中も、体の震えが止まらなかった。


 戻るとすぐアリスはミケから画像を取り出してシロルと相談を始めた。ミケはあまり近づいていなかったので画像が粗いけど、体長は3メル半、重さは400キルくらいと分かった。


「これ、ウロコだよね?お日様の反射でこんなに光るなんてどうなってるんだろ。是非とも欲しいな。その泡ってどんなの?」

「口から出た時は太い槍かと思ったよー。あたいが左へ避けると追いかけて首を振る間も出て来てたー。後ろの低い木に当たった音と、ネトーってかなり粘い感じで垂れ下がるのは気配で分かったよー。眺める暇は無かったけどねー」

「ふーん?」


   ・   ・   ・


 今日は蜥蜴(キラキラトカゲ)を仕留めるとアリスが言う。あたいは接近して(おとり)役だそーだ。いーじゃないかー。やってやるよー。


 とはいえあいつがあの森の入り口でじっとしてるわけもない。どこにいるのか探すところからだ。

 クロミケとシロルを加え5人?全員でかかる。あたいが先頭、両翼にアリスとシロル、その後ろにクロミケのクサビ型隊形だ。薄暗い森へ分け入って40メニ程、微かな気配を感じる。けど、あいつじゃないのは確かだねー。


 (おど)かしてコイツを森の中を走らせたいとこだよ。あたいは弓矢を背から引き抜き、手を上げて後ろの動きを止めた。一人静かに進み位置を探る。この気配はイノシシだと思うんだよー。

 程なく1メル弱のイノシシが葉叢(はむら)の向こうで泥穴を掘っている音が聞こえて来る。


 回り込んで目の前へ飛び出し大声を上げる。

「ダーッ!」


 イノシシは戸惑ったように泥だらけの鼻面をこちらに向けた。そのお尻にあたいの矢が突き刺さると、突然の痛みに上に飛び上がった。そこへもう一度大声を浴びせると、狙い通りパニクったイノシシがこちらへ向かって突進して来る。

 (かわ)しざまにもう一本矢を背中へ射送ると、イノシシは猛烈な勢いで走り去った。

 この方角が当たりならいいなー。

 騒ぎを聞いてアリスたちがそばへやって来た。静かにさせて気配を探る。……これか!?

 イノシシを追うような動きがあるね。行くよ。


 ズシン…メキィー……

 派手にやってるねー、とにかく静かに行こう。

 150メルほど先で決着が付いたらしい。見えて来たよ。灌木(かんぼく)の陰から覗くと、薄暗い中、蜥蜴(キラキラトカゲ)がイノシシを押さえ付けお食事の真っ最中。日は差し込んでいないので黒い塊が(うごめ)くようだ。

 コイツだねー。アリスとシロル、クロミケの位置を確認してあたいは全身を(さら)した。


「さーて。あたいの相手をしてもらおーか」


 蜥蜴(キラキラトカゲ)はのそりと血塗れの顎を持ち上げた。そこだけ吸い込まれるような黒い目がこちら向く。

 あたいが1歩踏み出すと前肢を獲物から離しそのまま立ち上がった。自分をより大きく見せてビビらせようってんだね。腹の皮の固さにも自信があると。2メル半まで持ち上がった頭に木漏れ日が当たりチラチラと色が舞い踊る。


 あたいは更に1歩出た。


 グギャーオゥ!

 身の(すく)むような甲高い咆哮(ほうこう)が森を突き抜ける。

 ズシャッと鈍い音と共に4つ足に戻り右前肢と左後肢を同時に踏み出した。


 グギャーオゥ!

 悪いね。あたいは()る気で来てるんだ。(おど)しには乗らないよ。軽い双剣を抜き、真っ直ぐに突っ込むと蜥蜴(キラキラトカゲ)が頭を下げあたいに向かって突っ込んで来た。15メルの距離が一瞬に詰まる。当たる瞬間にトカゲの頭が大きく振り上げられた。

 そこにいたら森の樹冠(じゅかん)を散歩できたかもだけど、あたいは左へ飛び側面を突く。目星を付けていた倒木に着地して、両足で踏ん張り背に飛び乗った。

 乗ってみると感触は普通のトカゲを変わらない。ウロコが大きいくらいでしなやかな背の筋肉の動きが伝わって来る。あんなに乱反射して見えるからもっと凸凹なのかと思った。

 とはいえ、ここに居たんではまともな攻撃はできない。

 蜥蜴(キラキラトカゲ)の背がいきなり大きく丸められ、あたいは前へ跳ね飛ばされた。飛んでいく先に木があるけど、あれで勢いを殺すか。

 トカゲが突進を始めた。左を掠めるように近づく木の幹に両足を踏ん張り勢いを殺すと右手の灌木を超えた辺りへ転がり落ちる。あたいの動きを追っての軌道修正が間に合わず、蜥蜴(キラキラトカゲ)は灌木へまともに突っ込んだ。左の後肢が30セロと離れず顔の前を通り、背の冷や汗を感じながら位置取りの不味さを考える。


 コイツが突進を繰り返すので、アリスとシロルが近くなり過ぎるのだ。なんとか元の位置へ戻して口を開けてもらわないと。


 蜥蜴(キラキラトカゲ)は灌木など無いかのように蹴散らし、その場で一回転してくれた。あたいは元の対峙(たいじ)場所へ向け一散(いっさん)に走る。

 乗って来た!他の気配に目移りせず追って来るよ。おっと、コイツあたいより足が速いよ?あの木までいけるか?

 全力で走ってやや左へ全力ジャンプすると、正面の木の幹を靴の木登りスパイクで捉え右手の木を目指して飛ぶ。あたいを追って蜥蜴(キラキラトカゲ)の頭がすぐ下を通り、たった今蹴った木に激突した。


 ズガン!バササァーー……

 物凄い音を聞きながらあたいは次の木を蹴ってトカゲの後ろへひと転がりすると剣を構える。


 グギャース!

 一瞬振った首を上に向け、一声吠えた蜥蜴(キラキラトカゲ)がまたその場で回転した。回転の勢いが止まらず体の向きが行き過ぎている。頭だけはこちらを向いてあたいを睨みつけるけど、急には動け無さそう?

 前へ出て顔に連撃を斬り込む。目、鼻を叩かれ、まだ脚の動きが回復していない蜥蜴(キラキラトカゲ)が粘い泡を出そうと口を開けた。

「今だ!」


 そう叫んで左右の後ろから飛んでくる針とトカゲの泡を(かわ)すため左の地面に伏せた。足をかすめて泡が抜けて行き、直後60セロほど上をシロルの針が2本。あたいはすぐに立ち上がり正面に戻る。

 ネバネバは15メルも飛んで地面を汚してるね。口に飛び込んだ針には仕掛けがある。30セロの針が5メニほどかけ、1メルまで口の中で伸びるのだ。

 口内に刺さった針はほぼすっぽりと口の中で、前肢で除くことができない蜥蜴(キラキラトカゲ)が口を開けたまま大きく頭を振り回した。2本の針がうまく抜け飛び散ったがまだ2本残ってる。


 口を閉じることができず、忌々(いまいま)しそうにあたいを睨む蜥蜴(キラキラトカゲ)に切りかかる素振りを見せると、また泡を吐こうと口を開けた。そこへ今度はクロミケの槍が左右から飛び込む。

 ミケの槍が(わず)かに速かったようで蜥蜴(キラキラトカゲ)の首が振れ、泡を避けたはずのあたいの右足にべったりと付いてしまった。でもお陰でクロの槍は正面から飛び込み柄の殆どが口の中だ。


 もう声を上げることもできず、大きな動きもできない。ミケが走って来て足を取られたあたいを抱え上げ上げた。クロが正面に立ち動きの鈍い蜥蜴(キラキラトカゲ)の口内に槍を突き込む。

 アリスに泡を取ってもらう間に5本の槍を口に突き込まれ蜥蜴(キラキラトカゲ)は絶命した。


「ミット、これ最悪だよ。取り敢えずそこらの葉っぱで(ぬぐ)ってお風呂だね。熱いくらいのお湯なら取れそうだから」


 そう言ってできるだけの泡を拭い取り、葉っぱを足に貼り付けたあたいは、そのまま周囲の警戒に就く。ベットリねっとり粘いだけで腐食とかじゃなくて良かったとアリスが笑う。


 トカゲはクロミケ2人がかりでも裏返せず、邪魔な右の前後肢をアリスが先に切り取った。アリスはその足の皮に切れ目だけ入れシロルに任せると、転がしたトカゲの腹を開きクロの掘った穴へ内臓を落とし込む。その間にも固い皮が地面に拡がっていき、干し肉として積み上がり始める。

 あたいとミケで、トラクを近くへ持って来ることにした。シロルは食べかけのイノシシも回収すると言ってたねー。これは大荷物だよー。


 トラクは森の入り口に停めたままだけど、さっさと中に入って桶に熱々のお湯を出し、外にいるミケに一つ渡す。あたいを抱えた時に左腕にベタベタが付いたのだ。下を脱いで足を拭う。

 下まで通ってはいないけど気持ち悪いんだ。

 脱いだタイツと靴もお湯の中で洗う。熱には弱いんだねー。割と簡単に落ちたよー。

 替えを引っ張り出して身に着けると洗濯物をベッドの脇に干して、運転席へ。アリスやシロルはマノさん経由で自在に動かすけど、あたいはそんなわけにいかないんだー。


 ミケが倒木なんかの邪魔物を退けてくれる後を付いてトラクを動かしていく。距離は3ケラルくらいなんだけど時間が掛かったねー。


 クロも見える範囲の障害物は片付けててくれたんだけどねー。いやー、すっごい量だねー。イノシシも結構おっきかったからねー。

 こないだの白ヘビもだけど、アリスはめちゃめちゃ楽しそーだよー。あたいの口元もついつい緩んじゃう。


 流石に蜥蜴(キラキラトカゲ)の縄張りにやって来る奴はいないと見え、無事積込みが終わった。トラクはそのままバックでシロルが森から出した。

 海岸寄りの森の縁に沿って進むと川。水が流れている幅で50メルもある結構おっきな川だ。アリスが当然のように橋の準備を始める。この規模となると今日中に渡れるかなー?


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