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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第10章 西の内海‬
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8 カニ・・・ミット

 これまで:ついに西の内海に到達したアリスとミットは、道を作りながら左回り内海沿岸を探検して行った。念願の白ヘビを仕留め、追いついて来た馬車と一悶着あった。

 あたいがつまらぬものを斬ってしまった2日後、山道を抜けた。今度はいきなり砂浜ー。いいね、砂浜ー。

 ざっと見ただけで幅300メルの砂だよー。サックサクだよー。


「アリスー、どーしたー?」

「平らなのはいいし、あたしも困らないけど、ここって馬車が走れると思う?」

「あー、そっちかー。そーだねー」


「砂を固めるだけならそんなにかからないけど、どこが道か分からなくなっちゃうし。きれいな砂浜の真ん中に道路ってのもねえ?」

「じゃあ、遠慮(えんりょ)して山裾(やますそ)にするー?」

「そうだね、なるべく山寄りの砂浜の上ってことで。50セロくらい砂より高くしておくよ」


 そうなると降りるついでに300メル右に向かって道を曲げていかないとー。

 右手の山はこの辺りではずいぶんなだらかだ。けど、砂浜からは3メル程も高くなっているし平らなところなどろくにない。道を作る時間は倍くらい違うかな。

 シロルが待避所を一つ作って道を右へ曲げていく。クロミケの木こりもしばらくはお休みだー。次は釣りだねー。

 アリスが大物狙いのぶっとい竿を用意してミケに預けた。


「船を作って沖に出てもいーかもねー」

 あたいが提案すると

「木質が足りないー。取りに戻るのが面倒だからまた今度ね」


 つれないなー。

 ともかく100メルを10メニ程度のペースで進んでいく。シロルとクロミケが仕事をしてるなか、あたいとアリスは海辺で水遊び……もとい、お魚調査だ。浜を掘って貝を探す。潜ってカニやタコといった生き物、海藻を集める。暑っつい夏は海辺最高ー。


 ミケが巻いた糸を100メル以上も投げて沖釣りをしている。1ハワーほどボウズだったけど、ついにアタリがあった。

 ギュギュンと引かれる()り糸を竿を寝せて糸を巻く。引きが強いので竿を折られない用心だ。ビンと張った糸が波頭を切り裂いて右へ猛スピードで走る。あまりの引きにミケの足が砂に潜り込む。一転左へ走り始めた糸をミケが足を踏ん張り巻いていく。


 30メニ程も掛かって魚は岸に寄って来たがその姿は未だ見えない。あたいもアリスもミケの姿をずっと追っていた。

 魚が水面を飛び出し空中で1回転した。ミケは糸を緩めず急速に巻いた。ああやって針を外す技が魚にはあると誰にだったか、聞いたことがある。エラアライとか言うそうだ。

 チラッと見えた魚はでっかい。たぶん2メル越え。これは夕飯が楽しみだねー。頑張れミケー。


 巻いて巻いてもう少しというところで糸が切れた。これでアリスに火が点いた。もっと切れにくい糸を作ると言って、後ろの資材庫から金属や鉱石、なんだか分からないマノさん素材を取り出してトラクに籠った。


 ミケは素知らぬ顔で……あ、表情は無かったねー……釣りを続けて小さめとはいえ2メルに近い魚を揚げた。顔がおっきな黒っぽい魚で口は平たい感じ。体もコロンとしてヒレだけ赤が入っている、いかつい魚だ。

 ただ釣り上げた時にはトラクが400メルも移動していて、ミケが滑りやすい魚を抱え、足が沈む砂地を苦労して運んだ。あたいもミケの釣り道具を一緒に運んだけど、砂の上を500メルも歩くと流石(さすが)に疲れたよー。

 糸より砂地で物を運ぶ道具が欲しいー。


 糸は黒くて丈夫な糸が出来た。マノさんを逆さに振ったとアリスが言ってたから、相当な騒ぎがあったんだと思う。

 砂地の荷車は自分で走る平たい4輪車だ。車輪がなんだかふわふわしてて、砂の上にペタッと広がる感じ?でもそのおかげで砂に沈まない。デンキで車輪を回すとバウンボウンとおかしな揺れ方をしながらも軽快に走る。二人乗りで広い荷台が付いている。

 これ、結構スピードが出て、広い砂浜を思い切り走るとすっごく楽しーよー。速く走るほど揺れが少なくなるのが不思議な乗り物だ。


 今日もアリスとクロが釣りをする(かたわ)らであたいは海に潜って魚介を採っている。砂浜は暑いので、こっちの方が快適なんだ。

 白ヘビの皮で上下が一体の装甲スーツを作って潜っているんだ。アリスは鮮やかな青、あたいは目を射るオレンジ。要所に薄いリング状の装甲が並んで付いているのでちょっとボッテリした感じもするけど、気に入ってる。


 水中では長い剣はとても振り回せないので短剣を作ってもらった。それと返しの付いた短くて細い槍。握りのボタンを押すと一気に2メルまで伸びる。縮めるときはハンドルを巻くので連射は効かないけど、泳ぐ魚も狙える威力と速さがある。外しても柄が伸びるので伸び切ったところで一回突き直すチャンスがある。水中だとそう大きくは狙いを変えられないけど、5回に1回くらいは成功するからバカにはできない。


 水面に浮き袋のついたカゴを浮かべて、海底へ潜る。最初は全然潜れなかった。頭を下にして一回上に飛び反動で潜るんだけど、手で掻いても膝のあたりまでしか沈まない。その挙句お尻からぽっかりと水面に浮き上がる始末だった。

 でもあたいのような天才にかかれば、半日もあれば克服できちゃうことだ。まあ比べるのがアリスだけだから、ほんとかどうか知らんけど。


 2日目からは足に弾力のある板を付けて潜っている。足をくねらせるだけで水中を自在に進めるのだ。

 青く濁りのある海の10メルほどの深さには5セロくらいの味の良い巻貝がたくさん居る。あたいは一回潜ると10個程も岩にへばりつく貝を短剣で剥がして、腰の網に入れ上がって来られる。貝の中身は2、3セロしかないのでたくさん要るんだ。


 アリスは槍で魚を突いている。海藻や岩場の影に隠れている魚に近づいてビシッと槍を伸ばす。突き刺さった細い穂先には返しが付いていて簡単には抜けない。弱った魚を腰の網に移し槍を巻き戻すと次を探す。1度の潜水で2、3匹の魚を突いている。


 3日目、潜って見ると脚のやたら長いカニの群れがいた。かなり密集しているのによくお互いに絡まないものだと感心していた。みんなハサミを上に構えているので手を出しにくいねー。

 槍で12セロほどの胴を突いてみた。上から突くとバスッと刺さって返しも効いた。持ち上げに掛かると周りのカニが絡んで来る。8匹くらい固まって持ち上がった。

 これどーしたらいーんだろ?


 槍を揺すってみたけど、落ちる様子もない。槍をぶら下げたままカゴに戻ってあたいが途方に暮れていると、アリスが突いた魚をカゴに入れ、また潜った。槍の先にぶら下がるカニダンゴを横から突く。結果カニダンゴが二つに割れた。元気なカニが絡み合って3匹いるので手が出しにくい。痛いのは嫌だし。槍も取られちゃって仕方ないので、カゴから下げたままを引いてミケのいる岸まで泳ぐ。

 泳ぎ着いて下を見るともう死んだカニが1匹ずつ居るだけだった。なんなんだろーね、もう!


 カニをカゴに入れると

「アリスー、悔しいからもっかい行って来よー」


 カゴを引いて沖へ戻るともうカニの姿はどこにも無かった。


「なんか化かされた気分だー」

「2匹捕まえたんだから良いじゃない。また今度捕れば?」


 帰り道の荷車の上でどうやって捕るか相談する。


「カニダンゴをそのまま網に入れるとかー?」

「網だとあの足が引っかかってうまく入らないね。おっきな箱を沈めて置いて箱ごと回収するとか?」

「えー?どうやって回収するのよー?」

「海の中で小さく畳んじゃうの」

「わー、アリス、凶悪だー。長い足もバッキバキー?」

「あー、そうなるかな。元気だと引っ掻かれたり挟まれたりするからね」


「それだと運ぶのが大変じゃないー?」

「そうだね。ボート作ろうか?ケルヤークで使ったやつ」

「あれは速くて楽しーね。良いかもー」

「まあ、シロルに美味しく料理してもらってからだけどね」


   ・   ・   ・


 先行して偵察してるけど、5日ほど砂浜を進むと右手の高台の上が割と平らになって来た。地面も固いのでそのままで走れそうだということで、斜路を作って一段登ることにした。

 どうせならすぐ先の川のところがいいねー。橋をそのまま斜路にしちゃおー。


「でもそうなると海遊びができなくなるね」

「それはあたいも同感だよー」


 まあ海の食材はカニも貝もたっぷり捕ったからしばらくはいいんだけどねー。


 橋を作って登るのに半日。上は走りやすいので日に50ケラル近く進んだ。途中に小川や湿地の迂回があったので内海半周地点まであと2日くらいかなー?

 朝から走り出して少しした頃、何か前方から違う感じがする。なんだろうと思いながら10メニ。違和感は強くなっている。特別危険な感じはないけど、なんかありそうなんだよねー。


 トラクを止めてクロミケと前方警戒のためあたいが先頭、少し遅れた左右にクロミケの隊形で進むと、突然右のミケが地面を踏み抜いた。

 右足が股までズッポリと落ちている。

 1メル以上の落とし穴?地面の下?


 あたいは地面に耳を当て音を聞くと、ミケが足を引き抜くために動く音が妙な反響を伴って伝わってくる。穴ボコかー?

 あたいはミケのところへ行くと足を抜いた跡を覗き込む。2メル近い深さがあり底の方に横穴が半ば埋まって見えている。ここは出入り口だったらしい。穴は太さ40セロほど、でっかいモグラ?掘った土はどこへ持っていった?


 30メル左手は海に向かってガクンと地面が落ち込んでいる。土手の裾は草地。上と同じ種類だけど丈が高いかな?砂地より1メル以上のも高く小段になっている。降りて見ると土が柔らかい。よく見ると斜面に穴が一つ。草で隠れているけどもっとありそうだね。掘った土の捨て場所はここかもね。


「アリスー、50メル先は穴ボコだらけー。太さ40セロくらいのトンネルが掘ってあるよー。8輪あってもハマるかもー」

『えっ、穴ボコ?道作った方がいいかな?』

「そうだね。そこから始めていいよ。あたいはどこまで穴があるか見て来るよー」

『分かった。気をつけて。切るよ』


 さて。上に戻ってクロミケに声をかける。


「先を見に行くよー。付いて来て。穴ボコ注意ねー」


 トラクの散布範囲を避けて先へ進む。あたいが右手をあげるとクロミケはピタッと止まる。左手で弓矢を抜いて身を屈め矢を番える。気配が見えている30メル先にひょこっと丸い頭が出た。

 首辺りに矢を射込むと

 ギッ

 短い悲鳴を上げ倒れた。あたいはユックリと立ち上がり次の矢を番えたまま、辺りを見回した。


「ミケ、回収して」


 ミケが静かに移動を始める。

 首を掴んで持ち上げたのは体長1メルのアナグマ?大きな目と耳、尖った鼻、短い手足に大きな爪、丸い体、短い毛の色は全身黒に近い青。背に一本だけ赤い筋が見える。


 あたいは左にもう一本矢を放った。

 ギッ


 地面の下で一斉に多くの動きが起きて、気配が右へ、山の方へ遠ざかる。程なく気配は消えてしまった。


 住人は避難しちゃったみたいだねー。

 って、あたいは災害か!?


 左はクロが回収してくれた。獲物をまとめてクロがトラクへ運ぶ間も、あたいは微かな穴の反響を聞きながら先へ進む。1ケラルほどで穴ボコ地帯を抜けた。トラクがここまで来るには2ハワーくらいかかるってことだねー。


 トラクはクロに任せてあたいは周囲をちょっと見て来よー。この辺りから右手の山裾が広くま後退して木が多くなってくる。もう少し先には森が見えているから偵察は必要だ。

 まずは草むらの多い右手から見ていく。ひょろっとした木が(まば)らに生えていて草の方がよほど元気がいいね。


 あたいらの草を払う音で逃げて行く気配はたくさんある。ぐるっと山裾を廻って森に入ると、小さな殺気が走った。どうやらあたいが追った小動物を仕留めた奴がいるねー。


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