7 海岸道路2・・・ミット
これまで:ついに西の内海に到達したアリスとミットは、道を作りながら左回り内海沿岸を探検して行った。
白ヘビに跳ね飛ばされて座り込んでいるあたいに、アリスのあっつい手を当ててくれた。痛みが溶けるように楽になっていく。
あたいが力を抜くとアリスが目を覗き込んできた。ひとつ頷いてやるとアリスが立ち上がる。あたいもつられて立ち上がったけど、アリスはヘビの血抜きのため尻尾に穴を空けにクロのところへ行った。
さっきからクロが腿の収納から出したロープで逆さ吊りにしようと尻尾を縛る、すり抜けるを繰り返しているのだ。死んでしまえばでかい、固いと言ってもアリスにとってはただの素材、たちまち穴が空き太いロープが通る。
ロープの端を持ってクロがスルスルと苔むした大木を登って行く。太い枝の付け根にロープを掛けると飛び降りて来た。ミケと並んでロープを引くとヘビが吊り上がって行く。が半分ちょっとでいくら引いても動かなくなった。
体重が足りないらしい。クロミケは図体はでかいけど一体120キル程しかないのだ。全身筋肉の白ヘビは重いってことだねー。
アリスが行ったよ。どうするんだろー?
ミケのロープを足して?隣の木に回したねー、それをさらに離れた木までクロが引いて行って一巻きした。ロープが水平じゃないけどクロミケなら届く高さだよ。これはあれをやろってんだねー、直角に引くやつー。
ミケがロープを横に引くとヘビが持ち上がった。クロはミケが緩める分を引いて巻き取る、またミケが引く、ヘビが吊り上がる。何度目かでヘビの頭が宙に浮いた。
「おっきな木のそばで良かったねー、アリスー。あたいはクロとシロルを見に戻るよー」
「分かった。お願いね」
急いでトラクへ戻るとシロルはお茶の準備をして待っていた。設定をしてしまえば毎回20メニくらいはかかるからねー。
無事が分かったのでクロは木こりの続きを始めた。
「シロルー、でっかい白ヘビだったよー。7メルだよー。お肉いっぱい採れる、白ヘビって美味しいんだよー。皮もいっぱい手に入るから防刃の衣装も作りほーだいだよー」
「まあ、そうなんですか?それは楽しみですね。ミットさまが今着ている服も元は白ヘビとおっしゃってましたね。あたくしも一着お願いしても良いでしょうか?」
「お?シロルもお揃いにするー?ワンピースも良いんだけど、タイツにキュロット、チェニックが動きやすいんだよねー。ポッケもいっぱいあるし」
「防刃と言われますが、衝撃は入ってしまいますでしょう?叩かれて痣になった事が何度もございました。叩かれると硬くなるような素材は無いのでしょうか?」
「えーっ?そんな都合のいーの……
アリスに聞いてもらうかー。アリスー、聞こえるー?」
『どうしたの?なんかあった?』
「シロルがお揃いの外出着が欲しいみたいー。
でねー、叩かれた時に板みたいに硬くなるって服が無いかなってゆーんだけど」
『あー、確かに。剣が当たると痛いもんね。少しは楽になるかー?
……むう。どうだろ?
……鉱石が要るの?ふーん。
すぐは無理っぽいね、材料が足りないって』
「そっかー。まだかかりそおー?」
『うん。血抜きが終わったからこのまま引きずって戻ったほうが良さそうだね。クロを呼ぶよ』
「分かったー。こっちはのんびりやるよー」
『じゃあね。切るよー』
話している間に100メルの道ができたのでシロルがトラクを移動してる。続けて次の区間の設定を始めた。伐採が滞っているので木の間を抜ける方角を探っている。もうちょっと進んだ方がヘビに近づくからねー。
「シロルー。ヘビを引きずってくるってー。この木の間を抜けるかなー。幅はトラクが通れれば良いよー」
「仮の道でございますか?それは良いですね。100メルに拘る必要もないですね。では、このように」
「おー、2メル半幅の70メルかー。
6メニって、えらく端折ったねー」
「1往復するだけですので過剰なくらいです」
4回で300メル進んだところでクロミケが見えた。
「アリスー、聞こえるー?クロミケが見えたからそこで解体始めていーよ。トラクの方を寄せるよー」
『えっ?トラク持って来たの?』
「2メル半幅の仮道路だよー。あたいも手伝いに行くねー。切るよ。
じゃあシロルー、頼んだよー」
「はい、お任せ下さい」
・ ・ ・
アリスが白ヘビを頭からマシンを擦り込むように皮を撫でると胴の中程まで行った頃、頭の皮に切れ目が入り地面に開いて行く。あたいはその間にクロにショベルで穴を掘らせておいた。
平らに開いた皮の上に干し肉とレンガ状の骨ブロックが並んでいく。
「アリスー、干し肉にしちゃったのー?」
「うん。バラとモモ?尻尾は生肉にするよ。他は干し肉と燻製に加工しちゃうよ」
「ならいーや。
ミケ、そろそろ内臓が出てくるから退けちゃってー」
こうきれいに並べて置かれちゃ、あたいの仕事がないねー。トラクは横付けまで来ちゃうだろーし。クロは警戒に就いてるけど、あたいも一応警戒しとこう。
うん?何か来たね。どっちだー?
覚えのある感じ、なんだろ?
「クロ、上!」
背から弓を抜き一挙動で構え上を探す。いた!
「ミドリグモ!6匹!」
右手に持った矢を3本立て続けに射った。
ちっ、1本外したよ。
アリスも射ち始める。ミケは短剣を構えアリスのガードに付いている。アリスの矢は2匹落とした。虫はこういう時怯まないね。そんなことを考えながら3連射を送り残りを射落とした。
遠くにオオカミかな?あー、やめたみたいだねー。ミドリグモは気配が小さいからそばまで分からんかったー。
「50セロのミドリグモか。ちっちゃいね」
「アリスー、文句言わないのー。二人しか居ないんだから、5日くらい美味しい脚肉が食べられるよー」
このクモの脚のとこは海のエビカニに似た味の美味しいお肉が採れる。
「そうだけど。むう。仕事が増えた」
ミケが積み上げたクモに、アリスが分解マシンを撒くのを見ながらあたいは言った。
「さてと、静かなもんだねー」
シロルがトラクを横付けすると、積み込みはあっという間だ。500メル近いバックも順調に終わって分岐点に戻る。
「んー。少し早いけどお昼にしよっか?」
アリスが言い出した。
「賛成ー」「準備します」
クロがテーブルセットを出してくれる。
そりゃ、美味しそうなお肉見ちゃったからねー。
のんびりと採れたて焼肉を楽しんでいると、作ったばかりの道をやってくる馬車の音。
「お客さんみたいだよー。今日は賑やかだねー。後ろから馬車ー」
「あー。道があったら行ってみたいよね」
「これ片付けよっかー」
さーて、どんな奴が乗ってるのかなー?
馬車から降りて来たのは4人。一人は隠れて裏へ回るつもりですかー。要警戒っと。
ミケがスッと裏へ行ったね。ホントこういうとこ、頼りになるよー。
「なんだあ?女連れの旅かぁ?」
「そーだけどー?あんたたちどこへ行くつもりー?」
「そりゃこっちが聞きてえよ。どこに着くんだ、この道はよぉ?」
「ここが終点だよー」
「なっ?な訳ねぇだろ。こんな立派な道見たことねぇぞ。こんなとこでとまってねぇで、さっさと先へ行けよ」
仮道があるから話がややこしいね。
「どうしよっか?」
「納得してくれたら穏便で良いんだけどね」
「なんだよ。なんの話だ?」
「道はね、あたいらが作ってるの。で、この先はまだだから道は無い。右に狩りのため狭い道を作ってここまで戻って来たところ」
「吐くならもっとマシな嘘を吐けってんだ。どうあっても先にはいかせねぇってんだな?」
思わず嬉しくなっちゃったよ、そのセリフー。
「アホ認定だねー」
急にあたいが笑顔になったのでギョッとしたね。
「必要な説明はしたよ。どうするんだいー?」
「えーい。そこを退けと言ったら退け!」
「アニキ、この馬車、馬が居ねえ!」
「代わりに3メルのネコミミヤローがいたろー?」
「だからってこんなでかい馬車が動くかよ。さては馬に逃げられて立ち往生か?」
「ねー。あたい、めんどくさくなって来たよー。
いいかげん戻ってくんないかなー?」
「なにを!下手に出ていれば……」
「どこが下手だって?」
鼻先に水色のきれいな剣を突きつけられ、セリフを呑み込んだ男に言ってあげる。
「どうするんだってー?先を言ってごらんよー」
一歩下がる男にもう一本軽い剣を抜き、右を牽制しながら同じ鼻先に剣を突きつける。
「ウウッ。
引き返すったってどこで回るんだよ?」
「そんなことあたいに聞かないでよー。さんざ無礼な口きいといてー。自分らでなんとかしなー。付いて来ると狩っちゃうよー」
「分かった」
一歩さらに下がったのであたいは剣を収める。
さあどーするねー?ワクワクするよー。
後ろ手で合図したのかな?左右の二人が剣を抜いたね。アリスとシロルは少し離れてるからね、やってみたくなるんだろーけど。
振りかぶった腕に針が3本ずつ。それには気づかずに正面が剣を抜いてあたいに斬りかかる。抜くのもあたいの方が速いよ。愛用の左剣を一閃すると男の剣は根本から切れてしまった。飛んでくる刃を右の剣で軽くチャインと払う。
腕に針を受けた二人が蹲ると、偵察をしていた男は剣を放って両手を上げた。
「さっさと消えな」
「えーっ?ここは身ぐるみ剥ぐとこじゃないのー?」
「ほら、あー言うのも居るんだからー」
「何よ、あー言うのって」
「アリスー、悪ノリし過ぎー。
ほら、行った行ったー」
「アリス?3メルのネコミミ?
……すんませんっしたー!」
ふん。しっしっ。
しっかし、レントのやつどんなこと書いたんだー?




