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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第10章 西の内海‬
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7 海岸道路・・・ミット

 これまで:ホンソワール男爵の頼みを受け王城での晩餐会に出席したアリスとミットはおおむね親睦を持つ事に成功した。

 トラクは順調にマルリスに向けて走っている。途中右側に魚を捕った河原が見えて来た。また食べたいねー。

 アリスがキチン質の在庫で半透明のゴツい盾を作ってクロミケに持たせた。あたいは小ぶりの盾を持ちアリスとシロルはバッテリを一つずつ。河原へ降りるとみんなで盾を川に向けて待機する。

 いくらもしないうちに石が飛び始めた。近くへ寄って来た時にアリスが軽い電撃を放つと、1メルもある魚がポコっと浮き上がる。ミケがすぐさま河原の石の上に放り投げる。

 6匹目辺りから段々と飛ぶ石が多くなって来るけど、今回は盾があるので続行だ。とはいえあたいはやることがないので止めと魔石集めだ。

 10数匹捕まえて終了となった。ワタを抜いて半身にしたものを氷箱へ放り込んで、一匹味見に焼いてもらった。

 焼くと脂がたっぷりでいい味がでる。美味しい魚だねー。この間より脂が乗っている。夏痩せとかしないのかなー?次はウドンの村だ、待ち遠しいねー。



 馬車よりずっと早いんだけど、道が良くないので夕方までかかってやっと着いた。お腹もすいたし丁度いいや。


「おっちゃん、ウドンふたつー」

「おお、旅の客とは珍しいな。ここんところ暑いもんだから客が減ってな、まあ毎年のことだが。待ってな、すぐ作るよ」


 クソ暑い厨房(ちゅうぼう)で大鍋に湯を沸かしているので、あれは地獄だねー。


「へい、お待ち!

 あんたたち前に来なかったかい?」

「来たよー。2月ちょっとぶりー。3メルのでっかいのと来たよ」

「ああ、そうだそうだ。思い出したよ。あの人、5杯も食ってたよな」


「ふーー、ふぅーー。美味しいけどあっついんだよね、これー」

「ねえ、おじさん。この麺は売らないの?」

「麺なんか買ってどうするんだ?」

「冷やして置けば何日か保つかなって」


「冬の寒い時なら2日くらい保つかな?凍らせればもっといけると思うんだが、この暑い中じゃどうにもならんだろう」

「へー。じゃあ30個売ってよー」


「いいけど話、聞いてたか?腹壊しても知らねーぞ?

 2080シルだよ」

「はい。ごちそうさまー」


 シロルに麺を渡して凍らせてみることに。何日保つかなー?

 おっと、分かれ道だよ。まっすぐ行くと山越え、右がマルリスの町だ。山越えはグネグネ山道が待っている。こうなるとトラクは長い分、狭い山道は曲がるのが大変だ。

 8つある車輪の向きを自由に変えられるとはいえ、曲がり切れない場所がいくつもあった。その度に2、30メニかけて拡幅工事だ。橋やトンネルとなると1ハワー以上もかかっちゃう、道路班、早く呼びたいねー。前回は山越えに5日かかったんだよ。


   ・   ・   ・


「アリスです。聞こえるよ。

 あー、ヤンクレーズさんたち、もう着いたんだ」


 アリスがボードの音をおっきくしてくれた。サントスだねー。そっか、着いたんだ。もうパルザノンを出て4日目だもんね。


『……商品の説明だけでも大変だからね。温泉場のホールに並べて用意してあったんだが、買付けの注文が大量なんだ。

 それとパルザノンの用地が決まったと連絡があったよ。建築資材と人員を手配しているところだ』


「道路の方はどうなんですか?」

『あと3日かかるって言ってたよ。南北の街道まで拡幅するそうだ。こっちの資材を運ぶのに荒地を走らなくて済みそうだ』

「それは良かったねー。グワングワン揺れて凄かったんだよー?」

『そうだってな。ビクソンの連中がよくこぼしていたよ。パルザノン組は4、5日ハイエデンを見て、レクサールとヤルクツールを周るそうだ』

「そっかー。サントス、頑張ってねー」


 そのあとガルツを呼んでみたら出なかった。この間の失敗に()りてボタンを外してるみたいだ。


   ・   ・   ・


 やっと西の内海に着いたよー。今日は風のせいか波が荒い。計画通り海岸沿いを右へぐるっと廻ってみよー。

 この間の洞窟を超えて大きめの川が海に流れ込んでいる。河口に寄れば淺そうに見えるけど、水の中を渡る気にはなれないねー。


「やっぱり橋かなー?」

「そうだね。架けっぱなしにしたいから高く作るよ」

 川幅で20メル、深さはそれほどないけど、河原が広い。5メルくらい浮かせるので150メルくらいの橋になりそうだ。

 トラクの位置を決めて対岸までの高さ、橋脚の位置などをマノさんがボードに描き出す。橋に変える分の土は穴になるねー。大水が一度来ればきっと埋まるよ、通る人もそんなにいないし。

 3ハワーほどで対岸へ渡った。


   ・   ・   ・


 この海に来てもう5日目。魔物とはまだ接触していないけど、右手から山の斜面が迫って来て左側は海に落ち込んでいる。ヤルクツールの湖を思い出すね。海べりに道を切り拓くか、山へ登って行くか。チズはまだないし。

 

「山へ入っちゃうと、見通しが利かないからね。海沿いに行こうよ」


 アリスが進む方向を決めてあたいが邪魔になる木に印を付け、クロミケがチェンソーで倒していく。その後をシロルがトラクで4メル幅の道を作って行く。倒した木は木質(セルロース)にして転がして置く。荷物が増えるので、回収は後回しだ。時々よさそうな場所に7メル幅の待避所を作って行く。


 でも海岸線の通りに進むのはいかにも効率が悪い。先行偵察の結果、岬を横断することにした。シロルにツーシンを入れて目標をアリスが指定した。小さな谷に橋を架け橋脚で高さを稼ぐ。そのまま岬にぶつかって一山切り通しにして横断した。道幅が狭いのと、最大で4メルほどの深さだったので500メルほどの切り通しは半日で抜けた。


 ギャイーンチュイーーンと木々にチェンソーの音が木霊して響く中、右に違和感がある。なんの脈絡(みゃくらく)も無く、脳裏(のうり)に赤い細長い舌の揺れる映像が浮かんだ。そちらを向いて右手を上げアリスに合図する。

 あたいは重い鉄の剣を抜き静かに前へ進む。チェンソーの音が止みクロミケが急速に近づいて来る。アリスがマノさんを通じて呼んだのだろう。


 太い苔むした木を回り込むとでっかい白ヘビがいた。右手に苔で緑に染まった石が重なって見えている。湧き水だろうか、空気がやけに湿っぽい。

 ヘビの目はあたいにしっかりと向けられていた。やっと欲しかった皮が手に入るかな?


 そのまま剣を構え近づいて行く。太さ30セロちょい。ガルツが仕留めたのと同じくらいかな?

 ヘビが頭を高くもたげた。あまり高くなると踏ん張りが効かなくなるね。あたいは鼻先を剣で突いてみた。

 ギャギギィィーーン


 おー、やっぱ固いー。2回はまともに切先が入ったはずなのに。長い身体を(うね)らせどこがどうなったのか、左から太い尻尾が飛んでくる。

 それを(かわ)して再び斬り込む。

 ガイン!


 ガルツの長剣ほどの重みはないから、効いた気がしないねー。右からミケがヘビに向かって飛び出した。音は聞こえてたけど思ったより早いのは、幹を伝って飛んで来たからのようだ。

 ヘビの注意は一気にでっかいミケに集中した。ミケがドスンと地響きを上げ着地する。

 あたいは気配を消して左へ間を詰めると白ヘビの頭上へ飛び上がった。狙うは左目。突きの反動を得るため、膝の間から身体を畳むように剣を下に向かって両手で突き込む。瞬間ヘビが身じろぎして(わず)かに3セロ狙いが外れた。

 ガキィィーー


 目玉の縁には骨がないので大きく凹むが傷は入らなかった。


 ドゴン。

 直後、ミケの短剣がヘビの首元に突き立つ。

 そのままヘビの頭が地面に叩きつけられた。ダメージは通ったと思う。あたいは着地と同時に身体ごと喉元へ突き掛けようと身構えた。

 ところが白ヘビは頭を振り上げ高さを取った。いや、ちょっとフラついた動きをしている。ミケが頭に組み付いて動きを止めた。あたいの渾身の突きが喉元へ突き刺さった。


 クロが藪を突き破って現れる。背にはアリスが貼り付いていた。あたいの突きは皮に傷を入れたが浅い。


「遅くなってごめん」


 アリスが背から地面に滑り降りるとクロも組みつこうと飛び掛かるが、白ヘビは身体をシュルリと振り回し反動でミケを弾き飛ばす。クロも(あお)りで尻餅を突いた。


「えいっ!」


 アリスの電撃が飛ぶ。アリスを見た瞬間からやらかしかねないと、距離を取っていたあたいは動きの止まった白ヘビの喉元、さっき付けた傷、寸分と(たが)わぬ場所へ体当たりの勢いで突きを入れる。

 これで刺さるとは思っていないので、弾かれた足を踏ん張りもう一本。さらにもう一丁。


 そこへ起き上がったクロが白ヘビの頭に両腕を絡めて固定すると、あたいの4本目の突きを握ってヘビの喉へ刺し入れ捻った。

 白ヘビが大きく全身で暴れ、あたいは弾き飛ばされた。地面を2回転がってやっと止まり、痛みを(こら)えて上体を起こす。クロも左右に二振り頑張ってしがみ付いていたけど、ついに振り飛ばされた。


 アリスの2回目の電撃が飛び、直後ミケの短剣が喉の傷を(えぐ)った。白ヘビはゆっくりと(くずお)れた。


 ミケはさらに短剣の柄まで突き入れ、のたうち回る白ヘビの首を押さえて頭まで抉る。

 ついにヘビは動かなくなった。



 改めてヘビを見るとでっかいねー。動き回ってたから分かんなかったけど、7メル近いよ、こいつ。

 アリスが駆け寄って来て背中と膝を(さす)ってくれた。熱いくらいのアリスの手に痛みが和らいでいく。ふう。


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