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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第2章 チューブ列車
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2 西の探索・・・アリス

 これまで:汚い馬車を新調しようと進路を西に変えた一行。野営地で熊との死闘の後、森を探して山を目指す。

 もう3日も山を目指してるんだけど、時々低い木があって、周りには草があったりなかったり。草のないところに赤土が見えたりするくらいで何にもない。飼い葉はそんな草地があるから集めてるけど、水がそろそろまずい感じかな。


 マノさん水って探せる?………あ、分かるんだ。紙を出してチズを描く。って言うか、あたしの目にはチズが全部見える。だから目をずらさないようにペンでなぞると紙のチズができる。


 ここがあの宿営地でしょ。街道がこう。水はこの先右側にあるらしいんだけど。今はここで水がここ。ちょっと遠いかも。


「ガルツさん、マノさんに水の場所教えて貰った」

「おう、そうか。どっちだって?」

「これ見てー。ここがあの宿営地と街道、水がここで今ここ。ちょっと遠いよ」

「これ距離は合ってるんだよな。確かに少し遠いな。明日中くらいか。戻ると3日だからこのまま行った方がいいな。けどアリス、これいいな。また時々教えて貰ってくれ。どうするか今日中に決めなきゃいけなかったんで、助かったよ」


 うふふー、あたし役にたった?あれ?

 今日中で間に合うってことは、まだ水あるんだ。どこに積んでるんだろ。まーいーけど。


   ・   ・   ・


 森だ。遠かったー、行くって決めてから10日以上かかったよ。

 ガルツさんは木を切り倒してるけど危ないからって、あたしたちはピピンと森の外で見てる。


 せっかく来たんだから近所に何かないかなーと目にチズを出してもらった。この辺もっとおっきくできないー?あー?森がこれか、馬車、ここね。

 あれ?マノさん木が揺れてるよー?なんで?……2日前?……デオ?んー、分かんない。森の周りをグルーっと見たい。

 わわっ動く……ちょっと気持ち悪いかも……あ、ちょっと待って。これ雲?あ、湯気かな?ここおっきくなる?

 おおお。水溜り?水場じゃないんだよね?チズに描いてガルツさんに見せたいなー。

 ……え、できるの?


「ミット、ちょっとこの紙押さえてて」

「こーおー?」

「うん、動いちゃダメよー」


 ミットに持たせた紙のてっぺんを指でつーっと撫でてちょっと離れて紙とチズがずれないようにじっと見る。

 上から模様ができて下へ広がって行く。

 最後に紙の下で手をゆっくりめに振る。

「できた」


 ミットはキョトンとして、あたしが指差す紙を裏返し

「わっ。なにこの模様ー?」

「チズだよ」

「チズってー?」

「この場所の絵。このふわふわがそこの森だよー。

 馬車は今ここ。丸するねー。馬車はこっちからこー来たんだよ。

 でね、ここのボヤーとしたとこ、多分湯気。水溜りみたいだけど水場じゃないの。

 ガルツさんが出て来たら見に行こう」

「うっわー、おっもしろそー」「ねー」


 森の周りの続き見せて。これみんなで見られたら楽しーだろーね、あーだこーだ言いながら。

 ……えっ、できるの?カモかー。

 あー、お話できないマノさんボタンでね。


 トラーシュに行く前に会った行商のおじさん。ガルツさんが馬の蹄から石を取ってあげて、お礼に貰った飾りボタンはマノさんと同じボタン。でも返事はしてくれなかった。

 あれを使うらしい。


 森の縁を見ていると。あれ?なんかちっちゃいのが寄ってくるよ?なにこれ、わっ、猫?

 ……えっ!尻尾まで3メル半!それトラだよ。2日前だっけ?


「わわわっ、どーしよ。ミット、トラがいるかも、尻尾入れて3メル半!」

「!あたいがルツの弓持ってくから、アリスはガルツに知らせて!」

「わかった」



 あたしはガルツが作業している森に駆け込んだ。


「ガルツさーん、ガルツさーん、ガルツさーん、トラがいるかもー、ガルツさーん、気を付けてー」

 あたしは木が1本倒れてて歩きにくい場所を避け右へ回って駆け込もうとした。


「わっ、アリス。こっち来るなー、危ない!」

「トラが、えっ、わわわっ!」


 隣の倒れた木の上へもう一本倒れて来る。(あわ)てて右へ逃げた、逃げた。

 ズズン、バキバキバキーッ

 木はあたしを追いかけるようにひと転がりして止まった。


「うわー、びっくりした、びっくりしたーー。

 あ!トラ、3メル半。ガルツさん、トラがいるかも」

「大丈夫か?アリス。なんともなかったか?

 トラってなんだ?」

「縞々のおっきな猫!3メル半!尻尾入れて!」

「でかいな。なんで分かった?」

「2日前にこの森に入ったってマノさんが。見てた」

「そうか、今のところ気配はないな」


「ガルツー、アリスー。あー、無事かー。弓持って来たー」

「ああ、ありがとうな、ミット。気配はないみたいだぞ」

「そーお?………しっ、ガルツー、あっち」

 ミットが指を指す。何事かとじっと見るが分からない。木の枝が重なるよう視界を遮っているうえ、間には下生えもあって見通しは悪い。

「俺には分からんな……む!」


 ええっ?やばいの、来るの?

 ガルツさんが手で制して、(ささや)くように

「静かに弓を準備しろ」

 ガルツさんも弓を握り矢を3本持った。


「む」

 ガルツさんとミットがやや右を見ている。トラが移動したらしい。警戒しているので、離れていったわけではなさそう。

「こっちに気づいてるな」


 グルルル………

 微かに聞こえて来た唸り声(グルル)に背筋が冷たくなる。

 二人はさらに右を警戒している。こういう時、あたしはあまり役に立てない。頭を振って前に注意を戻す。ふと左に黄色が見えたような気がした。


 マノさん、いまの見えた?……サーモ?えっ?森全体が薄い青になったその中で、さっきの黄色の辺りだけボーっと黄色から赤に見える。

 あれってトラ?温度が高い?生きてるってことかな?

 ミットたちはまだ右を見てる。左の赤が近くなって来た。こんな変な色でも距離ってわかるんだー。

 来た!弓を精一杯引く。トラの形の赤が飛び上がった、今だ。

 射った矢が当たったのか、トラが(うな)る。

 グゥォーー!


 ミットたちが左を見て驚いたように矢を放つ。ミットの矢は外れ、ガルツさんの矢が腹を捉えた。視界が通常に戻った。トラがフラつきながら身を低くした。

 この距離ならデンキ届くか?

 あたしは思い切り電撃を放った。近くにいたガルツさんがぐっと(うめ)きながら矢を放つと、トラの眉間に突き刺さった。


「………アリスー、デンキやるんなら先に言ってほしー……」

「あー、そうなのか。馬車の5人の時のピリピリ、やっぱりおまえか。あの時ミットの矢がビシビシ当たるわけだ」

「ごめんねー」


「なんでこっちって分かった?見たら前足にお前の矢が刺さっていたぞ?」

「んー……マノさんの目?」

「……毒が点々に見えるやつか?」

「うん、温度?が見えるってー。森の木や草は薄い青になるの。生きてるのはあったかいでしょー?

 それは赤から黄色に見えるの。木とかの影だと薄くなるけど見えちゃうみたい。

 たぶん10メルくらいから見えてた。赤いのが飛ぶのが見えたんで射ったの」



「分かったよ。血抜きだけしてちょっと休憩にしよう、お茶だな。なんか重くて運べそうにない奴を専門に狩ってる気がするな」

「「そだねー」」


 馬車まで戻って一息つく。


「ふう、お茶が一番だな」

「あそーだ、ガルツさん、これ見てー」

「あぁ、なんだこれ?ずいぶんと細かい、絵か?」


「チズーだって。その丸が馬車のとこ。モヤモヤーってしてるのが森だって」

「んーー?……そうかもしれんがどうやってこんな物?……またなんかやったな?」

「それはいーじゃない。ガルツさん、ここのぼやっとしたとこ、多分湯気。水溜りがあるんだけど水場じゃないの」


「てことは温泉かも知れんな。うーん、トラの解体が真っ先だな。次は温泉探索か?ここからどのくらい離れてる?」

「1000メルかな?そんなものだよ」

「よく分からんが途中の地形はどうだ?」

「ほとんどこんな感じ。水溜りのとこだけ石で囲まれてるかも」

「ふーん?まあ解体が先だな。ショベルと水入れ一本持って行くか。入れ物とボロ布を頼む」

「「はーい」」



 頼まれたものを用意してトラのとこまで行くと、ガルツさんはもう周りを広くして腹を割く準備に掛かっていた


「要領は熊と一緒だな。

 横倒しにしてそばに穴を掘る。皮を裂いて内臓は穴の中へ、手足は皮を()いでから関節で切り離す。この首は皮が傷んでないから後で切り離す。

 まあそんなところだ。細かい仕分けはアリスの方がずっと詳しいから任せるぞ。てか、俺では役に立たない。

 じゃあ始めるか」


 ガルツさんが腹の皮を下から()き始めた。

 少し進むのを待ってミットが後ろ足を持ち上げる。あたしは足の皮を持ち上げて剥がしながら先の方まで裂いていった。

 足からすっかり皮が取れたので、背中側から腹の皮を上へ引っ張るとミットが刃を滑らせ、どんどん()がれる皮を引っ張って手繰(たぐ)る。

 ガルツさんが前足の切り裂きを終えて後ろを関節から切り落とした。

 前足は小さいからとミットに任せてあたしは後ろ足から肉の加工を始めた。

 この肉焼いたら美味しそうだー。熊さんの時、生肉取るの忘れたから先に取っちゃおー。

 この肉はそのまま袋詰めする。

 ガルツさんが内臓処理を進めている。


「ハサミ持って来てあるよー」

「あ、忘れてた。ありがとうな、ミット」


 バリバリーっとあっさり肋骨が剥ぎ取られて、渡される。

 この骨に付いたお肉も美味しそう。これも袋詰めー。


 ここまで来るとあたしの作業って、ほぼ()でてるだけだ。

 左手でぶら下げるか、立てて押さえるかして、右手でマノさんを塗る感じで撫でると肉が加工済みになって下へバタバタ落ちる。


 隣に骨ブロックがパタパタと積み上がる。

 他にもマノさんが欲しがるものがいくつかあって、それは小さな容器を骨で作って溜めているようだけど、あたしも分からない。


 邪魔にならないうちに皮の塊を撫でて作った袋に詰める。ミットが見てて作業場所が狭くならないように、除けたり仕舞ったりしてくれる。

 トラさんの皮もテキトーに畳んで撫でてやると脂の壺が下にできるので除けておく。


 クマさんの時もそうだったけど1ハワーくらいで解体終了だ。

 ガルツさんはとっくに埋め終わって周囲の警戒をしていた。


 今回は馬車がそばまで来ないので、手提げ袋を皮から要りそうなだけ作ることにした。


「ガルツー、お腹すいたー」

「トラさんの焼き肉ー」

「お、おう。じゃあ運んでしまうか」

「「おーっ」」


 馬車まで行くと傍へ荷物を置き

「アリス、準備を頼む。ミット、もう一回運ぶぞ」

「「はーい」」


 あたしは薪木を持って来て準備を始めた。テーブルも椅子も朝ごはんの時のままだ。手を洗おう。スープはあった方がいいな。お湯も沸かそう。あとは串焼きー。


 ガルツさんとミットが戻って来た。骨以外は全部運べたみたい。

 ガルツさんが骨を運びに戻って行く。


「こっちはもうちょっとだよー」

「ピピンにもお昼あげるね」

「ブヒヒン!」


 いい感じで焼けて来た頃、ガルツさんが戻って来た。

「手を洗ってね」

 言いながらあたしは肉を裏返し塩を振る。


 火の周りにみんなで座ると

「はいミットー。次はあたしー。ガルツさんは山盛りだよ。肉は勝手に取って焼いてね」

「トラさんのバラ肉だー。モモ肉もあるねー」

「うん、これはなかなか」


 食べてみると脂がすごい。表面がパリパリになってる。美味しい。スープに入れたらあったまるかも。


「じゃあ、次はモモ行ってみよー」

「モモは歯応えがいいね。味も濃い感じ。いいねー、トラさん」


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