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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第10章 西の内海‬
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6 王城・・・ミット

 これまで:西の内海のリベンジに向かう途中寄ったホンソワール屋敷でアリス達はひたすらぬいぐるみの販売宣伝を行なった。

 今日はパルザノンの王城で晩餐(ばんさん)会なんだってー。よーするに、ホンソワールみたいな人達と晩御飯を食べるって事らしい。

 朝からミシェルがヒラヒラした衣装を出して来た。サイズの合うのがなかなかないんで、シロルに頼んだら、あっさり合わせてくれた。自分の衣装もちょくちょく直したりしてるからかなー?

 でも、首から胸にかけて布がないのはなんでだー?スカートは邪魔くさいくらいに布地が多いのにー。

 合わせる装身具や靴、手袋も選んでくれたけどまるで頼りないねー。


 行くのはアリスとあたい、フラクタル夫妻の4人だそうだ。


「ミットさん、ドレスがとてもお似合いです。これならどんな殿方もイチコロです」

「イチコロー?」

「はい。ではお風呂に参りましょう」


 一通り着てみたら次は朝風呂だった。メイドさんがアリスとあたいに二人ずつ付いて洗いまくられた。香油を塗り込まれた後のマッサージは気持ち良かったねー。これで午前中が終わってしまった。


 お昼ご飯の後は衣装の着付け。


「ミットさん、じっとしてください。ここで乱してしまっては淑女の名折れでございますよ。

 あら、この髪型も似合いますね。やっぱり美人は得です。

 ねえ、ミシェル」


 髪の毛もさんざん(いじ)り回されて、あちこちで止め付けられた。さらにお化粧だと言って顔を白く塗って口や目の周りに色を付けた。腕も首も胸の上も見えるところは全部白くされた。あたいは元が黒っぽいから綺麗に塗るのは大変そうだったよー。

 馬車の時間が決まってるらしくて、その辺になるとバタバタで、アンジェラの目を三角にしたチェックを受けて、フラクタルとジョセフィーヌの待つ馬車にアリス共々押し込まれた。


 馬車は南北の街道へ出ると右へ曲がり、中央広場を通って南門を出た。しばらく走って左へー。真っ白い石畳みの広い道だ。両側に木が立ち並んで右へゆったりと曲がって行く。

 途中から左へ曲がり始め、少し行くと広いお庭が見えて来た。白い石のよく分からない彫刻の間を進むと、正面に大きな丸い花壇が水色の石で縁取られて待っていた。

 左へ大きく回り込んだ先に高い(ひさし)が掛かっていて、そこで馬車を降りたけどもう次の馬車が近くへ来ていて、御者(ぎょしゃ)が先へ進むように言われていた。


 天井の高い広い廊下を進んでいくと、ヒラヒラした衣装のメイドさんが、こちらでお待ちくださいと声をかけて来た。


 そこで30メニほどフラクタルと4人で待っていると、さっきのメイドさんがおいで下さいと言う。

 後を付いていくと大きなホールに30人掛けのテーブルが5つ、奥の一段高い所に黒塗りの長テーブル、その更に奥、もう1段高い所に彫刻に金箔をあしらったテーブルがあった。


 あたいたちは真ん中の一番前まで連れて行かれ、左にアリスとあたいが座るようにと椅子を引かれた。フラクタル夫妻は隣に続いて座るよう案内された。

 あたいたちの向かいはヤンクレーズ伯爵夫妻。レントの父親だとフラクタルが教えてくれた。二人とも2メルくらいの背があるけど思ってたより小さいね?


 その後からそれぞれに案内のついた貴族たちが一人で、あるいはカップルで入って来て、あたいたちの周りから席が埋まっていった。


 ぞろぞろとした入場の列が終わり皆が席に着くと、右手からホールに声が響く。


「パルザノン王、トライデネット-パルザノーラさまがお出ましになります。皆、注目するように」


 赤いマントを羽織った小太りのオッサンが出て来たねー。キンキラ帽子かいー?後ろの赤いのは奥さんかなー?ずいぶん痩せてるー。どっか悪いんじゃないかなー?頭にチラチラ光るのは華奢(きゃしゃ)髪飾り(ティアラ)ー?


 トライデネット王は席に着く前に右へ大きくマントを払った。白いかっちりした衣装に金色が目を射る飾り帯。太いベルトの装飾に青い石が光る。

 (きさき)は燃えたつような朱のドレスに身を包み、ピンク色のごく薄いケープを(まと)って王の左へ(たお)やかに収まった。

 いつの間にやら一段下の黒いテーブルにも、5人の(きら)びやかな衣装を(まと)った男女が座っている。


「よく来てくれた。ガルツ商会のアリスとミットよ。今宵(こよい)はささやかであるが、晩餐(ばんさん)を楽しんで行くように。皆も遠方よりの客人である。懇意(こんい)にいたせ」


 王の挨拶(あいさつ)で一斉に動き出す執事とメイドたち。

 

 王の席には執事長とメイドが一人。下の黒い席にも4人のメイド、内一人はメイド長のようだ。

 お客は100人を超えている。大きなテーブルひとつに10人ほどが給仕に付き、料理の乗った何十台ものワゴンがひっきりなしに行き来して、配膳が行われていく。ほんの10メニほどで全ての料理が行き渡った。


 王の食前の挨拶(あいさつ)を皆が待っている。


「最高神アルクトゥールスと女神サフィアゼフィールに感謝をして食事を頂こう」


 トライデネット王が酒盃を掲げ一口飲むと、皆が食事を始めた。


「アリス殿、ミットどの。レントガソールから仔細は聞いております。よくぞ千ケラルの彼方から息子を届けてくれたものと感謝しております」


 ヤンクレーズ伯爵が軽く頭を下げた。


「あの子の語る冒険の数々にはわたくしも引き込まれました。勝手ながらこちらで本にして広める事にしたのです。ご迷惑でなければ良いのですが」

「いえいえ。商会はこれから支店の準備を始めるので良い宣伝になりました。バス路線をこの街まで伸ばすつもりです。今日はその相談も兼ねて来たんですよ」

「ほう。バスがここまで来ると言われるか?」


「うむ。その話はわしもホンソワール男爵より聞いておる。このような席であるが、どのような考えであるか伺いたい。良ければ答えてくれぬか?」


 おっとー、王さまの割り込みだよー。


「えーっと、相談したかったのは支店を建てる土地がどこが良いか。それに道の接続を東門にするなら、狭いので立ち退きが必要かなって事。

 あとはバスの運行は当面80人乗りが2日に1台、途中、ウエスティアに1泊してハイエデンまで走る。ですね」


「ハイエデンまで2000ケラルと聞いている。本当に2日で行けるのか?」

「時間にすると休憩しながらで、17ハワーくらいです。朝出てバスの中で眠って、翌朝到着っていう強行軍もできないことはありませんが、お客さんは大変ですよ?途中の景色のいい所で休みながら行くと良いと思います」


「チューブ列車でさらに遠い所へ行けるそうだな?」

「はい、ハイエデンから別のバスに乗り換えて、ケルヤーク、レクサス、ヤルクツールへ行けます」


「いつ頃の話になるのだ?」

「道は10日以内に繋がります。支店の準備が順調に進めば、あと1月でバスを走らせられるかと思います」


「そうか。それほど早くに始まるのだな。ならばパルザノン王家として早急に視察団を出したい。ヤンクレーズ伯爵。其方が団長として20名選抜せよ。15日で廻れるだけ周り報告を上げるように。

 アリスどの。済まないがバスの手配をお願いできるか?」


「いつ出発しますか?それに合わせて50人乗りバスを1台呼びます。

 それで、あたしたちは明日から西の内海に行くつもりですので、連絡はフラクタルさんにお願いします」


「どうだ、ヤンクレーズ?」

「では3日後の朝出発と言う事でお願いします」

「はい、分かりました」


 話は(まと)まったねー。周りの人たちもてんでの話を始めたから、もうしゃべっても良いかなー?


「ねー、レントは今何してるのー?」

「うふっ。レント……あの子は屋敷の離れで続編を書かせていますわ。画家には見て来た風景を描かせるのに苦労しているようです」

「ふーん?シロルに言ってフォトーをもらえばいーのにー」


「私も何枚か見せてもらったが、あのフォトと言うのはすごいものだな。あのような美しい場所があるなど、世界の広さを思い知るものである」

「うん、すごいよねー。でも人の顔はダメなんだってー。物とか風景だけー」

「ほう。そうであったか。街の風景でもぼんやりとした人の姿しか描かれていなかったな」


「人を描くのは画家さんにお任せだねー」

「ミットどの、我が一家を描いていただいた板を見せてもよろしいか?」

「えー、なにー、フラクタル、自慢したいのー?いーよー」


「されば、ヤンクレーズ伯爵。こちらをご覧あれ」

「うむ、どれどれ。

 ほう、シャルロット嬢は大きくなられたの。ずいぶんと愉快そうに笑っておるわ」

「まあ、ほんとうに」


「ホンソワール。わしにも見せてもらえぬか?」

「はい、トライデネット王。どうぞ」

「うむうむ。見事な絵であるな。ホンソワール、お主ちと影が薄いのではないか?」

「はい、こちらはミットどのが描かれたもので、よく見ておられるものでございます」


「まあ綺麗な絵ですね。でも、こんなに細かく描けるものなのですか?」

「それはー、元は紙に描いた絵を板に移したのー。元よりずっと小さくしてるから細かいんだよー」


「絵を小さくして移した?

 ……まあ、聞くまい。お前たちも見せてもらいなさい。実に見事である」


 板は前に座る5人の間を順に周った。そのまま大テーブルを周り始めたので、あたいはハラハラと見ているフラクタルに、アリスに作ってもらった小さな道具をかざしてみせた。


「戻って来なかったらまた作るから大丈夫だよー」


 そのあとは4人の貴族が話を聞きに席を渡って来た。

 板について聞く者、バスの乗り心地や椅子の広さを気にする者、自分の領地への道を直したい者、ヤットンクルス士爵。


「また西へ行きなさるか。キルスクレイグも待っておる故、戻ったら寄ってもらえぬか」

「ナミアさんでしたっけ?元気にしてますか?」

「体はもうすっかり。時々ものに怯えたように(すく)んでしまいます」


「猿の群れに襲われて、相当怖かったでしょうから無理もないですね。バスが動き出したら旅行はいかがですか?」

「それは良いかもしれませぬな。考えておきますぞ」


 和やかな雰囲気なんだけど、ずっと首筋に刺さる視線があるんだよねー。

 ちょっとお手洗いー。

 立ち上がって振り返ると右の奥の方へ進んでいく。二つ目のテーブルの中ほど、顔色の悪い太った男があたいを目で追っている。

 ふーん?

 顔なんて知ってる人が居たんだー。どーしよっか。こっちから絡んでいくのもなんか違うなー。顔は見たから似顔絵を描けば誰だか分かるよねー。

 一応個室を使って席に戻ろうかと言う所、トイレの出口にでっかいのが立って居る感じ?そのまま出て行くと手首にゴツい手が伸びて来た。サッと手を躱すと、口を塞ごうと大きな掌が迫って来る。軽くしゃがんでステップバック、巨体の後ろへ回る。


「何かごよーかしらー?」

「ちょこまかと!」


 振り向きざまに捕まえようとする男。こいつ、護衛か何かかな?それなりに動けるみたいだねー。あたいはパッと後ろへ飛ぶ。見なくったって人が居ないのは分かってるし。

 男はそのまま両腕を広げ、飛び掛かって来た。

 掻い潜って再び背後に回り思い切り叫ぶ。


「きゃーー、やめてーー」


 これ、いっぺんやってみたかったー。声なんか出す前に殴られてばっかだったからねー。これだけ人が居たらこいつもビビるだろー。


 おっと、まだ来るの?振り向きさっきと同じように飛び掛かって来る。単調だねー。タイミングを合わせて半回転、膝の側面へ(かかと)を蹴り込むとゴキッと鈍い音が響いた。太い腕があたいの頭を掠めるように床へ落ちて行く。ここの床は石造りだから、あんな顔面から行ったら……

 グシャァッ


 うえっ。痛ったそー。


「ねー。この人ってだーれ?」

「なんだこの者は?貴族ではない。誰が連れ込んだ?」


 さっきの顔色の悪いデブがコソコソとテーブルを回り込んで離れて行く。


「ねえ。あの太めのおじさんは誰ー?」


 ケバいお姉さんの袖を引いて聞いてみた。


「どなたのことですか?

 ああ、確かネックレールトン子爵のご長男、ノーブルケストさまですわ」

「ややこしい名前だねー。とても覚えらんないよー」

「あら、あなたはミットさん?ほんとうにお強いんですのね」


「んー?なんでー?」

「レントガソール-ヤンクレーズさまの冒険書にありましたもの」

「なーに?冒険書って名前もまんま出てるのー?」

「ええ。アリスさんにミットさんとシロルさん。大きなクロとミケ。素敵でしたわ」


 なんだかなー。ネック子爵ー、逃げたからいっかー。席に戻ろー。



「ミットー、なんかやったでしょ?」

「あー、ネック子爵のノーブなんとかが逃げたから、戻って来たよー。手を出して来たゴツいのは伸したー」

「やれやれ」


   ・   ・   ・


 あたいたちは明日から西の海に行くので、留守の間、フラクタルにはハイエデンのサントス連絡を取って貰わなくてはならない。アリスがボタンツーシンをフラクタルに一つ渡して使い方を教えた。

 それから時間を待ってサントスと顔つなぎして、50人乗りバスも予定を捻じ込んだ。続いてガルツにも連絡を入れ、パルザノン一行20人がヤルクツールヘ視察に行くかもって言う話をしておいた。


 でも3日後だとパルザノンの東に5ケラルも荒れ地が残ってるから、移動する人は大変だねー。まあ、あたいたちのトラクも通って来た道だけど、どうなることやらー。

 おっと、あたいもお出かけの準備をしなくっちゃー。


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