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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第10章 西の内海‬
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4 パルザノン・・・アリス

 これまで:ヤルクツールに跳ばされリベンジだと言ってトラクを走らせ、アリス達は再び西の内海を目指す。立ち寄ったウエスティアの動きの無さにアリスはテコ入れをする事にした。

 翌日はナンシーとサーラムに見送られ、トルネールイのミケルちゃんと蜂蜜を堪能してパルザノンヘ向かった。

 道は一班残ったイックリーネ嬢が後8ケラル少々というところまで迫っていて、パルザノンからの往来もあると言う。


 午後を回ったくらいでパルザノンに入り、ホンソワール男爵の屋敷へトラクを乗り入れた。


「ヤクトール、おひさー。フラクタルさんは居るー?」

「ミットどのアリスどの、よくいらっしゃいました。これがバスでございますか?本当に馬がおりませんな」


 ミットの顔を見て一人が屋敷へ走って行った。


「うーん、似たようなもんだねー。作業仕様トラクで4人しか中には乗れないんだー。バスは10人以上乗れるやつだよー」

「ほう。そうなのですか?レントガソールどのの冒険記には、その辺りは詳しく書かれておりませんでしたな。只今お知らせしておりますのでこちらでお待ちください」

「冒険記ってもうそんなに出回ってるんですか?」


「私どもには高くて買えませんが、フラクタル様が使用人にも1冊買ってくださいましてね。皆で読ませていただいておりますよ」

「へえー。さっすがフラクタルだねー」

「アリスどの、ミットどのには我ら衛兵も感謝しておりますぞ。訓練で汗臭くなりますからな、兵舎に温泉など他の屋敷では考えられませんぞ。お陰で当家に仕えたいと申す者が押しかけております」


「アリスー、ミットー、シロルー」

「あー、シャルちゃん」

「クロミケもよく来てくれました。お父様がお待ちですわ。いらして下さい」

「シャルちゃん、元気だねー。お土産も持って来たよー」

「まあ、本当ですの?楽しみです」


「アリスどの、ミットどの、シロルどの。ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」

 執事の案内でフラクタルさんの執務室へ通された。


「やあ、よく来てくれたね。まあ掛けてくれ給え」

「アリスちゃん、ミットちゃん来てくれて嬉しいわ」


 ジョセフィーヌさん、相変わらずキレイ。


「アリスさま、あたくしは厨房が気になりますので、あちらへ行って参ります」


 シロルが料理長の顔を見に行ったね。あれからいろんな料理が増えてるからね、美味しい料理が食べられればみんな幸せだよ。


「ご無沙汰しておりました。レントガソールさんが、すっかりパルザノンをかき回しちゃったみたいですね」


「うむ。ハイエデンとチューブ列車の話は我ら貴族にも大きな影響があった。東にこれほど大きな世界があろうとはな。ビクソン商会が細々と穀物を売りに来るくらいであったから、全く注目しておらなんだ。

 それでな。このパルザノンには我らが仕える王がおわす。其方(そなた)らに是非会いたいと(おお)せでな。

 王城はこれより南西にある。貴族46家の当主も集めての晩餐(ばんさん)会の打診が来ておるのだ。其方らが参られた上は、そちらの意向を聞いた上で早急(さっきゅう)にお知らせせねばならぬ」


 執事のセバークさんとミシェルメイドがお茶を淹れてくれる。いつも通りのいい香りのお茶だ。


「実を言うとねー、あたいたちが戻って来たのは魔物とヤルクツールへ飛ばされた件の調査なんだよー。ここん家に2、3日お泊まりくらいは考えてたけど、王城はねー。大袈裟(おおげさ)なのはやだよー」

「ふむ。2、3日であるか。私も同道する故、その間に片付くならばお付き合い頂きたい。私も王の臣下であれば、連絡もせずと言うわけにも参らぬ」


 あたしはミットと顔を見合わせた。ホンソワール男爵家の顔を(つぶ)すわけにもいかないか。


「じゃあ3日の間で調整がつくならってことで」

「おお、そうか。かたじけない」

 後ろでヤクトール兵長が静かにドアから出て行った。王城への急使を手配するんだろうね。


「それでね、こっちもいくつか用があってね。

 パルザノンにガルツ商会の支店を開きたいんだ。その場所を探すのとバス路線の乗り入れ、交易路整備、もちろん交易も。どうですか?」

「ガルツ商会と言うのはチューブ列車の通行も行っておると聞いている。レントガソールによれば、5箇所の乗り場へ通じているそうではないか?」


「そうだねー。うち二つはそばに町がないから使ってないけどねー」

「ほう。では交易相手は3つか」

「それとあと10日かからずにハイエデンへの道が繋がるよ。東門に繋いでいいのかな?」

「東門は道が狭いのでな。あれへ結ぶなら拡張工事が必要だが。馬車4台の広さは必要であろう」


「立ち退きができるならー、建物の解体は道路班がやっちゃうよー」

「道路班であるか?どのようなものなのか」

「あたいたちのトラクとおんなじだよー。ロボトは、あ、クロミケのことだよー。1体しか積んでないし乗員は二人。イックリーネと助手、二人とも女の子だよー。あと8ケラルだったよー」

「ふむ。見せてもらっていいだろうか?」

「いいよー」


 ミットの軽い返事にジョスさんとシャルちゃん、セバークさんまで付いて来ちゃった。



「ほう、やはり大きいな。ものすごく早いと言うではないか?1ハワーで150ケラルも走れるとか、誠であるか?」

「道路班が作った道ならねー。町の中とか曲がった道はそうはいかないけどー。入り口はこっちだよー」

「あら、中は狭いんですのね。これはベッドですの?」

「あー、これは走る時の形だからかなり狭いよねー。ちょっとだけ広くなるよー。衛兵さんトラクが動くよー」


 部屋の幅を1メル半広げて見せて、お風呂も見せるとフラクタルはすっか感心してしまった。道を作るところが見たいと言い出したので、どこで作るか聞くとちょうど北の街道が傷んできていると言う。行ってみることになった。

 馬車より多少早いくらいの速度でのんびり移動する。ジョスもシャルちゃんも大興奮だ。


「ねー、テレーは居なかったのー?」

「ああ、テレクソンは今日はジョワンニ男爵のパーティーに行っているよ。あそこの次女は飛び切りの美人だからな、気になるのだろう」

「へえー、テレー、頑張ってるのかー」

「それもアリスどの、ミットどののおかげである。

 もうそろそろ見える頃であるぞ。この辺りのはずだ」


 少し行くと石畳が割れている場所があり、50メル近くに渡り浅く陥没していた。


「ここがそうですか?これだと20メニくらいかな?あー、そのくらいだね」


 マシンを散布して見ていると石の凹凸がゆっくりと修復されて行くのだけれど、じっと見ていても遅過ぎて変化が分からない。

 真剣に見入るフラクタルたちをまあまあと宥めて、間を置いて見るように言う。


「終わりました。地盤から作り直しているので、あと何十年かは大丈夫ですよ」


 クロミケに箒を持たせ、マシンを回収してもらいながら教えた。


「前に教えてくれたものすごく揺れる道でも、同じようにできるんですの?」


 シャルちゃんはどうしてもちゃんと道ができるところを見たいらしい。


「まあ、夕食には時間があるようですから行って見ますか?」


 今度は東門へ向かう。門を出るとそこはもう荒地で、門柱で馬車の(わだち)が集まってしまう分荒れ方も酷い。門の石畳みの端が20セロ近く下がっていて、さらにそこから30セロもの段差に地面が抉れていた。底の方には5セロの水が溜まっている。


「これでも毎月荷馬車2台分の小石を入れて平らにしているのだ。すぐにこうなってしまうがな」


 門番の男がそう教えてくれた。


 トラクの位置を決め、石畳み5枚含めて幅8メルの道を100メル分。散布すると25メニと出た。まず少し低い平らな路面ができて行く。これには5メニほどかかるがそこからが長い。15メニかけてゆっくりと道路が迫り上がってくるのだ。

 石畳みも実にゆっくりと傾きを直し持ち上がる。マシンは最後の5メニで表面に戻り回収を待つことになる。


 出来上がった路面ブロックは厚さが40セロの一枚板だ。

 今回は続けて作るつもりがないので、向こう端の10メルは30セロ下げたスロープにしてある。こうしておけば道が荒れても馬車はなんとか乗り上げて来られるだろう。

 クロミケがマシンの回収を終えたので、門番に邪魔(じゃま)したね、と声を掛けて屋敷へ戻った。



 外歩きをしたので、足元が少し汚れたところをミシェルに見咎められて着替えをする羽目になったが、夕食の席には着くことができた。


「今日はようこそおいで頂いた。当家の料理を楽しんでくれ給え。

 最高神アルクトゥールスと女神サフィアゼフィールに感謝をして食事を頂こう」


 いつものお祈りのようなセリフで始まる食事だけど、シロルがフォトーを出すと和やかな談笑が混じる。

 テレクソンもパーティの首尾が良かったのか口数は少ないけど、ニコニコとしていた。ミットがぬいぐるみキットの話をするとシャルちゃんが食いついたのは予想通りだったけど、メイド長のアンジェラさんの眼光が鋭い。

 ジョスさんがその目をチラッと見て天井を仰いだ。ふーん?


「相変わらず其方らは面白い。王家に意向は伝えた故、早急(さっきゅう)に動きがあるはずである。それまでゆっくりされるが良い」


 さて夕食の後はお風呂だね。シャルちゃんはお風呂で合流した。シロルも厨房の片付けをささっと終わらせてお風呂に来ている。4人で洗いっこだ。

 ホンソワール一家はみんなこのオレンジに近い赤毛だね。シャルちゃんは肌が白いからサラサラオレンジですごく引き立つよ。


 ジョスさんが入って来た。


「今日はお疲れ様」

「お母様、洗ってあげるねー」

「あら、あなたは良いの?」

「みんなで洗いっこしたから大丈夫だよ」

「まあ。それは良かったわね、お願いするわ」


 母娘の微笑ましい会話に(いや)されながら、あたしたちは湯船に浸かった。


「このお風呂ができてから娘とよく一緒に入りますのよ。いろんなお話ができて距離が近くなりました」

「夕食の時アンジェラさんがぬいぐるみに反応してたようですけど、何かあるんですか?」

 あたしは聞いてみた。


「あら。見てましたの?お恥ずかしいのですが、メイド長のアンジェラは大の可愛い物好きでして。

 お掃除の確認で部屋を回った時にミットさんのぬいぐるみを見たらしくて。あたくしに交渉を願ったりしておりましたの。前回はあまりにお忙しい様子でしたので遠慮させていただいたのです。

 今日のお話を聞いて様子が変わったので、ちょっと心配しておりました」


「ふうん?シャルちゃんー、あとでアンジェラさん、連れて来てもらっていーい?」

「まあ、ミットさん。よろしいのですか?」


 シャルちゃん、なんでそんな驚くの?


「もちろんぬいぐるみキットの営業だよー」

「ミットさま、あたくしもお手伝いいたします」


 なんか楽しそうだね。


「じゃあ毛並み生地がたくさん要るね。トラクから少し下ろして来ようか。糸も要るかな」

「あたいの裁縫セットにたくさん入ってるよ。針も5人で使っても大丈夫だよ」

「そうですか。ご迷惑でないのなら、あたくしからもお願いしますね」


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