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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第10章 西の内海‬
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2 再挑戦・・・アリス

 これまで:頼まれた製造ラインの整備や構築を終わらせたアリスは、ヤルクツールに跳ばされリベンジだと言ってトラクを走らせ、再び西の内海を目指す。


 道中はシロルが展望窓に(かじ)り付き。夏の風景はまた違うと言う。


「海だねー」

 と言うセリフを繰り返していたら当て付けなのか、オクトール経由の山道に入った。

 函型の岩に囲まれた渓谷に始まり、左手の川を見下ろしてグングン登っていく道は、大きく左右へ蛇行し岩壁に貼り付くかのようだ。大きく内壁を回って川の見えるところまで戻ってきた。既に高さは50メル以上も上がっており、さざ波の立つ川面が青と白の夏空を映していた。

 左手に突き出すように駐車帯があり、シロルが減速しトラクを寄せて行く。入り口の段差で軽く揺れた後トラクが止まったので降りてみる。


「わー、懐かしー。ここイヴォンヌさんが作った道だよ。絶景ポイントだよー」

 失敗の報告が来て慌てて修正作業をしたけど。あの時も綺麗な場所だった。

「すっごくキレーだよ。ほら、海まで見えるんだよー。あのほっそい線は走ってきた道路!分かる?」


 もちろんミットは見えてる。あたしは俄然(がぜん)はしゃいじゃう。


「下も凄いでしょー?見下ろすと川!正面の森!あんな遠くまで森だよ、ひっろいねー。上流にもこの崖がずっと続いてる。その角にへばりつくように見えるのがオクトール!左手の山、なんでか木の色が違うんだよね。いっぺん調べに行きたいな」


 シロルがニコニコとあたしの解説を聞きながら風景を撮っていた。


 午後も遅くにウェスティアに着き、畑を見に行った。町の南側が農耕地だけど、1ケラル四方ほどの農地しかない。人口が150人少々ではこんなものだろうか。十字街に至ってはまだまだガレキが丸見えだ。


「よう来なさった。この町は相変わらずじゃが、あれから子供が3人生まれたぞ。人など少しずつ増えるのが当たり前じゃで。

 そうそう、この間マーク達が買い出しに来てな。レクサールが見えたかもしれんと言っていた。似た地形が見えるそうじゃ」

「えー。そんな報告上がってないよー」


 ミットが反応した。


「かも。じゃからのう。報告には出来なかったんじゃろ」


 なかなか上手くいかないなあと思っていると

「この頃は美味い魚が入ってくるんじゃ。食っていきなされ」


 声に顔を上げると、いつもはキツそうなばあちゃんが目尻に皺を寄せて手招いていた。テージさんだっけ。ミットとシロルが頷くので泊まることにした。


 魚は美味しかった。生きのいい魚を上手に煮付けて、味付けも良い。

 お風呂でボーッと考えていた。


「こっちへ走る時はここで泊まるのが定番になってるなー」

「そう言えばそうだねー」


 横でミットがつぶやいた。


「えっ。声に出してた?」

「うん、出てたー」

 ミット、気怠(けだる)げー。

「アリスちゃんどうかしたの?」

「今日はちょっと元気がないんです。体調が悪い感じではありません」


 シロルの声だ。まいっかー。


「そーだ、ミットー。パルザノンのバス路線の話聞いてるでしょ?今昼食と夕食の停車場所を準備中だけどー、ここで一泊させたらゆったりだと思わない?」


 急にテンションに上がったあたしにミットが目を白黒させてるよ。うふふー。


「えっ?何よ急にー。びっくりしたー、パルザノン路線考えてたのー?」

「うん。それとウエスティアの支店。ちっとも大きくならないでしょ?ずいぶん経つのに!」

「あー、そっちは今思いついたのねー。

 でもそっかー。いいかもねー。サーラム捕まえて相談しよっかー?」


「なにあんたたち。ウエスティアの心配してくれてたの?嬉しいねえ。

 サーラムんとこ行くならあたしも行くよ。あんたが言う通り、ちーっとも町が大きくならないんだよ。みんなただここを通って他へ行くんだよ?

 アリスちゃんたちがあんな立派な十字街を(こしら)えてくれたってのに、未だにガレキ山積みさね。ここらで男どもに発破かけてやらないとね」


 お風呂で物思いに(ふけ)っていたはずが思わぬことになってしまった。ミットもシロルも突然の噴火(ふんか)にびっくり顔だよ。ところでこのふくよかなお姉さん。なんて人だっけ?厨房(ちゅうぼう)にいたような気がするけど、シロルはここで調理に入ったことはなかったね。

 なんかいい勢いでお風呂から上がって身嗜(みだしな)みを整え、って、お姉さん、髪ちゃんと乾かそうよ。


「髪傷むよー。ちゃんと乾かそうよ。タオルがあるんだし、ほら、丁寧(ていねい)()いてー」


 シロルが羽交(はがい)い締めにしてミットが襲いかかった。

 なんとか男どもの前に出せそうな格好にしてサーラムの執務室へ。


「サーラム支店長ー、居たかーい?」


 ドアが中から開きサーラムが顔を出した。


「居るよ。おやミット嬢ちゃん。アリスさんにシロルさん。よくいらっしゃった。

 ナンシーまでどうしたね?」

「ちょっと相談があってねー。パルザノンのバス路線の話は聞いてるかいー?」

「ああ、聞いている。往路(おうろ)の昼食を出せないかと言う打診があったよ」


「ふーん、で、どうするつもりだい?」

「未だ街の片付けも出来ていないからね。考えているところだ」

「路線はパルザノンが終点じゃないんだよー。その先にも200ケラルくらいの商圏が連なってるんだー。100万シルあるんだけど、近所の村から人を雇って、十字街沿道50メル幅だけでも片付けられないかいー?」


「え。ミット。100万って?」

「あぶく銭だよー。パーッと使いたいじゃないかー?

 あたいたちでやるのは簡単だけどねー。それじゃただ片付いたってだけだろー?」

「ぬ……できるだろう」

「だろうじゃないんだ。あたしたちのウエスティアなんだよっ!いつまでもこんなザマで良いと思ってるのかいっ!」


「ナンシー。落ち着いてくれ」

 あたしがシロルに(うなず)くと、シロルがナンシーさんを後ろへ引いて下げてくれた。


「この街をどうしたいか言うよ。パルザノンからのバスをここで一泊させようと思う。十字街を綺麗(きれい)にして商店街を作りたい。ハイエデンの商会も何軒か呼ぶけど、メインはここの土地だよ。

 パルザノンは山の街だから魚は200ケラル運んで来てる。生きのよさはこっちが上だ。

 他にも近所の特産品をかき集めてちょうだい。お金の集まるところに人は集まるんだと思うよ」


「ろくでなしも集まるからそっちの対策も要るよー」

「分かった。一つ頼んで良いか?」

「なんですか?」

「乗合トラク……バスだったか。中型を2台入れて欲しい。人を集めるなら送迎しないと」


「ソーゲイは良いけど飲食店も誘致しなよ。宿泊施設は足りそーなのー?」

「ナンシー、今泊まれるのは20人くらいか?」

「ああ、そうだよ」


「アリスー。明日もここに泊まろーよー。あたい、お魚気に入ったよー。シロルー、美味しいお魚が食べたいー」

「なーに言ってんだか。あたしが言い出しっぺなのに、ミットにいいとこみんな(さら)われちゃった」

「アリスー、あたいは(あお)るのが担当だよー?奇跡は任せたよー」

「なにそれー、「あははははー」」


 微笑ましげに見ているシロルと、なにが起きたのかわからないサーラムとナンシー。

 それが可笑しくて二人で笑い転げた。でも賞金100万シルの使い所としては悪くない。ミットに先を越されたね。


 サントスさんに中型バスの予約を入れとくか。2ハワーくらいあとね。アラームを入れてっと。ガルツさんはどうかな?同じで行けるね。

 よーし。ここは方針を決めないと。


「すぐに要る施設は宿舎と食堂かな?それに商店街を作る材料に木質で柱と梁、屋根材だけ作っちゃおうか?100軒分?シロル、これちょっと描いてくれる」

「はい、アリスさま」

「遠慮しないで言ったほーがいいよー。あたいたちは明日1日しか手伝わないんだから」

「そう言うこと。大変なのは分かってるから、できるだけのことはしてあげるよ。温泉の拡張もしよっか?」


 シロルが描いてくれたのは12メル四方の3階建店舗の骨組み図。マノさんに作らせた基本部分のセッケーズで、柱と梁だけが描いてある。間取りに合わせて筋交を入れ、壁で仕切ればどうにでもなるだろう。そこは自分たちでなんとかしろと言うメッセージでもある。


「本当にこれを100軒分作ってくれるのか?

 なにを差し出せばいい?」

「あんたの本気ー」

「さっすがミットー、いいこと言うー」


「分かった。今聞いた分、当てにさせてもらう。50人の宿舎と食堂、店の柱などはそのまま、それに温泉の拡張はお願いしたい。今の倍必要と思うがいいだろうか?」

「場所があるなら2倍は問題ないよ。それ以上はお湯が足りなくなるかな?」


「宿舎の場所は大丈夫かい?そのくらいはあたいが解体やってあげるよ?」

「場所は十分にあるから大丈夫だ。一緒に海沿いの村へ行ってもらっていいだろうか?」

「ふーん?いいよー」


「では明日朝までに考えておくことができた。また明日、お願いしたい」

「うん、頑張んなー」

「おやすみー」

「ナンシーは明日シロルと料理だよー。美味しいものたっくさんつくってねー」


 トラクに戻ったあたしたちはシロルのお茶を飲んで話の続きだ。


「海沿いの村ってなんだろうね?」

「さあー?でもこの辺って賃金が安いよ、きっと。今までなんでも物々交換で、珍しいものなんてたまに見るだけでさ。そこに綺麗で便利なものが入ってきたけど仕事はないんだ、当然お金もない。ちょっとのお金でも稼げるなら、大事な人に何か一つでも買ってあげたいと思うよね」


「この街の復興手伝ってー、売る宛のなかった魚や野菜、土産物が売れるようになれば暮らし向きも良くなるかなー?」

「うん。そうなると思うけどすぐにはできないよ。ガルツさんに言って学校を作ってもらおうか。このウエスティアはいい場所にあるからね。人が集まればなんだってできそうなくらい。でもまずは街がある程度の規模まで発展しないとね」

「そっかー。いい場所なんだー。楽しみだねー」


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