表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第9章 ヤルクツール
83/157

9 賞金・・・シロル

 これまで:ヤルクツールにガルツまでがトラクで現れた。アリスとミットが優勝を決めるなか、残るはレントガソールの格闘のみ。ニックの平台商戦も佳境を迎えた。

 広場はまだ準決勝の余韻を楽しむ皆さまで賑わっていました。競技の係を探して設置場所を聞きます。

 5メルくらい離れていないと画面に全体が収まりません。ですので隣の闘技場の柱の内側なら、客に押されることも少ないだろうと言うことで、地面に深さ1メルの穴を掘り支柱を建て込みました。クロが3メル半の高さにある目玉(カメラ)を両手を上げて調節しています。

 これで500メル程なら、ご近所ツーシンでこの場所の戦いを見ることができます。


 ミットさまが直接応援したいと言い出しました。それを聞いたテモンドさまが場所取りをすると言って座り込みますが、決勝までまだ2ハワー近くあるんですよ?

 テモンドさまの仕事はあたくし達の手伝いですが、少し違うような気がするのですが。


 作成中の画面(ボード)はヤングさまが見張っていますので、茶店に行ってみます。大きなボードを取り付ける場所があったでしょうか?


 緩い坂を登り、道なりに右へ行った突き当たりが木柵です。その手前右側に茶店で左手は山の斜面です。やはり大勢で応援するには少し狭いですね。


「この乗り場が使えるようになったら通路が狭すぎだね。ちょっと広げちゃおう。左側の斜面を10メル拡幅するよ」


 いつものことですがアリスさまは気軽におっしゃいます。

 決勝まで時間があまり無いので大量のマシンを撒いています。あたくしの手元からも根こそぎ持って行ってしまわれました。拡幅にかかる時間は40メニだそうです。


 茶店の向かい側が広くなるので、坂のやや下の右側に上から見えるようにボードを立てることにしました。

 そろそろボードが出来上がる頃ですので庁舎へ戻りますと、ガルツさまが踏み台を出して出来上がった画面(ボード)をヤングさまと取り付けていました。エスクリーノさまが踏み台の下で、ハラハラと見ておいでなのが微笑ましい光景でございました。


 残ったボードをクロが両手で肩に担ぎ、茶店への道を戻ります。支柱を2本建て込み画面(ボード)の取付が完了しました。


 ボードの設置を知らせて、庁舎からクロが屋台を引いて食堂の裏へ戻るのであたくし達も付いて行きます。ミットさまはそろそろ広場へ行くそうです。場所を取っていてもそこまで辿り着けなくなってしまいますから。


 食堂前では相変わらずの盛況で、そろそろエマさまも辛くなって来たのでは無いでしょうか。


 (カメラ)を闘技場に立てたので、あたくしとアリスさまは直接試合を見ることができます。応援はミットさまに任せて平台を手伝うとしますか。アリスさまも乗り気のようですね。


「ニック、エマちゃん。交代するよ」

「販売はお任せください」

「あー、助かったよ。全然途切れないんだもんなー」

「すぐ戻ってくるからお願いねー」


「「いらっしゃいませー」」

「髪飾りを下さい。お花は赤で、あとはピンクと水色を。妹の分でこれとこれ、串とカップもお願いします」

「はい、こちらでよろしいですか?900シルになります。

 はい、ありがとうございました、次の方どうぞ」


「私はカップを全色3個ずつと櫛を一通りもらおう」

「はい、こちらの袋にひとまとめにします。2700シルになります。

 はい、ありがとうございました、次の方どうぞ」


 そんな調子で途切れることなく続く販売をしていると、30メニほどで二人が戻って来て両脇で売り始めます。並ぶ方は商品を受け取ってどんどん抜けていきますが一向に列は短くなりません。

 こうなれば乗りかかった船というものです。4人で延々と売り続けます。販売作業はそれほど負荷がかかるものではありませんので、同時に闘技場のモニターをしています。


「レントガソールさまの試合が始まりました」


 アリスさまもチラッと画像を確認された様ですが、生身では集中しなければ見続ける事はできません。販売に注意を戻されました。

 あたくしが映像を記録しておりますので後ほどゆっくりと見られます。


 20人ほどお客さまを捌いた頃勝負がつきました。


「レントガソールさまが優勝されました」

「やったね。あとでゆっくり見せてね」


   ・   ・   ・


 レントガソールさまはすでに上でお休みですが、平台の片付けも終わり食堂の休憩場所で、マノボードの小さな画面に試合の様子を映します。

 お相手の巨体。と言っても横幅ですが、苦戦されるレントガソールさまを画面の端でミットさまが応援する様子が映っています。

 足への蹴りで前回優勝者を沈めたことは研究済みらしく、容易に蹴らせてもらえません。痺れを切らしての組み打ちですが、相手の掛ける投げ技が不発に終わりました。身長が違い過ぎて巻き込めなかった様です。


「レントー、行っけ行けー」


 ミットさまが画面の前で叫びますが、隅に映っているミットさまとシンクロしていますよ。

 一旦距離をとりレントガソールさまの蹴りが右肩辺りへまともに入ります。相手がたたらを踏むところへ一気呵成(いっきかせい)に攻め掛かり、なかなか倒れないことに(ごう)を煮やしたのか、そのままレントガソールさまが足を絡めて押し潰してしまいました。


 その後の表彰式も写っていますが皆さまは既に満足されたようですね。



 お祭りは今日が最終日ですが、街道が混みあうため2、3日は滞在される方が多いそうです。この食堂も忙しい日がもう少し続きます。

 平台売りもあと1日続けて様子を見ると言うことでした。


   ・   ・   ・


 お祭りの喧騒(けんそう)も収まり、あたくしはニックさまのお店の内装を手伝いに来ています。アリスさまはガルツさまと温泉施設を作るそうで、そちらへ駆り出されました。


 ミットさまはレントガソールさまとハイエデンへお出かけです。なんでもパルザノンとの親交(しんこう)を結ぶため帰郷(ききょう)されるそうで、ミットさまはそれに同行してあたくし達のトラクを回収すると言うことです。中の資材は全てガルツさまのトラクへ移し替えて、クロと5メルトラクに変形した屋台を持って行きました。


 この建物は3階建て、古いですがしっかりしています。ニックさま、エマさまとあたくしで上からお掃除をして行きます。


「わたし、屋根裏を見て来るから、シロルさんは2階の内装お願いね」


 エマさまは狭く急な階段を登って屋根裏部屋を確認に行きました。ニックさまは3階の部屋から、(ほこり)取りと床の掃き掃除です。2階は台所と居間があって、まずは居心地の良い場所を作るそうです。埃払いと一緒にマシンを天井と壁に撒いて、壁の傷みを修繕し温かみのあるベージュで仕上げて行きます。板張の床も磨き上げたように艶々になれば一部屋終了。このフロアは全部で6部屋ありますが、階段近くの2部屋は当面商品倉庫に使うので、そこはお掃除だけになります。


 南側の台所はサモック食堂と同じように(かまど)で煮炊きするようになっていて、水は階下の井戸から台所へロープで汲み上げられます。この建物には屋根まで通る煙突が2本あって、居間の暖炉と竈が共用になります。調理器具のない台所は細かく見て行くと、傷みが多くあって時間がかかりました。

 居間の立派な暖炉は色を明るくしたいと言うことで焦げ茶から薄いオレンジ色に変え、床も黄色系してみました。


 午前中いっぱいかかって2階部分をやっていると、上の掃除を終わらせた二人が降りて来ました。


「うわー。見違えちゃったね。明るくなったよ」

「台所が新品みたいになってるぞ、すごいな、シロル。これなら午後から家具を運んでもらうよ」


 嬉しそうに二人が部屋を見てまわります。


「こんなに綺麗になるのか。シロル、下も頼むよ」


 ニックさまが言うので、一緒に見に行きます。

 1階は店舗と事務室で、南に3メル幅の重い引戸で間口を広く開けられるようになっており、東に階段と事務室と大きな暖炉があります。

 事務室の仕切り壁と柱が5本あるだけのガランととした空間ですが、薄汚れた感じがあります。床もひび割れが目立ちますね。事務室奥の勝手口から入ったのでここまで傷んでいるとは思いませんでした。


 間仕切りなどは置く商品も決まっておりませんのでのちのちやるとの事で、あたくしに依頼されたのは天井と壁を白くする事と、床の補修でした。昼食休憩という事で食堂へ戻り賄いを頂きます。

 あたくしは味見ですが、アリスさまが戻っておられたので温泉の様子を聞きます。ニックさまに伝える意味の方が大きいかも知れません。


「ここは山脈が近いせいか、内陸なのに浅かったよ。

 飲める水が200メル、単純泉の60デグリくらいのが380メル。温度が足りないんで探したら420で塩泉の80デグリが出たんだ。

 ただ湯量が少なくって、エスクリーノさんが考えてる規模だと間に合わないんだよ。結局もう一本掘り下げたんだけど500メルで120デグリにアルカリ泉だからねー。

 十分だっていうからやめたけど、ここならもう500くらい掘ってみたいよ」


「場所はどちらですか?」

「あー。庁舎の一本手前の道の突き当たり。乗り場の道路まで斜面が有ってねー。その斜面を下の道路と同じ高さまで下げるんだって。その土で建物を建てるんだよ。午後からあの辺の斜面を全部3階建ての保養所にするよ」


「あの藪をですか?確かに場所はありましたが、形がかなり歪なのではありませんか?」

「そうだね。上の道の形を優先して合わせるつもりだけどね、庁舎の裏の道まで抜けばすっごく広いよ」

「ほとんど2ブロックですか。それは凄いですね。パルザノンの浴場より広いかも知れません」

「うん。面白そうでしょ」


「その屋上から街を見たらどんなでしょうね?

 展望台はどうでしょう」

「いいかも!作ってから屋根に登って見てみるよ」


 アリスさまがとても楽しそうです。こういうお姿を見ると、あたくしまでもウキウキしてしまうのは何故でございましょうか。


   ・   ・   ・


 ヤルクツールで作った大画面(ボード)目玉(カメラ)の組合せはガルツさまにすっかり気に入られたようで、アリスさまはハイエデンに戻り製作ラインを構築することになりました。あたくしもお供します。


 画面は1メル半掛け2メルと2メル掛け3メルの2種類。目玉(カメラ)は直径6セロの球形で5セロ幅の棒などに噛み付くように取付けることができます。

 映像は画面(ボード)の方で目玉(カメラ)を選択するようになっていて、向きや拡大縮小の制御を含め500メルの距離まで映像を飛ばすことができるので、運用が楽になりますね。

 卸価格は出来上がったらハイエデン商会組合で決めてくれる段取りだそうで、ヤルクツールも7セットの購入が決まっています。


 ミットさまに作ってあげていた、毛並みのある生地の製造ラインはもうできていて、浴場の地下で内職に回っています。浴場土産(みやげ)として並べる予定になっているそうです。


 ハイエデンに戻ることができて本当に良かった。







 ミットの用語解説だよー


 単位ねー


 お金 シル


 長さ セロ=センチメートル メル=メートル ケラル=キロメートル

    

 重さ キル=キログラム トン=トン


 時間 メニ=分 ハワー=時間


 温度 セッシド=度


 角度 デグリ =度


 


 アリスの目 見たものの寸法が分かってせんを引いてもらえるー 温度が見えるー 毒が見えるー


 マノボード マノさんが提供する絵やカメラの絵が見られる板


 サーモ ものの温度が見られる表示モード


 チズ   上から見た周りの絵が見えるー。大きさも変えられるってー


 マノボタン 飾りボタンだけどお返事がないらしいー。マノさん材料が採れるってー


 デンキ   浴びると軽いのは人や動物の動きが止まる。強いと気絶したり、死んだりする 滅多(めった)に使わないよー


 灯り    4セロの猫耳付きの白い円盤 厚さは半セロ 真ん中を押すと3段階で光るよ 明るいので連続3日くらい光るらしい


 バッテリ  元気な力(デンキー)を溜めるものー


 トラク 幅2メル30セロ 高さ2メル50セロの箱型の乗り物ー 長さは用途により変わるよー

 速度は150ケラル/ハワーまで出せるー


 木質(セルロース) 木が原料ー。木には戻らないけどこっちの方が丈夫ー。いろんなものになるよー。


 甘味(グルコース) 木が原料ー。甘い味の調味料ー。


 箱紐(デンシブヒン) 乗り場の隠し部屋で採れるー。たいがい四角い箱の片面から紐が何本も生えていて箱がぐるぐる巻になってるー。いろんな原料が採れるよー。


 虫の殻(キチン質) これもいろんなものを作る原料になるよー。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ