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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第9章 ヤルクツール
81/157

7 エスクリーノ・・・シロル

 これまで:ヤルクツールには乗り場が観光資源として知られていると言う。夜に動かない原因を突き止め、修理したアリス達はお祭りを満喫する。

 南門に戻るとカイトが立哨姿勢で外を見張っていた。


「「こんにちはー」」

「おっ、もう終わったのか?」

「「決勝までいいってー」」

「なんだあ?そんなの初めて聞くぞ?

 3人ともか?」


「おー、鋭いねー。あたいは明日までひまー」

「こっちは35メルの投擲をシロルとやることになったよ。夕方近くかな?」

「お前たちそんな凄いのか?決勝までシードってか」


「あー、なんか言ってたね。お祭りの精神に反するとか、みんなが萎縮(いしゅく)するとか」

「ここでお弁当たべていーい?」

「弁当だー?いや、構わないけど、なんでここなんだ?」

「面白そうだからー?」

「庁舎ってのも聞きたいしー?」


「あー、チューブ列車の話か。まだこれからだよ。お前たちが戻ってくるのが早い。祭りの最中はどこも人手不足なんだよ。地図書いてやるから自分たちで行ってくるか?」

「ほんとー?」「行く行くー」


「これで分かるか?南門のカイトに聞いたって言えば会ってもらえるはずだ」

「カイトさんねー」「分かったー」


「あー、これ昨夜(ゆうべ)の道の突き当たりだよ。街道を左に曲がったら乗り場だけど、まっすぐ行くんだね」

「ふーん、近いんだー。お昼食べたら行ってこよー」



 あたくしのお弁当は無事にお二人のお腹へ収まりました。

 街道を北へ進みますが人通りが多いですね。庁舎の東にもお店が有ったりするのでしょうか?

 行って見ると大きな建物なので庁舎はすぐに分かりました。


「南門のカイトさんに聞いて来たんだけど、街長のエスクリーノさんっていらっしゃいますか?」

「こちらで少々お待ち下さい」



 左の通路から太ったおばさまが出て来ました。紺の飾り気のない上着とズボン姿。お掃除の方でしょうか?


「ふうん。カイトは少女趣味だったか」

「今カイトって言ったかいー?」


 ミットさまー、(から)まないでください。


「ああ言ったよ。あたしになんの用だね」

「……エスクリーノ…さん?」


 アリスさまは驚かれたようです。あたくしもですが。


「そうさ。あたしがこの落ちぶれし街、ヤルクツールの街長をもう20年もやってるエスクリーノだよ」


 あら、失礼をしてしまいました。


「あたいはミットだよー。アリスにシロル。一つ知らせを持って来たよ。いい知らせかどうかは分かんないけどねー」


 ミットさまはこのおばさまと波長が合いますね。


「そうかい。こっちへ来な」

 おばさまが通路を奥へ戻ります。右に曲がるとすぐのドアから

「こっちだよ」


 広い執務室。左手に大きな机。上には40セロもある書類の山がひとつ。背凭(せもた)れの高い椅子。

 正面には10人座れそうな低い長椅子とこじんまりと見えるテーブル。その向こうに小さめの机が二つ。女の人が二人、書類と格闘中。


 おばさまが手前の一人掛けに座り右手を出してヒラヒラしました。ここへ並んで座れと言う意味でしょう。


「お客さんだよ。お茶入れとくれ」

 (あわ)てたように右のお姉さんが立ち上がりました。

 アリスさまがおばさまから一番近いところへ、ミットさまは向かいへ回ります。あたくしはアリスさまの隣に座りました。

 おばさまはミットさまを怪訝(けげん)な顔で見ています。

 ミットさまは腰を下ろすなり言いました。


「固い椅子だねー。お客さんが気の毒だねー」

「何が言いたいんだい?」

「もっといい椅子を買わないかって話だけど、アリスの話を先に聞いとくれー」


 ミットさまに自分の縄張りを引っ搔き回されたご気分でしょうか。

 先程のお姉さんがお茶を配ります。アリスさまもミットさまも猫舌ですから警戒して手を出しません。(こじ)れるといけませんのであたくしが一口。


「あら?これ、お茶でございますか?」

「「プーーツ!」」

「あっははははー」


 ミットさま笑い過ぎです。アリスさまはなんとか(こら)えています。


 目を白黒させておばさま、もとい、エスクリーノさまがお茶を確かめました。


「薄いね。お茶はお茶だよ」

 ボソッとおっしゃいます。

 アリスさまもクスクス笑い出してしまいました。

「で、なんの用だね。話が一つも進まないじゃないか」


 困惑するエスクリーノさまの前で二人がうずくまり、ヒクヒクと笑いの余韻(よいん)を楽しんでおられましたが、冷たい視線にやっと本題へ入ります。


「チューブ列車は知ってるよね?」


「ああ、大事な観光資源だよ」

「あれね。勝手にいじっちゃった。先に謝っとく。ごめんなさい」


「な!何したんだい、一体」

「うん。部品が一つ焦げてたから取り替えた」

「……」


 ミットさまがお茶に手を出し一口。


「うわっち!まーだあっついよー」


「取り替えるとどうなるんだい?」

「列車が呼べる。あたしたちが知ってる4つの乗り場へそれに乗って行ける」

「どう言うことだい?」


「だからー、壊れてたとこを直しちゃったのー」

「あれは遺跡だぞ?」

「違うよー。壊れてたのー。こんくらいの部品が一つー。取り替えたら直ったんだよー?あれは現役ー」


「……」


「こりゃ長椅子まで話が行かないねー。これから見に行こうー。そっちのお姉さんたちも行くよー」


 ミットさまが仕切り出します。これで安心でございます。


 あたくしたちが一斉に立ち上がると釣られて3人が立ちました。頭の上に分からん(クエスチョンマーク)が3つくらい揺れているのが見えるようです。

 近いので一言も喋らないまま茶店の横まで来ました。


「ここはどーするの?開けていいなら開けるよ?」

「鍵があります」


 おばさまに鍵を渡されたお姉さんが柵を開きます。通路が暗いのでアリスさまが灯りを点けてめいめいに持たせます。

 何かぶつぶつ言ってますが後でいいでしょう。突き当たりまで来ました。


「ここは開けられる?」

「左側が同じ鍵で開きます」


 おばさまはまだ再起動できていませんね。

 全員が路線図の前に並びました。


「ここに触れるとロセンズーが出るのは知ってる?」


 アリスさまが壁に触れると大きな丸が現れます。あまり明るくはありません。


「丸の線上に13個の小さな丸と四角があるのが分かるかな?

 この一番下がヤルクツール。右はまだ調査してないから行かない方がいいけど、左の一つ目は近くに町がない。2つ目がレクサール。3つ目がハイエデン。次がケルヤーク。その次は近くに町がない乗り場だよ。

 列車を呼ぶには行きたい場所を触る。ハイエデンまでは2ハワーちょっと。呼んでみるよ」

 左の3個目をポンと触った。

「7メニだって」


「チューブ列車は馬車ごと乗れるんだよー。普通の馬車は12台一度に乗れるんだってー」


 おばさまはまだ本調子とは行きませんか。まあメモの取れる環境で(まと)めてお伝えしたほうがいいでしょう。黙りこくったままの待ち時間が過ぎていきます。


「来たよー」


 コオォォーーー


 音がはっきりと右から近づいて来ます。

 灯りが見えて来ました。車内灯の反射で列車が見えるようになり

 ヴヴヴゥーーー。


 止まりました。少し間があって音もなく入り口が開きます。


「ハイエデンまで行ってくるかいー。行くならあたいが付き合うよー。今日はやることないから」

「2ハワーちょっとですか?帰って来られるんですよね?」

「そこは保証するよー」


「あなたたちも行って来ますよ」

「「……」」


 ミットさまが入り口を閉じないように(また)いで立っています。


「鍵なら閉めておきますよ」

 アリスさまの言葉で皆さん動き出しました。


「ミットー。お土産(みやげ)頼んだよー」

「あいよー」


 乗り込むと扉が閉じ出発します。

 ヴヴヴゥーーー


「さ、戻ろう」


 柵を閉め歩き出すと

 コオォォーーー


 行ってしまいましたね。



 外へ出てまずツーシンを試します。幸い1ハワー40メニにハイエデンと話せるようです。ガルツさまにお出迎えくらいは頼めそうですね。

 アリスさまが木柵の鍵を閉めたので、一度食堂に戻ろうかと言う話になりました。レントガソールさまも気になりますが、まあ大丈夫でしょう。



 行って見るとニックさまとエマさまは長時間の販売作業でもうヘロヘロでした。あたくしとアリスさまが交代に入ります。在庫をざっと見ると半分以上売ってますね。あの消耗(しょうもう)具合も納得です。


 1ハワーほど経って150人くらい(さば)いた辺りで、半分くらい復活した二人が戦線に復帰しました。


「ニックさま、もう大丈夫なのですか?」

「うーん、半分くらい?」


「あたしたち、この後ナイフ投げの決勝があるけど、もうすこし手伝って行くよ」

「ああ、すまねえ。助かるよ」



 15メニ。そろそろ行ったほうがいいでしょう。


「無理しないでください。閉店してしまえばいいのですから」


 ちょうどアラームが鳴ったのでガルツさまにこちらの街長のお出迎えをお願いしました。30メニほどしか時間がないと聞いて向こうは大騒ぎになっているようです。頑張ってくださいませ。


 ナイフ投げの会場へ向かいますが広場が依然(いぜん)混雑しているので近道はできません。まっすぐ街道まで出て、右へ歩きます。会場では準々決勝の最初の投擲(とうてき)をやっていました。40点台の勝負となっているようです。47点ですか。なかなかの高得点ですね。

 もう1組は45点で勝ち上がりました。


「今年の競技は例年とは違い高い技量の方が2名参加されています。あまりに飛び抜けた技量でございましたので、勝手ながら準決勝シードとさせていただきました。これより予戦より勝ち上がった2名とシード2名の準決勝戦を行います。

 まずは、アリス嬢対エリック様の対戦を開始します」


 小柄な男の方ですね。もう始めがかかっていますのに慎重です。アリスさまは気負った様子もなくポンポンと投げ、50点獲得されました。


「50対48。アリス嬢の勝ち。

 準決勝2回戦はシロル嬢対ネスト様。始め」


 対戦相手は180セロくらいでしょうか?細身の男の方です。あたくしもポンポン行きましょう。


「50対46。シロル嬢の勝ち。

 引き続き決勝を行います。投擲距離15メルでは勝負がつかないとの両者に申告をいただいておりますので、35メルの的を特設しました。決勝は後ろの緑地で行います。

 投擲はアリス嬢からお願いします」


 はい、ではあたくしが回収に回ります。的の後ろ3メルに立ちます。


「おい、あんなところに立って大丈なのか?」


 ご心配いただいてありがとうございます。お礼に手を振って差し上げます。


 アリスさまの1投目。

 ターン!


 2投目。ターン!


 3投目。ターン!


 4投目。ターン!


 5投目。ターン!


 あら。あたくしのお仕事がありませんでした。

 あたくしは投擲位置へまっすぐ向かいます。アリスさまが入れ替わりに的の後ろへ。


「只今の得点は47点!

 次はシロル嬢の投擲を行います」


 47点ですか。これは気合を入れないと。

 などと言っても違う事ができる訳ではありません。精密(せいみつ)機動(きどう)をするだけでございます。


 ターン。ターン。ターン。ターン。ターン。


 アリスさまに回収させませんでした。第一段階はクリアです。望遠に切り替えます。あら。これはいけません。47点です。

 アリスさまが採点の方と話しておられますね。


「只今の得点は47点。同点ですので1投ずつ投げていただき、差のついた時点で優勝とします。只今の状況より判定員は近くでも危険がないと判断しました。こちらで判定します。

 ではアリス嬢から」


 アリスさまが回収したナイフを渡してくれます。

 一本を構え、投げました。ターン。

「10点!」


 あたくしの番ですね。構えて、投げる。ターン。

「10点!」


 アリスさまが構え、投げました。ターン。

「10点!」


 あたくしも、投げます。ターン。

「9点!」


「あらー」負けてしまいました。


「シロル、たっのしかったねー」

 満面の笑みでございますね、アリスさま。

「ええ、ほんとに」


 そう答えた途端(とたん)、アリスさまに抱き付かれてしまいました。



 そのあとは何やら勿体(もったい)をつけたお立ち台にアリスさまが立たされ、100万シルを目録(もくろく)で受け取っていました。

 あの場所に従僕(じゅうぼく)の身で立つなど考えただけで(ふる)えが来ます。外れて良かったと思いました。



 取材とやらからやっと解放されてサモック食堂へ戻ります。中央広場の格闘も終わっていて、屋台で差し入れになりそうなものを選んで買い込みました。多分夕飯どころではないはずですから。


 戻って見ると平台はさすがに閉店しています。

 食堂の方にニックさまとエマさまが参戦してますね。アリスさまがレントガソールさまの様子を見に行きました。あたくしは差し入れを作業台の隅に置き調理に参加します。


「お、シロルちゃん。どうだった?」

「優勝はアリスさまです。ミットさまは決勝シードで里帰りされています。もうじき帰られると思います」


「ああん?優勝はおめでとうだが、ミットちゃんがどうしたって?決勝シード?そんなもの初めて聞いたぞ?」

「10メルの綱を棒を使わず渡ったそうです。お客さんの声援に応えて宙返りを一つ綱の上でやって見せたそうで、命綱が絡まるところだったと」

「そりゃすげえな。で決勝までお休みか。里帰りでじきに帰ってくるってのは?

 おーい8番持ってけ!」


「こちらの街長さん、エスクリーノさまをハイエデンに案内されています。ハイエデンはチューブ列車で3区間、2ハワーほどで行くことができると今日分かりました」

「また分からんことを言い出したな。チューブ列車は遺跡だぞ?」

 この方は調理をしながらですのに、細かいところまでよく話について来ますね。


「昨夜、チューブ列車の駅に忍び込みまして、修理いたしました。結果、あの駅は現役です」

「なんとなんと!それであんたらの故郷に帰れるってか。エスクリーノ嬢をご案内かー」


 えっ?嬢?


「エスクリーノさまの年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あー?歳ぃ?んー。確か俺の20下だったか?それが合ってれば28か?」

「街長を20年やっているとおっしゃってましたよ?」

「ああ、口癖な、死んだ嬢の親父も街長でな。手伝いやってたんだ。

 3番、5番できたぞ!」


 エスクリーノさま、おばさまなどと、大変失礼をいたしました。


「差し入れを屋台で買って来たのですが、食べる暇はありますか?」

「おおっ。ありがてえ。おい、差し入れだとよ。交代で食え」


 丁度アリスさまが降りて来て給仕に入ったので、余裕ができました。


 エマさまが戻って来ます。休憩スペースにへたり込むように座ります。昼間、平台でも消耗(しょうもう)されていましたから。


「エマさまはこの交代が一回りしたら、上がってもらった方が良さそうです」

「ああ、そうだな。エマ、すまんがもう少しだけ頼む」

「は〜〜い……」


「おやじ。もう上げてやってくれ。もう無理だって。ほら、エマ。それ食ったら帰って寝ろ。明日調子悪いようなら休んでもいいからな」


 ニックさまが食堂へ戻り、別の子が入って来て休憩に入りました。


 注文、配膳、片付け、会計とクルクル動き回るホール係は、祭りの期間は3人態勢だそうですが足りていません。一昨日(おとつい)のあたくしたちのお祭り案内は、ニックさまにはいい休養だったようです。


 ホール係の休憩がひと回りしてニックさまが戻って来ます。さすがにお疲れの様でテーブルに突っ伏してしまいました。


「やあー、みなさんー、元気でやっとるかねー?」


 ミットさまでした。後ろにヤングさま、テモンドさまが見えますが?


「あれー、ニックが伸びてるー。どーしたー?」

「伸びてねえ!

 おやじの人使いが荒いだけだ〜」


「元気よかったの最初だけだねー。テモンドー、洗い場に入ってー。ヤングー、ホールで片付けー」

「「はいよ!」」


「こいつら明日休みなんだよー。あたいの顔見たら、野宿でもいいから行くって聞かないんだー。で、連れて来たー。上にもう一部屋あったよねー?」

「ああ。ベッドは一つ切りだが空いてるぞ。ほんとに行って来たんだな。驚いた。

 エスクリーノを連れて行ったんだってな」


「あー。ハイエデンに置いて来たよー。お姉さん二人はもう帰ったけどー。

 あしたガルツと一緒に帰るってー」

「ガルツさまはあたくしたちの所属するハイエデンのガルツ商会の代表です」

「そんな偉いのが来るのか?

 おーい、1番持っていけ!」

「えー?どこにでもいるおっさんだよー?」


「わー、ミットー。お帰りー、ヤングがホールにいるからびっくりしちゃったよ」

「テモンドも来てるよー。皿洗いしてるー。あしたガルツが来るってー」

「へー?暇なのかな?」

「うん。ちょうどいいって言ってたー」


「急に二人増えたけどどうするの?」

「3階にもう一部屋空いてるってー。ベッドを追加したいんだけどいーい?」

「後で見てあげる。こっちは大丈夫なの?」


厨房(ちゅうぼう)は大丈夫だ。シロルちゃんが来たからな」

「あたいがホールに出るからニックが案内ねー」

「ああ?分かった、ふぃ〜。

 よし。行くか」



 どうやら今夜は乗り切れそうですね。


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