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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第9章 ヤルクツール
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6 修復・・・シロル

 これまで:ヤルクツールのお祭りを満喫する一行。ニックの家の上階は下宿屋をやっているので短期で部屋を借りる事にした。競技は続いている。

 1日目の競技は無事終了いたしました。

 ここヤルクツールはなんとチューブ列車の乗降駅だそうで、駅前の茶店でミットさまがニヤニヤしておいででしたから、近々とは思っておりました。ですが、今からでございますか。


 あたくしにも心の準備と……あら、心はありませんでした、失礼いたしました。


 そんなわけで灯りも使わずに街路を通って、茶店の奥の柵を3人で越えるところでございます。


 アリスさまとあたくしは赤外域(サーモ)で見るので、ミットさまの手を引いてここまで来ていますが、もう灯りを使ってもいいでしょう。

 予想通りの幅6メル高さ3メルの四角い通路が照らし出されます。昼間お話を聞いた(かた)が、300メル先で 丸い洞窟(チューブ)が見えるとおっしゃってましたね。

 アリスさまは右側の壁に手を当て隠し部屋を見ながら進んでいきます。これまでの4箇所が全て右側にあったからですね。


「あった!」

「アリスー。帰りだよー」

「分かってるって、ミット」


 聞いていた木柵が見えて参りました。低い仕切り壁は1メルと離れていませんね。通路に突き出すように上手に設置されています。


 ミットさまが飛び越え、あたくしがアリスさまの踏み台になります。路線図も左の角を曲がったところ。あったようです。あたくしも覗き込みました。


 おや、向きが違うだけで同じ路線図ですわ。植林された乗り場(ハゲ山)のお隣ですね。どうして使わないのでしょうか?

 アリスさまも首を傾げていますね。


「シロル。ちょっと持ち上げて」

 アリスさまが上を指して言いますので、膝を抱きかかえて持ち上げました。アリスさまが壁に触れると50セロ角の四角い線が浮かび上がります。右が蝶番(ちょうつがい)になっていたようでバクンと開きました。


 あたくしは扉を(ひら)けるように2歩下がります。灯りをかざして覗き込むので前へ出ると

「あー、ここかなー?」


 奥の方を何やらゴソゴソとやっておられます。

 ああ、心配がございませんよ?あたくしは記録に拠れば遠い昔に一世を風靡(ふうび)した機械仕掛けの従僕(ネコミミメイド)、人間ではございません。マノ[さん]の幾枚(いくまい)もある設計図ライブラリの1枚から作られましたので。

 (もっと)もこの(ごろ)は耳と尻尾は隠したままでございますが。


「あー、ここ焦げちゃってるよー。なにがあったんだろうね?

 隠し部屋行って部品(あさ)って来よう」


 そこはそのままにして柵を再び越えて戻ります。隠し部屋も5箇所目ですので、もうドアなど見向きもしません。壁の位置を探って20メニほどで潜れるだけの穴を開けると、灯りを放り込んで潜り込んでいきます。


 中は机が一つのふた部屋。奥には簡単な作りのベッドが一つ。ミットさまがクルクルと見て回る間に、あたくしとアリスさまで机と棚のものを開けた穴の近くへ運んで行きます。大きな黒い板(ディスプレイ)も分解して袋詰めにしたのでそれほどの量ではございません。3人で運べるでしょう。

 見るものがなくなるとミットさまが外へ出たので、あたくしは集めたものをどんどん押し出します。みんなが外へ出るとアリスさまが箱紐(デンシブヒン)筐体(きょうたい)の一部で持ちやすいバスケットを3つ作ってくれました。

 同じ材料を発泡処理(ハッポーに)して壁の穴を塞ぐ間に、あたくしたちが荷造りをしてバスケットを一つだけ持つと再び奥へ参ります。


 アリスさまはデンシブヒンを一掴み握って交換部品を作ると、あたくしに持ち上げるように言いました。

 部品の交換はすぐに済みます。


「試しに呼んでみるよー。ハイエデンまで2ハワーちょっとだって。5メニで来るみたいだよ」

「わー。結構かかるねー。ちょっと今から行ってくるってわけにもいかないかー」


「いいじゃない。帰れるって分かったんだから」

「でもそっかー。長い旅だったねー。ハイエデン出てから一月ちょっとー?」

「37日かな。パルザノンが楽しかったね。ここもだけどおっきい街は見るものがいっぱいあって、商売もできて」

「騒ぎもあるけどねー。あ、来たねー。これで直ったー?」


 コオォォーーー


「うん、大丈夫みたいだね」


 灯りがグングン近づいて来ます。

 ヴヴヴゥーーー。


 止まりました。少し間があって入り口が開きました。


「よし、宿に帰ろう」

「そうですね。隠し部屋の探索は余計でした。今日の競技に差し支えます。お早くお休みください」


 バスケットを一つずつ抱え宿へ向かいました。


   ・   ・   ・


 今日は皆さん忙しいです。食堂はもちろん、外の平台も今日は1000個ずつ用意しましたが、ニックさまとエマさまのお二人でどこまで(さば)けるでしょうか?あたくしとアリスさまは決勝まで4試合、ミットさまが予選の3試合、レントガソールさまも4試合あったはず。

 お互いの応援どころかお昼もどうなるかということでお弁当をお作りして持たせてあります。もちろんこのお店の方たちの分も作って置きました。


 広場でレントガソールさまと別れ、アリスさまを間に挟んで雑踏(ざっとう)を抜けます。街道に出るとホッとしますね。右へ歩いて程なくナイフ投げ会場が見えて来ます。

 まだそれ程集まっていませんね。先の方に見える綱渡りの人だかりとは対照的でございます。


 あたくしたちの試合は3組目でございました。次まで1ハワー程空くと言うのでミットさまの方を覗きに行きます。

 ミットさまが次の次だとおっしゃるので、ひと試合を一緒に見ることになりました。4本の綱を長い棒を水平に構え、一斉に渡り始めます。

 最初の2メルはなかなか進まないものですね。綱が自分の重みで上下に動くので歩きにくいようです。それを過ぎてもさほど歩く速度は上がりませんでした。左右に揺れるのを抑えるのに苦労されているようです。

 あと5メルというところから歩みがゆっくりとなりました。前の綱が坂道のようになって迎えて来るので、次が踏み出しにくいのでしょう。

 体重移動に伴う綱の動きを計算した上で動けば良いだけなのですが、それを生身の方々に求めるのは(こく)と言うものでしょうか?

 皆さま揃って2メニ近く掛かって渡りきりました。


「3番が早かったな。良いところまで行くんじゃないか?」

「ああ、俺もそう思うぜ。賭けるならあいつだな」


 後ろのお兄さま、お二人はなんのお話をされているのでしょうか?確かに綺麗なお嬢さまでございましたが。


 ミットさまが次なので呼ばれて行きました。同じような展開で進み、ミットさまが奥から2番目で出て来ました。棒を構えてゆっくりと歩き出します。

 左右を見ながらペースを合わせておられますね。他へ合わせるなど珍しいことですが、全く危なげがありません。淡々と前へ進み先頭で渡り切ってしまわれました。

 後ろでどよめきが上がりましたので目を向けると、高さ10メルの綱の上に、背の高い男が棒を使わずに腰の命綱一つで、両手を大きく広げて渡っていくところでした。ゆっくりとした足取りで渡って行き最後は慎重です。一歩一歩確かめるように渡り切り見物から拍手と歓声を受けています。


「ミット。ご苦労様」

「あたい、なんかダレて来ちゃったー」

「あー、分かる。あたしも加減して投げるのが苦痛だよ。もう棄権(きけん)しちゃおうか」


「ここまでやったからねー。アリスは今日だけでしょー?100万シルだよー」

「うん。でも使い道ないしー?」

「そーだねー「あはははははー」」


「あたくしは今更だと思いますよ?思い切りなさっては、いけないんですか?

 それにチューブ列車が動くのですから交易の話が先ではありませんか?」

「うーん、シロル、さっすがー」

「それもそーだねー」



 加減(かげん)は止めてやりたいようにやると言うことで、話が(まとま)ったようでございます。そういえばあたくしも使い道と言われると食器、調理器具くらいしか思いつきません。


「やあ、お嬢さんたち。こんなとこに居てもつまらないよ。僕らと遊びに行こう」


 こんな人目の多いところで、ずいぶん軽い口調ですね。4名さまですか。


「あんたらには用事ないよ。よそへ行きなー」

「なにツンケンするかなあ?ほら行こうって」


 あー、よせば良いのにミットさまの手を取りました。あら、あたくしもですの?掴む手の甲の皮を(つま)んで差し上げましょう。


「イテテー」

 ドタン!見るとアリスさまが一人押し倒しています。

 ミットさの手を引いたまま唖然(あぜん)とする男。あたくしが摘んだ男は膝を突いています。そんなに痛いですか?


「あんたたち運が悪いねー。あたいたちに手を出すなんてー」

「なんだと……」


 ミットさまの掌底(しょうてい)(あご)を突き上げます。残る一人がミットさまに殴りかかりますがあっさり()け、腹を蹴り上げました。

 アリス様に倒された男に動きはありません。


「あなたはどうされますか?」

「離せ!」

「あら、嫌ですわ。あたくしたちがお断りしたのに手を出したのですよ?そこでゆっくりなさったら?」


 バタバタと右手から駆け寄る足音がします。新手でしょうか?


「おまえたち何があった?」


 警備の方でしょうか、あたくしたちの顔を見て、足元に転がる4人を見ます。げんなりしたような表情ですね。


「大体わかった。詰所へ一緒に来てもらえるか?おまえはこいつを詰所まで運べ。逃げると罪が重くなるぞ」

 アリスさまとミットさまに挟まれ逃げるなど不可能です。


「では、あたくしが一人運びます」

 とは言ったものの、どこを掴んだら良いでしょうか?片膝の裏を右肘にかけて引きずってみます。一人担ぎ上げた警備の方がそれを見て、顔を(しか)めましたが何も言いませんでした。


 南門の詰所まではそう長い距離ではございませんでした。着くと門番も手伝って4人は手早く(しば)り上げられました。


「こいつらは札付きでな、目出たく現行犯逮捕だ。すこしは平和になるよ。

 名前を聞いても良いか?」

「アリスです」

「ミットだよー」

「シロルです」


「この街の者じゃないな。どこから来たんだ?」

「「ハイエデン」」


「ん?聞かない名だな?どこだ?」

「チューブ列車で左へ3つ目だよ」

「なに?チューブ列車ってそこの遺跡か?」


昨夜(ゆうべ)直したから、遺跡じゃないよ。現役」

「はあ?何を言ってる。何百年も動いてないんだぞ。直した?」

「うん。それでこの街を(まと)めてるのは誰?」

「街長のエスクリーノさんだが……」

「街長さんか。どこに居るの?」

「庁舎に居るよ」


「あ、アリスー、あんたたちそろそろじゃないのー?ナイフ投げー」

「あー、競技に行っても良いですか?」

「アリスさんはナイフ投げね。いいよ」

「シロルもナイフ投げです」


「ミットは綱渡りー。泊まってるのはサモックの食堂だよー」

「ああ、分かった。エスクリーノさんにはさっきの話を伝えておくよ」

「じゃあねー」



 通りがかりに見るとミットさまはまだ時間がありそうですね。あたくしたちの会場に着きましたが、こちらも少し時間があるようです。


 おや、隅で一人で泣いている子供がいますね。

 あたくしが何か言うより早くミットさまがそちらへ動きます。


「チビちゃん、どーしたー?(はぐ)れたのー?」

「チビじゃない。ぐすっ、めーむ。ぐすっ、お母さんどこー?えーん」

「偉いねー、メームちゃんか。お母さんと(はぐ)れたんだねー。ちゃんと言えてすごいねー。あたいが肩車してあげるから、お母さんを上から呼んだらいーよ。ほらおいでー。持ち上げるよー」


 あれよあれよと言う間に小さな女の子を肩に乗せてしまいました。急に視点が高くなってビックリしているメームちゃんに構わず、ミットさまが声を張り上げます。

「メームちゃんのお母さんは居ませんかー?」


 それを聞いてビクッとしたメームちゃんが泣きながら呼びます。

「お母さーん」


「メームちゃんのお母さんは居ませんかー?」

「お母さーん」


「メーム!」

 人垣を押し分けて女の人が出て来ました。


「お母ーさん!」


 ミットさまが肩から下ろすと二人が抱き合って喜んでいます。


「どうもありがとうございます。逸れてしまってどうしようかと思っていました」


 そうお礼を言ってお母さんはメームちゃんの目元を(ぬぐ)っています。


「会えて良かったねー。お母さんの手、離しちゃダメだよー」


 ミットさまは綱渡り会場へ行ってしまいました。良かったですね。おっと、あたくしたちもそろそろでした。集合場所へ参りましょう。


 今度はあたくしが1回目、アリスさまが2回目ですか。あたくしは順当に1投目を8点、残りを中央に集め48点で終わらせました。

 次はアリス様です。加減を止めるとおっしゃっていたのであたくしも楽しみでございます。


 シュタターン。

 2本連投が行きました。周りの空気が凍りつきましたが、それを破るように素早く3本抜いて右手に収めます。


 シュタタターン。

 間髪(かんはつ)容れずに3連投。予備動作などありません。

 さて、点数はいかがでしょう。拡大するまでもないですが、まあ一応。すべて中央の丸の中ですね。30メルだと少し苦労するでしょうがこの距離(15メル)ではこんなものでしょう。


 えーっと?皆さんが投げ終わらないと確認もナイフの回収もできないのですが?


 係の一人がやっと我に返り、投擲(とうてき)(うなが)しました。これで次までの間、他を見にいけます。

 点数を記録した係の人が一緒に来るように言いますので二人で付いて行きます。

 競技は一時中断するようです。


「お二人はお連れ様でしょうか?」


「ええ、そうです。あたくしはアリスさまの従僕(じゅうぼく)と言う立場でございます」

「従僕?雇用関係でしょうか?」

「もう少し(しば)りが強いですが、そう言っても間違いではございません」


「はあ。それで先程のお二人の投擲(とうてき)ですが、あの距離では試技(しぎ)にならないご様子。このまま混じって競技をしても他の参加者が萎縮(いしゅく)してしまいます。祭りに精神に反することになってしまいますので、決勝にだけご出場願うわけに参りませんか?」

「では2回休んで決勝ですか?」


「そうなります。ただ15メルでは勝負がつかないのでは?」

「付きそうもないね。30メルならどうだろ?」

「あたくし、外しませんよ?35では如何(いかが)?」

「うえっ?それはちょっと自信無いなー」

「あたくしも自信がございませんから丁度よろしいのでは?1本くらいは真ん中に当たるでしょう?」


「うーん。ほんとに一本くらいならねー」

「な、なっ。35メル?後ろの緑地に的を置くか。外れた分はどこへ行くかわからないな。どうやっても壁は間に合わない。それでも良いかい?」


「壁ですか?あたくしたちが交代で外れた分を受けると言うのはダメでしょうか?」

「ななな、なんてことを言うんだ。できるのかそんなこと?」

「できるよ?」「できます」


「ふぅぅーー。

 じゃあ15メルで一般参加者をボコった後、35メルで一騎討ち。でよろしいか?」

「あんた、ミットと気が合いそうだね。良いよ、それで」

「ミット?さん?」


「綱渡りやってるよ。いつ戻って来れば良い?」

「午後遅くになりますね」

「うん、じゃ気にかけとく」


「おや、ミットさまが参りました」

「ミットー、どうしたのー?」

「うん。ちょっとわがまま言って10メルの綱ササッと渡って来たー。決勝だけ出てって言うから明日まで暇になったー。お客の反応が良くってねー。一回宙返りしちゃったけど命綱って怖いねー。(から)まるとこだったよー」

「うえっ。こいつはー」


 アリスさまが引いておられます。


「こちらがミットさまでございます」

「なななな、10メルの綱の上で宙返りとか?

 見たかった!」

「んー?明日もっかいやろっか?邪魔(じゃま)な紐なしでー」

「いや、そ、それは……

 あー!すみません、競技の方を進めて参りますので、これで!」

「ふーん?そろそろお昼だけどお弁当、どこで食べよっかー?」

「南門が面白いかも」

「いいねー。庁舎の場所も聞きたいねー」


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