1 ケルヤーク・・・パック
ハゲ山のおかしな洞窟で拾った少年は「筒」と呼ばれる乗り物で、開拓団として来ていたという。
体力の回復を待ち改めて洞窟を調査に行った先で、3人が見たものとは?
登場人物
アリス 主人公 13歳 薄い茶の髪、白い肌、青い目、身長150セロの女の子。
マノさん アリスの話し相手?魔法使い?
ミット 12歳 孤児 濃茶色の髪、やや褐色の肌、黒い目、木登りが得意、身長148セロの女の子。
ガルツ 32歳 工房出身 元猟師 その後兵士を3年ほどやっていた。戦場で壊滅した部隊から逃れて来た。日焼けした肌、赤黒い髪、青い目、身長183セロの大男。青ずくめの防具、楯と長剣が基本のスタイル。
パック 14歳 ケルヤークの少年
チーノ 6歳 ケルヤークの少女
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1 ケルヤーク・・・パック
「パックー、あっそぼー」
隣のチーノって言う6つの女の子が来たみたいだ。
「チーニー、おはよー。ごめん、明日から夏の村に行くんだって。用意を手伝わなきゃいけないんだ。秋に戻ったらまた遊んでねー」
「えーっ、そうなのー?居なくなちゃうの?チーニー、手伝うー。今日は一緒に居るー」
「チーニーのとこはまだお話来てないの?うちが最初のグループらしいけど、もうお知らせが回ってるはずだよ」
「夕べお父さんとお母さんと、おばあちゃんとおじいちゃんが、テーブルでお話してたよ。チーニー、寝ちゃったから知らない」
「そう。チーニーのうちは僕らのグループには入ってなかったよ。じゃあ僕の着替えや普段使うものを背嚢に詰めるんだけど、手伝ってくれる?」
詰めるものを選んで床に敷いた布の上に並べていく。
「チーニー。これも持ってくからそっちに置いて。こんなものかなー?」
「パックー、こんなに持っていくのー?重いよ?」
「うん、もう一回見て減らすよ。多すぎるよね。うーん、ハサミは大人用を借りるから良いか。僕の手でも握れるようになって来たし。うーん……」
「お母さんに見てもらおーよ」
「そうするかー、あとは思いつかないや。お母さーん、荷物見てー」
「あー、パック。ちょっと待ってねー」
「あっちも忙しそうだねー」
「台所のものはすごくいっぱいあるからね」
「はいはい、来たわよ。どーしたの?
あら、チーノちゃん、いらっしゃい。ごめんね、今日は構ってあげられないの。
あー、これが持っていくものね。ちょっと多いわね。
悪いけどおもちゃは3つにしてねー。石のコレクションも諦めてね。重いし、向こうでなくしても大変よ。
下着が足りないわ。もう2枚ずつ入れてくれる?
それで背嚢に詰めてみて。入らないようだったら、また呼んでちょうだいね」
お母さんはバタバタと台所へ戻っていった。
詰め込んでみると4つ余った。
「もっと隙間をなくして詰めないと入らないよー」
チーニーに手伝ってもらってなんとか詰め込んだ。あとでお母さんが持ってみて、重さのバランスが悪いと言って詰め直していたけど。
「次は部屋の片付けと掃除なんだ。僕は引っ張り出したものをしまうよー。チーニーは終わったところから拭き掃除してくれる?」
「任せてー、雑巾と桶借りてくるねー」
引き出しや棚はスカスカなので、しまい場所はいっぱいあるけど、畳んだり並べたりがちょっと面倒だ。
チーニーが棚を拭き始めたので、急いで出しすぎたものをしまって布を洗濯かごへ持っていく。
「あら、部屋の片付けがもう終わったの?」
「チーニーに手伝ってもらったから」
「じゃあお昼まで遊んでおいで」
「うん」
お昼に寄るとチーニーのうちも準備を始めていてそこでお別れをして来た。
「うちは明後日出発なのよ。パックのとこは明日ね、気を付けて行ってらっしゃい」
とミレルさんがお別れをしてくれた。
お昼に家へ戻ると中はすっかり片付いていた。
「お帰り、パック。ご飯、できてるから食べましょう」
お昼はパンに煮物とサラダ、いつもの定番メニューだった。
「ここも明日の朝ご飯とお昼のお弁当を作ったら片付けちゃうから、夕飯はそこの焼肉屋さんにいくわよ」
「たまには外のご飯のいいもんだな。片付けがないのがありがたい」
父さんがそんなことを言っていた。
ご飯の片付けを3人でやって食休みを少ししたら、馬車に荷物を積み込んでいく。
馬は明日の朝に連れて来てもらえるので、馬車の支度だけ自分たちでするのだ。馬車は昨日のうちから来ていて、お父さんが大きいものを先に積んでくれていた。うちは食器棚と作業テーブル、農具に1週間分の食料、薪くらいだけど結構な量がある。
これに今使っている生活用具を積んでいく。台所用品、湯浴み用具、薬草などの常備薬、仕事着、雨具、荷運びのカゴなどなど。今夜使う布団や洗面用具は朝に積み込む。
大きな家具は向こうの家にあるはずだが、行ってみなければ分からない。一応去年と同じ家が割り当てられているけど、荒らされていることも稀にあるそうだ。そんな時は追加の物資が来るまで我慢することになる。
夕飯は昼の話の通り焼き肉屋で食べた。味付けが濃くて美味しいのかよくわからない。他にもお客さんがいて賑やかだった。
隣の席の男たちがダンダンダダンと足を踏み鳴らし歌い出す。
「ヤー、ハッ、教会で出会った可愛いブルネット
可愛い笑顔を見せておくれ
シャーラ・ララ・ラ・ララ・ラ
ヤー、ハッ、酒場で出会った綺麗なキャロティ
素敵な夢を見せておくれ
ジャール・ルル・ル・ルル・ル
この世界には ヤー、ハッ
いい女は山ほど居るさ
だけど俺に見合うほどの女はお前一人さ
ヤー、ハッ ヤー、ハッ
俺の方だけ見ていておくれ
シャララ・ララ・ラ・ララ・ラ
いつか俺を振り向いておくれ
シャララ・ララ・ラ・ララ・ラ」
お母さんも珍しくお父さんと二人でお酒を飲んで一緒になって歌い笑っていた。僕もちょっと楽しかった。
「ほらー、二人ともー。うちに帰るよー?
父さん、足元気をつけてよー。ふらふらじゃないか、飲み過ぎだよ。お母さんもちゃんと歩いてー、もう少しでお家だから、ほらってば。玄関に着いたよー。
ちゃんとベッドまで行ける?」
なんとか服を脱がせて寝かしつけたら、僕もぐったりだよ。
「パック、朝だぞ。朝ご飯食べてしまおう」
「うわっ、父さん、元気だねー。夕べのこと覚えてる?」
「ああ、昨日の焼き肉は美味かったな。みんなで食うのは久しぶりだ」
「帰りはどうだった?」
「帰り?あー、どうだったかな。……よく覚えてないな。馬が来るまでに準備せにゃならん。お前も急げ」
出かける格好をして、着ていたものは向こうで洗うので袋へ入れる。朝ご飯を食べたら布団やら最後の荷物を積む。なんとかお母さんと二人座る場所があるようだ。父さんは御者台に座るから数には入っていない。
そうこうしていると馬が連れてこられ馬車に繋がれる。
これから僕たちは地下の環状筒に乗って夏の家の近くまで行く。
そこからは馬車だ。移動中の食糧と護衛は領主様が出してくださるし、必要な補給もしてくださる。でも領主様も余裕があるわけではないので、そこまでだ。去年も移動中の野営は4回。それも地べたで雑魚寝だったっけ。
大門から12家族の馬車が入って行く。中は四角い地下の通路で馬車が余裕で通れる。寄せれば行き違いもできそうだ。
奥の突き当たりから左右に分かれて並ぶと、少しして引率のテモンドさんが合図をした。
みんながガヤガヤと話しているので、筒がスルスルと入って来て止まるまで気が付かない。低い間仕切りと筒の壁が開き馬車が筒の中へ入った。15台全部の馬車が入ったのか、扉が閉まって筒が走り出した。中は黄色の灯がどこからか照らしているが、窓の外はこちらから漏れた光でぼーっと見えるだけだ。途中、一瞬灯りの反射が揺らめいたような気がしたがまた元に戻ってしまった。
だいたい2ハワーで降りると聞いている。
のんびりしていると、テモンドさんがもうじき着くぞと怒鳴っている。ここって狭い中でみんなの話し声がずっと反響して聞こえる感じで、指示が聞き取りにくいのだ。
筒がグッと遅くなって、止まった。
筒の壁が外の低い間仕切りと一緒に、ニューっと開く。
ここから馬車の移動が始まる。先頭の2台と殿の1台は首長様がつけてくれた護衛8人と食料だ。間に12家族の馬車が挟まる形で隊列を組む。
護衛は夏の村まで付いて来てくれる。問題がなければ次の移送の任務のためケルヤークに一旦戻るということだった。
父さんの話では毎年4グループの移送をやっているそうだ。
着いた中継地は禿山の高台だ。毎年他にも3グループがここで薪にする木を切り倒すので、周囲がすっかり坊主になっている。
今年も4、5本の木が道中の薪として必要なので一度奥へ入っていく。
もちろん帰りも家で燃す分を採って行くつもりだ。ある程度切り分けると、それぞれの馬車に括れるだけ括って出発となった。
だいたい2ハワーごとに休憩を入れながら、夏の村を目指し馬車は走る。草地を見かけると寄って飼い葉を刈りそれぞれの馬車の屋根に積む。水場は途中に1箇所あるので、迷ったりしなければ心配ない。
4日目、昼の休憩からはもうすぐだということで休憩なしに走っていた。村が見えて来た。遠目に特に変わった様子がないので、ホッという空気が流れる。
これから秋まで僕らはここで畑を作って、3回やってくる運搬隊に農作物を渡すのだ。
去年使った家へまっすぐに付け、中を改める。
何かあったらすぐに報告しないと、補償も補給も受けられない。僕は自分の部屋を確かめる。お母さんは他の部屋全部、お父さんは農具納屋や畑をぐるっと見に行った。
窓から誰かが入ったようで足跡があった。お母さんのところへ報告に行く。
「誰か僕の部屋の窓から入ったみたいだよ」
「何か壊れたものとかはどう?」
「それは無かったよ」
「お父さんのところへ行って相談しましょう」
家を出ると引率のテモンドさんと護衛の人が二人近くにいたので、そちらへ向かう。
「テモンドさん、誰か家へ侵入した跡がありました。見てもらえますか?」
「なんだと?いつのものか分かるか?」
「この子が窓から入った足跡を見たと言っているのです」
「そうか。中を一通り見てくるからここで待っていなさい」
護衛を一人残しテモンドさんは二人で家へ入っていった。
父さんが見廻りを終えて戻って来た。足跡の話をすると、護衛の人には自分も見てくると言って家へ入っていった。
ずっと待ってるのにもう随分な時間が経っている。なのに、誰も出てくる様子がない。
「どうしたんでしょう。うちの人が入ってからも誰も出て来ないわ。何かあったんでしょうか?」
「ふむ。いくらなんでも遅いな。私が見てこよう。万が一ということもあるので、中央広場の護衛隊に知らせてくれ」
「分かりました」
お母さんは顔を蒼白にして、僕の手を引き中央広場へ向かった。
「家で窓から侵入した足跡を見つけたんです。テモンドさんと護衛さん一人が入った後、うちの人も中へ入ったのですが出てこなくて。もう一人の護衛さんに言われて、ここへ知らせにきました。今その方は家へ調べにいってます」
「そうか。それはおかしいな。よしここにいる5人で向かうぞ。装備を確認しろ」
「「「「装備、確認しました」」」」
「では奥さん、我々が見てまいります。ご心配なきよう。行くぞ」
40メニほどして護衛隊の5人が隊の馬車で戻って来た。
「申し訳ない、奥さん。気を確かに持っていただきたい。中を調べたところテモンド以下2名とご主人は家の中で殺されていた。家中を捜索したところ3人の足跡が確認できたが、犯人は逃げたようだ」
「ええっ、そ、そんな………」
「そ、そんなの、ウソだ!」
「あ、パック!」
「おい、止めろ」
護衛たちが動き出した。それを見て僕が馬車のかじ棒の下を潜り抜けたため、馬が驚いて竿立ちになった。広場の混乱を後ろに、まっすぐ家にむかって走り出した。
家へ飛び込むと真っ先に入った居間が血塗れだった。吐き気を抑えて見回すが遺体がない。家中の部屋を片っ端から開けて回るがそれだけだった。
あと見る場所といったら畑と納屋くらいだ。
畑を見回すがまだ雑草すら刈っていないので見晴らしは良くない。納屋から先に見ようとそばへ行くと4人の遺体があった。上半身に筵をかけてあるが、右端のズボンを見て父さんだと直ぐに分かった。
信じられない気持ちで恐る恐る右から筵をめくる。
どう見ても父さんだった。隣にテモンドさんが見えた。
それを見て糸が切れた。
「うわぁーーーーー」
いつの間にか護衛さんが二人来て何か話しかけているが、何を言っているのかまるで分からない。
しばらく周りの景色や人が歪んで移り変わるように見えていたが、やがて何も感じなくなった。
………窓が開いている。日の光が眩しい。
「パック、ご飯を食べようね。ほらあーん………」
………前で子どもが畑の手伝いをしている。下を向くと次々と雑草を引き抜いく手が見える………
………重い野菜の入った箱を何人もの人が運んでいる。目の前の下に抱えられた箱が揺れている。前に馬車が現れ、箱が持ち上がると中から手が伸びて来て箱を持ち去った。馬車が右へ消えて行く………
………声がきこえる。「パックのやつ、返事はしないが言われたことはやるんだ。おやじを亡くして魂がどっか行っちまったんだな。邪険にして……」何を言っているのか分からない…….
………誰かの手が雑草を抜いている。雑草は途切れなく生えているので、いつまでも抜き続け………
………「パック、ねぇ、聞こえてるの?あんたまでこんなに……」なぜこの人は泣いているのだろう………
………ガタガタと遠くで音がする。「……収穫も無事終わって、これで俺たちは帰れるんだなぁ……」木の壁に開いた窓も景色もひどく揺れている。途切れ途切れに聞こえる会話と一緒にいつまでもガタガタと揺れる………
………何故か肩が痛む。日差しが熱い。何度か風景がひっくり返ったがゆらゆらと揺れながら動き出した。ゆらゆらゆらゆら………
………身体中がなんだか痛い。右の方は真っ暗。左は眩しい。ゆらゆらと変な景色だ。ぐにゃりと揺れて地面が目に迫って来た。また暗くなった………
………知らない女の子の顔が見える。何か言ってるがわからない。水が口の中に入って来たので飲み込んだ。ここはどこだろう………
………ぼんやりと灰色の世界だ。「……あなたのお名前教えてくれるー?………」名前ってなんだろう………
………薄暗い天幕をぼーっと見ている。「……目が覚めた?あたしはアリスだよ。スープがあるか……」
スープってなに……唇に何か付いたので舐め取って………
この世界を舞台に30年前という設定で
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エイラの物語を投稿しています。
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