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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第9章 ヤルクツール
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5 下宿屋・・・ミット

 これまで:ヤルクツールのお祭りを満喫する一行。ニックの家の上階は下宿屋をやっているので短期で部屋を借りる事にした。

 ここはシロルに任せてアリスを上へ連れてくよー。シロルに上を指して見せると頷いた。


「ここがレントの部屋ー。間取りも広さも一緒だけど、この部屋は狭く見えちゃうよー。あたいたちは3人一緒の部屋だよー。景色がキレーだよー」


 でっかいドアを開け中へ入るとベッドが三つ並んでいた。


「広いね。へー。わ、山がそこだー。あの山脈が綺麗に見えるね。あ、本当だ、右は大通りの方まで見えそうだね。左は路地で曲がってて見えないね。へえー、いいじゃん!」


「でー?なんか作って売るのー?あたいは面白いから売り子やるよー?」

「ハサミムシの殻がね、邪魔なんだよ。少し減らしたい。ミットとレントが面白がって狩るからお肉もシロルが余しちゃったし」

「あははー、ごめんって。それを全部加工して持って来たアリスとシロルも大概だよー」


「だって、もったいないないでしょ。食べ物だよ?」

「えー?カエルとかナメクジの皮はー?あ、鹿とか熊の皮も売ろうよ。ウサギにイタチ、タヌキも」

「あー、皮もいっぱいあったね。甘味料(グルコース)もだー」

「倒した木はみんな回収してたもんねー」

「「あははははー」」


「クロに殻を運んでもらうよ。何作るか考えといて」

「あいよー」


 おっきな箱に熊の毛皮と骨ブロック、殻を詰めて、太い殻の円筒を1本載せて持ったクロが上がった来た。テーブルの横に置いてもらう。あたいが手を振ると頭をひとつ下げて降りていった。


「クロミケも喋れたらいーのにねー」


 少ししてシロルがアリスと上がって来た。


「お肉はどうなったー?売れそうー?」

「うん。お肉は250キル10万シルで話が付いた。ニックがレゾコが欲しいって。お日様ハツデンとレゾコだとハイエデン価格が11万シルだからね。灯りとマノジェルの仲介をやってもらおーかと思ってる。お祭りで売る商品も任せるつもりだから、ミットが売るんならニックからお給料もらってね?」


「あたくしはこれから仕込みに参加してきます。ここのお台所は広くて調味料も結構あるんです。(かまど)なのが難点ですが仕方ないですよね」

「うーん、バッテリもデンネツキーも別に作る分の材料は今ないね。この街、南がチューブ列車の駅らしいから、デンシブヒンがあったら作れるよ。ここの借金がまた増えちゃうけど」


 そう言ってアリスは虫の殻(キチン質)で棚と箱を作り始めると、シロルが階段を降りていった。

 棚の下に3つの箱を置き、1メルちょっとの網のような棚の上に骨ブロックと熊の毛それに虫の殻(キチン質)を並べた。手の中で変換マシンを構成して左端の材料の山に振りかけた。


「この箱はカップだね。赤青水色黄色緑とピンクの6色の猫カップができると順に下に落ちるよ。次は(くし)にしようか」


 あたいは昼間買ったピンクのウサギの土鈴(どれい)を出してアリスに見せた。カランと澄んだ音が鳴る。


「こんなの買ったんだー。どうだろー?ぬいぐるみにしたいんだよねー」

「あ、可愛い焼き物だね。いい音が出る。殻では作れないかな。

 ぬいぐるみの大きさはどうするの?」


 櫛のマシンを構成しながら、アリスが聞いてくる。


「ちょっと大きめで背丈25セロかなー?ピンクの生地ってあんまりないんだー」


 カランと音がしたので箱を見ると、赤い猫カップが1個転がってる。アリスは櫛を終えて、髪留めに掛かっている。虫の殻(キチン質)って事はパクンと髪の毛を(くわ)えるタイプだねー。あれは弾力があるから付けるのが簡単だし飾りをおっきくできて、華やかになるんだよー。


「ピンクでなくてもいいんでしょ?薄い茶色とかは?」

「茶色の生地はいっぱいあるけどー。あんまり可愛くないからねー。タオルみたいな短い毛が生えてるといいかなー?」

「毛並みみたいな感触の生地って事?面白いかもね……あーあるんだ。材料は?

 ……綿の布地の織り方を変えるのか」


 カシャン。

 今度は赤い櫛が落ちたねー。この赤も透明感があって浮き立つみたいだ。ホンソワの剣に色を付けてからアリスの付ける色味が変わったよー。


「これで3種類の商品が放っておいてもできるよ。朝までに500近くずつできるかな?

 ミットー、茶色の布出して」


 受け取るとアリスがテーブルの上に畳んだ布を4枚重ねて置いて上からささっと撫でた。

 見ているとふわっと布が持ち上がっていく。


 カシャシャーン。

 髪留めが一つ落ちたねー。赤い大きめの花が付いてる。あれ?四角と丸の飾りもあるね。同じ赤だけど模様っぽいのが入ってる。あー、飾りだけ簡単に取り替えられるのかー。へー。


「これいいねー、飾りだけ取り替えられるんでしょー?色違いでも買えるようにしたらみんな喜ぶよー」

「でしょー?ずっと考えてたんだよ。おんなじ飾りじゃ飽きちゃうし、着る物に合わせて変えたいもんね」


 カラン。青いカップが落ちたねー。もしかしてこんな調子で一晩中ー?


「ねー。これクロに見てもらったほうがよくなーい?朝までも作るって言ったよねー?こんな音してる中で寝られるー?」

 アリスー、何そのやっちまったーって顔ー?


 一回止めて箱を一つずつ持って階段を降りると、クロを呼んで残りの運び下ろしを頼んだ。箱に簡単な蓋をして一個できる度に中へしまってもらう。そうしないと近所中にカラーンとか(ひび)いちゃう。屋台からも(ひさし)を出して夜露から守るように(おお)いをつけた。


 部屋に戻ると布を見てみた。半セロの短い毛がびっしりと並び、なかなか手触りがいい。


「これなら抱いても撫でても気持ちいいねー」

「じゃあ、裁断(さいだん)縫製(ほうせう)の印をしちゃうよー」


 あたいはすっかり楽しくなって中綿を詰める手前まで縫ってしまった。おかげて朝が眠いー。


 お祭り1日目だからねー。レントを中央広場に置いて、ナイフ投げ会場でアリス、シロルと別れた。


 予選が2日って何するんだろーね。

 初日は向こうまで渡りきれない人を振り落とすだけだった。4本の綱を棒を持って次々と挑戦する人達。

 自信のある人は10メルの綱を命綱付きで渡る。上の細いローブに鉄の輪が掛けて掛けてあって腰に巻いたロープでその輪を引きながら綱の上を歩く。落ちると梯子をかけて降ろしてもらいそこで終了。渡り切ると次の人が逆に渡って戻る。

 あたいは下の低い綱が空いた隙に、棒なしでさっさと渡って認めてもらった。これで今日は終わりだから他を見に行けるー。


 ナイフ投げは出場人数が綱渡りほど多くないけど、簡単に振り分けることも難しいねー。

 それで対戦形式で全員に投げさせて振るい落としていた。20点以下は失格ー、とかにすると早く終わり過ぎちゃうんだろうね。

 的のそばは危険地帯だからって、号令に合わせて5本投げて全員が投げ終わったら一斉に点数確認とナイフの回収ってかんじで、3人で判定してるのもあって時間がかかるねー。アリスとシロルは1回目を勝ち抜けたってー。

 午後からもう2回やるらしい。取り敢えずここはいいので、レントを見に行こう。


 中央広場は人でぎっしりだった。屋台はまだやってなくてお店の準備してるひとと、見物も居るんだけど出場者で半分埋まった感じー?囲いの中に片っ端から10人放り込んで、負けてない人が3人以下になったら終了。あのおっきいレントがどこに居るのか、わからなかったよー。

 あたいたちは大きい方じゃないからー。


 一回、ニックの食堂に戻ることにした。朝、顔合わせをしたばかりのエマちゃんが、台の上に夜の間にクロが用意した商品を並べていた。小売値は一つ150シルだから、頑張って売ってねー。

 朝には400ずつでニックに卸したけど、クロはもう200ずつの追加を作り続けている。


 ニックは食堂の仕込みと平台売りの準備でテンテコ舞いしてた。

 この街の店はどこもそうだけど看板が小さくて何を売ってるのかわからないんだ。あたいはニックとおっさんに話して[サモック食堂]の大きくてカラフルな看板を出すことにした。

 虫の殻(キチン質)で2メル幅6メルの一枚板に、薄い緑地の上を踊るような赤文字で描いてみた。右隅に大きく厚切り焼き肉の絵が付いてるんだ。

 あたいが下絵を描いてアリスに作ってもらった看板は、平台の上にクロがドーンと掛けたよー。クロにはついでに日除けのテントもその下に付けてもらった。


 看板が出ると遠くからも見えるせいか、平台の前に人だかりができる。売る品が3種類だけだし女性、子供向けなので半分はそのまま散っていったけど、残った人だけでも大変な人数だった。あたいも売り子、手伝うよー。


 どんどん(さば)いてるんだけど人が減らない。アリスとニックも売り子にまわっている。買った友達に聞いてきたと言っている声が聞こえたから、これは売り切れて閉店だねー。


   ・   ・   ・


 ひぃーー。つっかれたよー。お昼まで持たなかったよ、品切れー。


「明日もやりますので、あらためて来てくださいね」


 うーん。エマちゃん、商人の子だけあってプロだねー。アリスが足を引きずるようにクロの生産ラインを倍にしに行った。午後のナイフ投げ、大丈夫かなー。


 平台を仕舞い終わった頃レントが戻ってきた。


「レントー、どうだったー?」

「まだだ。ずっと待ってたんだが、少し遅れが出たんで午後からになったよ」


「アリス達も午後2試合あるんだー。レントの応援に行ってあげよーか。そのあとで一緒にナイフ投げを見に行こー」

「構わんが、ここの店はやめたのか?」

「売り切れー。また明日だよー」


 食堂からトレイに賄い飯を貰って3階でご飯ー。昨日より美味しいね、シロルの手が入ったからだと思うよ。


 ご飯の後はウサギに綿を詰めて口を閉じた。後は目と口を付ければ完成だけど、そろそろ出る時間だ。


「レントー、行くよー」

「お?寝てたよ……ふう、行くか」


 中央広場は参加者が減ったので少し歩きやすい。屋台に群がる人がいる周りだけが混んでいる感じだが。レントが左奥の列に入って並んだ。戻ってきたときは、こっちを通らなかったから探せなかったんだねー。どいつもおっきいねー、ケビンを連れてきてもきっと小さく見えちゃうよ。


 午後の1試合目が始まった。

 10人が囲いの中で牽制(けんせい)し合うように立つ。薄く取り囲む人達の応援の声が掛かる中、審判の始めの声が響いた。小柄な男がいきなり隣を蹴り上げた。(あご)に入ったようでそのまま沈む男に見向きもせず、蹴りの反動で向きを変え反対側で組み合った後頭部へ蹴りを放つ。

 蹴られてガクッと膝を突く頭上を超え、戸惑うその相手に膝蹴りが襲い掛かる。が、咄嗟(とっさ)に払いのけられ体重が違うので脇へ飛ばされるところを、空中で身を(ひね)り足で着地した。

 小柄と言っても2メルくらいはあるのに、あんな速さで動けるんだー。

 感心してみていると背後からもう一人駆け寄って殴り掛かる。挟み撃ちだけどどうするのかな?


 左膝を曲げて身体を左に沈め、どうやったのか右足で背後の男の足を払った。

 ちょうど右前から殴り掛かる正面に倒れ込む形になり、そのまま(もつ)れるように二人とも倒れてしまった。

 こいつ、一人で4人、倒しちゃったよー


 4人残っているのでまだ終わらない。1対1の格闘が2箇所で始まった。小柄の相手はやっぱりでかい2メル半、横幅もあるから捕まったらおしまいだねー。相手が大きく両手を挙げ上から掴み掛かる。サッと前へ出て両の脇の下を全身のバネで突き上げた。ガッ!


 今の音は顎を頭突きでかち上げたみたいだねー。

 (たま)らずふらふらと退がる相手に更に飛び込み、腹へ拳が突き刺さる。ちょうどお隣も勝負がついたようで2人勝ち抜けだ。面白かったよー。


 さあ、次はレントだ。ワクワクするねー。


「レントー。やっちゃえー」


 軽く右手をあげて応えたよー。いっけいけー。


「始め!」


 みんなが一斉にレントに駆け寄った。左右の奴が少し早いね。レントが膝を曲げたと思うとクルリと回る。左右の4人がふっとんだ。一人が他を巻き込んで5人撃破だよー、今のどうやったのー?

 動きの止まった一瞬に二人が腹に抱きつくように飛びかかる。その頭越しに2本の蹴りが飛んだ。腰を落としたレントが空中の蹴りを一つたたき落とす、その動きでもう一つの蹴りは的を失い空振る。

 腹に組み付いた二人が足をかけレントを押し倒そうとするが腰を落としたレントはビクともしない。空中戦は終わっているので二人の背中に重たい肘を打ち下ろした。しがみつく左の男を腕一本でベルトの辺りを持って投げ捨て、残りを蹴り()がす。

 空中で蹴りを空振りした男と二人、勝ち残りとなった。


 名簿に勝ち残りを記入してもらうと、明日からは対戦形式だと告げられた。対戦表は明日の朝貼り出すらしい。


「アリスたちを見に行こー」


 西の出口を振り向くと人の壁があった。うえっ、と固まっているとレントが

「抱えるがいいか?」

「それなら肩に乗せてよー」


 あたいは右手でレントの頭を抱えて肩に座った。3メル半の高さだよー?屋台の向こうの街道も見えるよー。レントが進むと掻き分けるまでも無くザワザワっと道が空く。目の高さにはゴツいベルト金具(バックル)があるんだから、そりゃそーだよねー。

 街道に出たのであたいはさっさと飛び降りた。広場を振り返ってぶつぶつ言ってるレントに声を掛ける。


「さあ、行っくよー」


 ナイフ投げの会場は見物人の壁で塞がっていて、街道の右側まではみ出ていた。アリスとシロルが街道の左側に他の出場者らしい人達と話をしているのを見つけた。


「アリスー、シロルー。どうだったー?」

「やあ、ミットー。レントは終わったの?」

「ああ、勝ち抜けた。対戦表は明日の朝だそうだ」


「こっちは順調だよ」

「アリスさんたちのお知り合い?すごいんですよ。ほとんど真ん中に当てちゃうんです。こんなに安定して投げられる人たちは初めて見ました」

「あ、赤い投げナイフ買った人だよねー?サモック食堂で取り置きしてるからー」

「はい、今夜にでも寄りますのでお願いしますね」

「なるほど、15メルではそんなものだな」

 ボソッとレントが言った。洞窟から旅の間に何度も見てるからねー。


「次はいつなのー?」

「まだ1ハワーくらいあるよ。北の方を見に行こうか?飲み物とか売ってないかな?」

「広場の屋台に何軒か飲み物があったが、近寄りたくはないな」

「まあ、ブラっと行ってみよーよ」


 広場を過ぎて少し行くと緩い登り坂になっていた。ゆっくりと右へ曲がっている道が門に突き当たる。手前に茶店が1軒、串に刺しただんごのようなものを売っているようだ。振り返ると広場を見下ろす感じでいつの間にか結構上っていたらしい。

 茶店に入り4種類ある団子とお茶を頼んだ。

 団子はほんのり甘くて思ったより美味しい。シロルが4個刺してあるうちの端の半分を囓り取って味見している。みんなで一口ずつ味見して残りはレントに行く。レントは追加でお茶と3本の団子を頼んでいた。気に入ったのかなー。


「この奥って観光地だって聞いたけど何があるの?」

「大昔、何百年か前にチューブ列車というのが走っていたんだそうでな。その乗り降りでこの街が栄えたんだそうだ。いまは中が真っ暗になっててな、危ないんで300メルのところに柵がしてあるよ。

 見るものといえば綺麗な形の通路だけだが、珍しいのは確かだな。突き当たりの丸い洞窟も松明で見えるぞ」


 あたいは思わずアリスと顔を見合わせた。


「門が閉まってるけど、どうしてですか?」

「祭りの間はこっちに裂く人手が足りないんだ。競技の世話や迷子や救護(きゅうご)に引っ張られちまうからな」


 へー。これは夜にでも遊びに来よーかー?


「そうですか。お代はいくらですか?」

「600シルだよ。またおいでなさいよ」

「「「ごちそうさまー」」」



 ぶらぶらとナイフ投げ会場まで戻ったけど、もうちょっと待ちかなー?緑地の方をふらふら見て歩いていると後ろから集合が掛かった。


「予選3回目をはじめます。出場者はこちらへ集まってください。

 応援の方は一旦お下がりください」


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