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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第9章 ヤルクツール
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2 沿川・・・ミット

 これまで:西の内海から跳ばされたアリス一行。馬車を不整地仕様に組み直し湖から川沿いに下って脱出を図る事にした。

 パルザノンの奥へ魔物狩りへ出かけたあたいたちだったけどー、内海の右側じゃいい獲物を楽しく狩ったよー。けどそれからが大変さー。

 アリスが言うには、1000ケラルもよく分かんないやり方で飛ばされたらしいー。パンセラとも(はぐ)れちゃった上に、道のない1000ケラルだよー?たまげたねー。

 おっかしーのはあの時感じた色のついた渦みたいなの。なんだろう、馬車とパンセラの気配はあった。パンセラと脇を通った岩山が歪んだような?よく分かんない。


 それで今は川沿いに3メル幅の道を作りながら移動してるんだー。この乗り物(フセーチ)は馬車を改造した奴でミケが専属で運転してるー。あいつの頭と腕が前についてるんだよー。ちょーっと退屈だけどー、シロルがいるからご飯おいしーし、たまにはこー言うのもいーよねー。


「チズがやっと更新したね。ここんとこ、かなり山に食い込んでるよ。この先の絵が来たら行けるかな?」


 午後の休憩で移動した分が少し追加されたチズを見てアリスが言ってる。山脈ってのを超えるんだって。でも今の話の場所って180ケラルも先だからねー。


「まー、急いでないから別にいーよ。川は海に出るんだから、最悪は船を作れば帰れるってー」

「ミットさんの言われる通りであるな。焦ってみても仕方あるまい」


 レント(レントガソール)貴族(伯爵三男坊)の地がたまに出て、フラクタル(ホンソワール男爵)みたいな喋り方になることがあるんだー。


「それより、そろそろ野営場所を考えないとねー。あ、この先に河原があるよー。フセーチ、走れるんじゃないかなー?広そうだよー」

「うん、この辺から降りようと思ってた。けど野営は川から一段高い方が安心だよ?」

「うむ。上流で雨が降ると水嵩(みずかさ)が急に上がる場合があるな」

「じゃあ、降り口作って水遊びにしよーよ。美味しーのがいるかもー?

 あたいは先に河原へ行ってるよー」


 クロと先行して偵察ー。クロが(やぶ)を切り拓いて少し見通しをよくしてくれた後を、あたいが付いて行って索敵と地形の確認、状況が悪ければアリスに連絡。後ろからレントが木を切り倒してそこをアリスが道に変えるって流れでずーっとやってきた。

 うんと太い木は避けて行くし、たくさんある時は伐採(ばっさい)を手伝いに行くけどそんなのは滅多にないー。


「クロー、河原が見えてきたからちょーっと左に寄せるよー」

 あたいが指を差すと、目標の方角をクロが覚えてくれる。


「おっきな木が2本、邪魔(じゃま)だから切っちゃって」


 こうやって出来上がった道が長くなると、走りやすいもんだから後ろから鹿だの、アナグマだのがたまに走ってくるよー。それで珍しいのが来た時はシロルが狩って、夕飯に出てきたりするんだ。


 河原から2メルあたりになると川の水で(えぐ)られるのか、斜面の(すそ)がストンとなくなってるので上の木からロープ を垂らし飛び降りた。


 20メル以上も幅のある石だらけの河原がずっと先まで伸びている。山裾は岩盤が出ているんだね。上流側も狭いけど河原がある。でも対岸は水からいきなり15メルもある岩の壁になっている。岩壁には穴がいくつもあって鳥かな?巣があるみたい。

 下流に歩いてみよう。ガラガラと角の丸い石の混じる河原を少し歩くと、右の山から水が落ちてくる場所があった。水が落ちる場所は3メルのお椀型に(くぼ)んで、澄んだ水が溜まっている。中には7セロくらいの小魚がたくさん泳いでいるね。


 呑気にヒラヒラと泳ぐ魚を見てたら背中に剣呑(けんのん)な視線が来るねー。

 右の(かかと)を中心にクルリと回る。波立つ川面(かわも)に場所はだいたい分かるのに、目で見つけられない、あれかな?よくみるとあの辺だけ波の形が変だ。目が二つ、あたいをじっと視てるねー。ワニかな?ちょっと(おど)かそうか。


 弓矢を抜いて一挙動(いっきょどう)で鼻先に射込むと大きな水飛沫(しぶき)を上げ水中へ潜って行った。


 どーだー。驚いたろー。

 この魚はシロルに聞いてからでもいーや。

 フセーチが降りてきて石の上を走り出すとうるさいからねー。今のうちに獲物がいるかみておくよー。


 30メニ歩くと右の岩盤に窪み発見ー、覗いてみよー。狭いけど結構深い?長い紐を付けて灯りを放り込んでみる。

 途中までは岩の反射が奥へ走っていくのが見えたんだよ?

 それがひとつ弾んだ後パッと消えちゃった。穴にでも落ちたかなー。

 紐を引いてみると5セロくらい引いたらびくともしないよ。引っかかったー?

 3回ビンビン引いたら紐が切れたよー。残念ー。あとでアリスに謝って作ってもらおー、と思った時だよー。なんか居る。

 あたいはパッと穴から離れるように飛んだ。


 穴から何か滑るような動きで出てくるねー。

 あー。白ヘビだね、これはどっちかなー?

 ケルヤークで遭ったやつは期待外れだったからねー。

 鎌首を2メル近くも持ち上げた太い白ヘビ、背中が緑色ー!ニイっと笑うように薄く口を開け、赤い舌をシュルシュルと出し入れする。これはきっとアレだよー。


 軽い双剣を抜いて顔に切り付けてみる。

 キンキンキン!


 傷一つ付かないねー。その間にも穴から身体がどんどん出てくる。ガルツは顎裏(あごうら)を突き上げていたねー。あの剣はアリスが(いじ)る前だからそんなに切れ味は良くなかった。あたいの剣が刺さるといーなー。

 反応を見ながら後退すると、まだ出てくるのー?


 7メルかー。思ったより長いぞ、痩せてるんかな?

 頭はあたいの方を向いたままそこを中心に右回りに身体を巻いて行った。見る間にトグロを巻き首を揺らす白ヘビ。

 それは防御の構えだよねー?あんたから見たらあたいなんてずっと小さいのにご苦労な事だねー。でもあたいはひさびさに逢ったから皮が欲しいんだよ?

 シャシャーー!


「なんだいー?あたいがあんたをいじめてるって言うのかい?そんなに怯えて」


 あたいはすっかり毒気を抜かれちゃったよ。

「ふう」


 ゆっくりと後退(あとじさ)るあたいに背後から大きなものが襲いかかった。こいつはアホだね。


 考えるよりも速くあたいの体は宙を舞っていた。

 足元に大きく口を開けたワニが滑り込んで来る。何も無い空間にバクンと閉じられる口を見ながらあたいの体が降りて行く。左手の剣を手離し右を振り上げ両手で持つ。地面に両足が()んだ瞬間、あたいの剣が分厚い皮で(よろ)われた首へ振り下ろされた。


 ドスンと重い手応えが返ってくる。骨に当たった感じがなかったね?剣は地面近くまで降りてるけど?

 ブワッと血が噴き上がった。おっとっと。こんな汚ったない色の血はごめんだよー。


 慌てて飛び退がると2メルほども離れてしまった。白ヘビは何が起きたのか分かっていないようで硬直している。


「これ、あんたにやるよー。じゃあねー」

 あたいは(きびす)を返し戻り始めた。


 20メル離れたけど、白ヘビは動く気配がない。もう10メル歩くとあたいは我慢できなくて振り向いた。白ヘビがあの2メルほどのワニを丸呑みにしていた。

 あー、小さく切ってあげればよかったかなー?

 あんなに太くなったらあの狭い穴には戻れないねー。ま、いっかー。


 河原を戻ると下りの斜路を作ってるねー。レントは釣りをしてる。行ってみよう。

 掘った生簀(いけす)に5匹泳いでるねー。お、一匹綺麗な赤いのが居るじゃん。


「この赤いのキレーだねー。美味しーかなー?」

「塩焼きでいけそうだよな。天ぷらもいいなあ」

「レントー。よだれー」

「おっといけねえ。男の格が下がるとこだった」

「なんだそれー?」


 家の事情とかかな、美味しい魚を獲ってる分にはいいや。ほっとこう。


「アリスー。白ヘビが居たよー。7メルー」

「おー、それはすごいね」

「でも痩せててねー、あたいを相手にトグロなんか巻いて完全防御だよー?ちょうどアホなワニが居たからあげてきたー。あっ!灯りをひとつ食われちゃったよー、また作ってくれるー?」


「まあしょうがないね。分かったよ」

「シロルにも用事があったんだ。シロルー。

 小魚がいっぱい居たよー。7セロくらいのー」

「あら、ミットさま、それは良いですわ。どこですの?」

「明日の朝一緒に捕ろうよ。天然の生簀でトリホーダイだよー」


   ・   ・   ・


 翌朝斜路を降りて、石原をガリゴリ踏み締めてフセーチが走りだす。水溜り前で止め、網で小魚を(すく)って締めると箱詰めー。30匹で3回分くらいかなー。まだいっぱい居るけど食べ切れなーい。


「あの穴だよー。白ヘビが居たの。ワニ飲み込んで穴に入れないくらい太くなってたから、どっか行ったのかなー?」

 指差してアリスに教えていると斜面の上で何かこっちを見てるのが居る。邪魔(じゃま)しないならいーけどねー。


 河原はガタガタ揺れるは、バキガキうるさいは、だけど速いよ。1ハワーで20ケラル近く進んでる。ついていける速さじゃないのであたいとレントが交代で先頭の椅子に座る。アリスが暇に任せてトーメイ板で囲ったのでまるきりの吹きさらしではない。ミケも見てるから居なくても良いようなもんだけどー。



 お昼は天ぷらー。小魚の天ぷらは美味しいよー。新鮮なうちに食べないとねー。


「このペースで走るとチズの範囲を一日で出ちゃうね。見える限りじゃ山越えできそうなところはないけど、どーしようか?」

 お昼ご飯の時にアリスが言い出した。


 この辺の地形は右手は高台になっていてそんなに起伏がない。右に行きたいんなら喜んで行くとこだよ。

 左は相変わらずの山脈の縁を削るように流れる川。こちらへ突き出ている山並みがいくつも見えていて、あれをいちいち越えるのは大変だ。今のところはこの川沿い一択。アリスがしてるのはチズが無くなった時の心配だねー。


「明日の心配は明日しよーよ。海までこのまま走るのもありだよー」

「ミットさんの言われる通りだな。食料に困っておらぬのだから、なんとかなるさ」


 チズっておっきくして見られるし高さや距離が分かって便利だけど、すぐにコーシンされないし、見える範囲が狭いんだよー。アリスが言うには、一つしか残っていないエーセイも壊れてるんだって。アリスが指す星空をスーッと動いてる光の点を見たけど、なんだかわかんない代物だねー。


   ・   ・   ・


 左に見えるてっぺんの白い山は途切れもせず、もう20日も見てる。4回チズの更新があったけど細切れで役に立たない。川幅が100メル近く離れて来た。山並みも少し遠くなったような気がする。

 それで向こう岸へ渡るかと言う話になったところだ。100メルは射程距離だから橋一つで向こうの河原に渡れるし。水面から2メルもあれば良いかなー。一回渡ればいーんだし。

 アリスが河原からの登り降りも込みで100メルの橋をマノさんに計算させている。

 2ハワーかかるそうだ。一時的に水嵩(みずかさ)が上がると言うので散布が終わったら山裾(やますそ)まで退避(たいひ)だよー。お茶を飲みながら見てよー。


 40メニほどで川を横断する真っ直ぐな波が見えて来た。その波がだんだん高くなり上流側の水嵩がみるみる上がっていく。こちらの河原へも水がザザザーッと流れ込み30メル幅の河原を10メルの幅で水が(えぐ)って押し流していく。勢いはどんどん激しくなって、近くまで流れがゴウゴウと寄って来たところで川に大きな波飛沫(なみしぶき)がザバザバーッと上がった。

 真ん中の80メルの橋桁(はしげた)の下を水が抜けたらしい。みるみる水が引いて行き、元の川に戻って行く。橋桁が水面を離れた。


「むー、ここにもちっちゃい橋が要るね」

 河原の地盤が予想より柔らかかったらしい。すっかり(えぐ)られて橋に登れないのだ。


 その間にも橋は持ち上がって予定の高さになった。

 小さい橋は出来上がりまで1ハワー近くかかった。渡った先も大きく抉られていて、5メル上の地面に登る斜路も一緒に作ることにした。

 チズがないので一度は登って目で見たいし、どっちみち先へは進めないからだ。


 今日は上に上がったら野営だねー。お風呂の準備をしなくっちゃ。橋は洪水になるといけないってレントが言うので壊したよー。


   ・   ・   ・


 気のせいか左の山が低くなって来たような。白いところも減ってないかなー。手前の山陰で見えないことが多いからなんとも言えないけど。


 川はあれからどんどん右へ行っちゃったみたい。こっちは割となだらかで道を作らなくても走れる場所が多い。ただ草木が茂っているのでサーモで見ないと穴ぼこがあってもわからないんだ。毎日120ケラルくらい進むのでチズは相変わらず使えない。


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