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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第8章 魔物
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6 再戦・・・マノさん

 これまで:レントガソールの知る狩場の洞窟でミドリグモに苦戦し退却した。アリス達は準備を整え再び挑むが。

 翌朝、パンセラは驚異的な回復を見せていますが、まだ目に力がなく今日もクロと留守番が良さそうと言うのがミットさまの見立てでございました。


 洞窟の奥へ入り、陽光の(あふ)れる天窓の下を慎重に渡ります。目を慣らしながら進んでいくとやはり1本の糸が足にかかる高さに張ってありました。戦闘準備はできていますので、ミットさまが皆を見回し着火具を(かざ)します。暗い洞窟に光が走り込んで行き、シャシャーッと鳴き声でしょうか?少し遠いようです。


 動きがあるか待ちますが、こちらへは出て来ません。ミットさまが慎重な前進を再開します。

 昨日倒した大きな蜘蛛の死骸が道を(ふさ)いでいます。ミットさまが灯りを一つ向こう側へ投げましたが、付近に何かいる様子はありません。

 ミケが前へ出て右側の足を切り取りにかかります。あと2本切り取れば通れるからですが、裏に隠れているものがあればそれでわかるでしょう。ミケが足を(つか)んで短剣を根元に突き刺し、ゴリゴリと切り離して行きます。

 足2本を切り終わるとミケが前へ出て、すぐにミットさまが続きます。灯りを回収したところへ糸が3本飛んで来ました。すぐに着火具で燃やしますが、3本同時とは行きません。ミケが1本を短剣で切断し奥へナイフを投げます。


 シャーッ。

 声で見当を付けてミットさまが灯りを投げました。レントガソールさまの槍が唸りを上げて飛んで行き1匹を(かす)めました。灯りに3匹の緑色に輝く蜘蛛が浮かび上がります。槍が掠めた一匹はひっくり返ってもがいている様子。

 ミケの槍が飛び一匹を突き抜き大穴を空けました。胴の大きさで70セロほどしかない蜘蛛では殻が薄いのでしょう。

 ミケが切った糸と残っている一本の間を放電が走りましたが、そう強いものではありませんでした。やはり電気エネルギーである以上、導線と電極は必須(ひっす)のようです。


 アリスさまが残る一本を燃やしますと、2匹は真っ暗な奥へ走って行きました。


「飛んで来た糸が3本だったね。昨日は6匹いたってことかな?この大きさだと無理に詰めても4匹だよね。小さいのが混ざってた?」

「糸はお尻から出るみたいだねー」

「電撃は糸が2本ないと出せないよ。糸と糸の間で放電するんだから」

「レントー、どーしたー?」


「俺が投げた槍が……」

「ずっと奥だと思うよー?すっごい勢いだったものー。ミケのもないしー」

「先へ行こっか?」

「そーだねー」「おし」


 (ゆる)い下り坂で洞窟は続きます。左へゆっくり曲がっているため見通しが悪くなって来ました。ミットさまが灯りを先行して投げると、この先は少し広くなっているようです。槍が2本転がっていました。投げナイフも近くにあります。壁に当たってここで止まったようですね。


 ここにも糸が張ってあります。さっそく火を点けるとパッと燃え、シャシャーッと鳴く声が遠くから聞こえました。糸を燃やされると何か蜘蛛に影響があるようですね。


「次は糸が飛んでくるねー」


 確かに前2回は糸を燃やした後に飛んで来ています。ミットさまが灯りを放って様子を見ます。右の壁に4本糸が貼り付きました。ミットさまが3歩下がりました。

 バチィッ!


 洞窟が一瞬明るくなりました。それを見てミットさまが再び前へ出ると次々と糸に火を点けます。

 シャシャシャーッ!


「怒ってるねー」


 そう言って灯りを思い切り遠くへ投げました。


「レントー、ミケー、槍の出番だよー」


 2本の槍が薄ぼんやりと光る緑色(蜘蛛)に向かって一直線に飛んで行きます。

 ガスッ!シャシャーッ!


「行くよ!」


 ミットさまが走り出し、皆が続きます。

 走りながらミケとレントガソールさまが槍を投げます。狙い重視で3メル半の高さから軽く放たれた槍は、あたふたと逃げようともがく蜘蛛を捉えました。

 シャーーッ!


 倒れた2匹の向こうにボオッと微かな影が浮かび上がります。


「止まって!」


 糸が2本飛んで来ます。ミットさまが手近な一本に駆け寄り火を点けます。


「槍投げて!」


 左の蜘蛛が燃える糸に照らされ一瞬光ったところへ2本の槍が突き立ちます。


「次は右!」


 そう声をかけると身を低くしてスルスルと前へ出て行きます。シロルとアリスさまも後に続くとその2メル上を槍が飛んで行きました。こちらも突き立った槍に動きがありません。


「仕留めたよ。前進!」


 そうレントガソールさまに声をかけ、拾った灯りをさらに奥へ投げました。闇の深い右手にもう一つ。

 パッと現れた岩肌には糸が網のように貼り付いています。ここはかなり広いようで奥と上が真っ暗なままです。仕留めた2匹は最初の蜘蛛と変わらない大きさがあります。ミケとレントガソールさまが近付く間に、ミットさまが左の岩壁に貼り付く糸に着火具を(かざ)します。

 シャシャシャーーーッ!


 走る炎で一瞬に広い洞窟の全貌(ぜんぼう)が浮き上がります。50メルほどの間を開け1メルクラスが10数匹、2メルが2匹。光が強かった分沈む闇は深いですが、ミケの槍が2メルへ向かって走ります。レントガソールさまは1メル蜘蛛のかたまっている辺りへ1本投げました。アリスさまとシロルも1メルを(まと)に重い針を投げました。ミットさまは灯りをさらに2つ追加しています。


 ガラゴロッ。

 ドスーン!


 闇の中からヌッと大きな緑色の塊が現れました。灯りを反射して丸くぼうっと明るく深い緑の塊です。


「全力で槍!」


 ミットさまが叫びます。すぐに2本の槍が吸い込まれるように光の中心へ飛んで行きました。突き立った槍は身震(みぶる)い一つで振り払われました。


「ここじゃまずいね。一旦退くよ!」


 飛んでくる糸に火を点けながらミットさまが退がります。

 シロルも見え隠れする小さい蜘蛛に針を飛ばし後退しています。


「ちょっと足止めできればいいかな?」


 退がりながらアリスさまが昨日使ったカエルの焼夷剤(燃える唾)を3つに分けて作り始めます。


 先に()いた灯りを蜘蛛たちが踏み越えてきたので、シルエットとなってはっきりと位置が分かります。2メルクラスの1匹がレントガソールさまの的になりました。ミットさまは間を置いて飛んでくる糸を焼き続け、シロルが小蜘蛛を狩って行きます。


 残るは大蜘蛛と小蜘蛛が7匹ほど。主力の槍は11本。岩壁が両側から迫り大蜘蛛は横移動が制限されていますが、もう少し退がりたいところです。

 アリスさまが石壺を3つ次々と放ります。洞窟を仕切るように炎の壁ができました。半メニほどしか持ちませんが30メル近く後退することができました。


「火はすぐに消えるよ!引きつけて同じ場所に槍を集めるから良く狙って」


 2本の槍が緑色(大蜘蛛)の中心に向かって突き立ちます。


「次!どんどん行くよ!」


 槍は刺さったかに見えましたがポタリと落ちました。ですが大き過ぎて左右に動けていませんね。


 4投目が少し深く刺さったようで嫌がるように向きを変えました。足が2本右上に見えています。腹を大きく曲げてこちらに向けるようです。


「あの足の付け根を狙って!」


 アリスさまは右の壁に沿って身を低く進んで行きます。シロルも続きます。その間にも槍の投擲(とうてき)は脚に襲いかかり、1本が殻の関節部を突き破りました。

 アリスさまとシロルが大蜘蛛の下に見えた1メル程の緑の塊(蜘蛛)に向かって重い針を投げました。

 もう一匹小さい(蜘蛛)が糸を飛ばそうとお尻を向けました。ちょうど槍が大蜘蛛の足の関節を捉え、大きく動いた右の脚にその小蜘蛛が踏み潰されます。

 それを見てアリスさまが足を止め、リュックからアルミを取り出しました。太さ半セロの針金をどんどん伸ばして行き、大蜘蛛の腹の下を通し向こう側へ伸ばします。


 大蜘蛛は2本の左脚が不自由になりましたが、糸の噴出(ふんしゅつ)口を向けようともがいています。ミットさまの号令で投げ槍が腹の下側に向けられます。

 投げ槍は曲げて重なった腹の殻に弾かれました。

 アリスさまはポケットからバッテリを取り出し、岩で棒を作り始めます。棒の先端にバッテリを付けアルミ線を繋ぎます。そして長さ3メルの棒を構えさらに近寄って行きます。

 投擲(とうてき)される槍の(まと)は最初の傷に戻っていて、大蜘蛛が怒り狂ったように(わめ)いています。

 腹の噴出口まで5メル。アリスさまが棒を投げました。ごく細い棒を筋力強化で投げ、腹の先端に命中。

 ドン!


 バッテリ1本分の凄まじいスパークで、投げた瞬間に横を向いたと言うのにアリスさまの視界が真っ白になりました。


 シロルとミケの眼には煙を腹からボフッと噴き上げ、ゆっくりと下へ潰れる大蜘蛛が映っています。これではミットさまとレントガソールさまは(しばら)く何も見えないでしょう。シロルとミケを二人の補助に回します。アリスさまの目はすぐに回復しましたので治療に向かって貰います。

 シロルがレントガソールさまに低い姿勢になって貰い、その隣へミットさまを座らせます。二人の目にアリスさまがべっとりとジェルを擦り込み手で(おお)います。

 そのまま大蜘蛛に目を向けると、通路を(ふさ)ぐ死骸の上から小さい蜘蛛が顔を出し、こちらを(うかが)っています。ミケの投げナイフが飛び、難なく3匹がその場に縫い付けられました。


「うーん、これどーしよっか?」


 二人の目が回復してミケのナイフが飛ぶのを見ながら、アリスさまが見上げるような緑の壁(大蜘蛛)をあごで指し言いました。


「おっきいねー。魔石と殻を取るくらいー?

 脚とかに肉がついてると思うんだけどねー」


「レントさん。緑の蜘蛛はいつもどうしてるの?」

「胸の真ん中くらいに魔石があるからそれを取るだけだ。こんな大きいのは見たことがない。緑グモはせいぜい大きくても50セロと聞いたが」

「殻は使わないの?」

「派手な緑の毛が生えているし、形が決まっているからうまく使えないのだ。また肉を採るのか?」


「とーぜんー。脚の中と付け根はいい肉が取れそうだよー?」

「シロルにかかればなんでも美味しくなるよ?ダメなら捨てるだけだよ」

「分かった。解体を手伝おう」


 蜘蛛の殻も変形ができれば良い素材でございます。ですが肉を採ると言うことなので傷まないうちに回収するのが先でございます。脚の中身と付け根の分を片端から干し肉に加工し250キルもの量を手分けして馬車まで運びました。

 戻るとさっそくシロルが蜘蛛肉調理に挑戦します。どうやら普通に焼いてもなかなかのお味らしく、レントガソールさまが悔しがって居られました。


「食わず嫌いは良くないねー。なんでも一度はやってみるもんだよー」


 ミットさまにドヤられる始末でございました。


 午後は洞窟の片付けに潜ります。肉と殻を運び出さなくてはならないので、クロが行くことになりました。留守番はシロルとパンセラになりましたので、夕飯には手の込んだものが出てくるでしょう。



 天窓の(まぶ)しい光の手前でミットさまが止まりました。目が慣れた頃、上からチョロチョロと子グモが10数匹降りて来ます。大きさは30セロくらい、緑の毛が陽光を(まと)ってキラキラと光るさまは妖精さながらですが、何故上から?


 そのまま奥の闇へゾロゾロと入って行きました。気配が遠くなったのでミットさまが動き出し、皆が続きます。


「あのチビたちがここであんなにおっきくなったとかー?何を食ってたんだろねー?」

「ここで生まれた子が外に行ってあの大きさで里帰りとか?蜘蛛の里帰りは無さそうだね」

「この上はどこに繋がってるんだろうな?」

「レントが言ってた奥の森でしょ?チズで見るとそんな感じだよ?」

「むう。あの森の緑グモがここで出入りしてたとは……」



 広くなる辺りまで来るとバリバリと()み砕くような音がしますが暗いので見えません。サーモに切り替えると2メルの蜘蛛が一匹。まだ居たんですか?先程の子グモを捕らえて食べています。共食いですか?

 下に散らかった脚の残骸から見て2匹目のようです。

 他の子グモは見えません。槍を構えてもらい、アリスさまが灯りを放ります。浮かび上がる(クモ)に槍が3本。オーバーキルですね。

 ですが、食事中は体温が上がるのでしょうか?あんなにはっきり見えたのは今回は初めてです。


 ともあれ、回収肉が増えました。(カミナリ)魔石を取り、内臓は細く掘った穴へ落とし込み、肉と殻を分けます。まだ解体の終わっていないのが何匹かあったはず、記録画像と照合して行きます。一番奥の1メルクラスが行方不明です。

 代わりに子グモが(たか)る赤い塊があります。共食いですね。アリスさまが軽い針を投げようとして止めました。


 肉が80キル、殻が320キル。クロが居なければとても運べませんでした。


 その夜はレントガソールさまのズボンの穴を修繕するついでと言って、蜘蛛の殻で肩や胸など要所の装甲をアリスさまが楽しんでいました。


「こんな派手な緑は勘弁してくれ!俺は目立ちたくないぞ」

「身長3メルの時点で手遅れだよー」

 ミットさまが言いますと


「286セロだ!」

「あんま、変わんないよー?」

「仕方ないね。どーしても灰色?つっまんないの」


 夜は更けて行きます。


 馬車の御者(ぎょしゃ)台で(カミナリ)魔石が一番電気エネルギーに近いので、アリスさまが手の上に転がし先程から色々試しています。使い方は何かに押し付けて念じると電撃が飛ぶのだそうですが、放電するための電極がありません。


 それでも何か感じるものがあるらしく、しきりに首を捻っています。そうして30メニほど経つとパチッと青白い火花が飛びました。


「わっ。なになにー、今のー?」

「魔石の使い方がね。なんかありそうなんだけどね」


 その夜はそれ切りで、(あきら)めて就寝(しゅうしん)となりました。


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